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38 合流


 不吉な予言の直後、遠くの雷雲が凄まじい光を放ち、遅れてこちらにも轟音が届いた。


 この距離でも、私にも分かるほどの魔力の波動! もう一刻の猶予もない! 急いで向かわないと本当に間に合わない!


「お母さん! 私一人を超高速で飛ばして!」


 そんなことが可能なのか考えるより先に私はテルミラお母さんに頼んでいた。しかし、実現可能なことはすぐに判明する。

 私を包むように強風が回転しはじめた。


「あんたを風の弾丸として発射する! 本当に滅茶苦茶な速度よ、覚悟はいいのね?」


 テルミラお母さんのいつになく真剣な眼差しから、これはやばい、と本能的に感じた。

 くぅ、もう引き下がれないし、迷っている時間もない……!


「か、覚悟はできているよ」

「よく言った! しっかり魔力で体を覆いなさい。風霊はあんたの意思で逆噴射するように設定するから、目標地点の手前で指示を出すこと。ミスったら行き過ぎるわよ。じゃ、発射ー!」


 シュドンッッッッ!


 何か質問をする暇もなく、私は一発の弾丸として放たれた。瞬く間に体験したことのない速度に達し、ぐんぐん空気を裂いてさらに加速する。


 かかかかかつてないほどに速すぎる! たぶんマッハとか余裕で越えてる! と思っているうちに雷雲が近付いてきた!


「風霊! 逆噴射してー!」


 ボフッと雷雲に突っこんだ私はその中でどうにか停止。体をビリビリさせながら下へと降りていく。


 まず目に入ったのは巨大な鹿の魔獣だった。二十五メートルプールくらいの大きさがある。そして、ありえない量の魔力。黒い悪魔の正体が規格外の魔獣だったことに驚いたが、意識はすぐにキア達の方に持っていかれる。

 眼下に広がる光景に息を飲んだ。


 キア以外の全員、体が炭化してしまっている!

 ……これ、再生できるの? ……できる、きっとできるよね。無事な細胞が一つでもあれば大丈夫なはず。今まで私本人が驚くような奇跡を起こしてきた魔法だ、頼んだよ!〈ヒールワイド〉!

 降り注ぐ光を祈る思いで、いや、今回は本当に祈りながら見守った。


 ……やがて炭化した皆の体が少し膨らんだかと思うと、外側の炭が剥がれて中から綺麗な肌が。

 まるで脱皮だ! やっぱりこの世界の治癒魔法すごいな、よかったー! ……あ、服はボロボロだけど鎧の部分とかがかろうじて残っていて、全員裸にならずに済んでる。そっちもよかった。


 と胸を撫で下ろしたものの、巨大鹿が私を凝視しているのに気付いて硬直する。


 せ、せっかく倒したのに何やってんだ、って感じかな? ……あ、あんなのに攻撃されたら私も死ぬ。私が炭化したら誰が生き返らせてくれるの……。

 下のキア達を連れてすぐに逃げるべきだろうか。逃げきる前に確実に雷で撃たれるよね……。


 頭を悩ませていたその時、高速で飛来した流星が巨大鹿を直撃。激しい爆発が起こって魔獣の巨体は大地に倒れこんだ。

 魔力感知で私にはすぐに分かった。ぶつかったのは流星ではなく、全身に炎を纏った一人の少女、セレノアさんだ。


 ……助かった。敵の意識が私に集中していただけにクリーンヒットしたな。それでも、あの子だったから吹っ飛ばすことができたんだと思う。ついに火霊を戦闘で使ったし。



 ――以前、精霊についてセレノアさんと話したことがある。

 魔力の強度、つまり質の面で私達二人はとても近いところにあり、もし彼女が〈ヒール〉を使えば私同様に超回復させられるのではと思ったので。

 ところが、セレノアさんは首を横に振った。


「私は〈ヒール〉を使えないからそれは無理。私は聖霊に徹底的に嫌われてる」

「嫌われてるの……? 精霊ってそんな選り好みするんだ」

「うん、あいつらめっちゃする。代わりに私は火霊からめっちゃ好かれてる」

「へぇ、好かれてるといいことがあったりする?」

「火霊魔法全ての威力が格段に上がる。ただ、何でもかんでも燃やしたがって唆してくるから困り物」


 危なっ、本当に鬼神みたいな子だね……。にしては、戦いで火霊を使っているのは見たことがないけど。お肉を焼いているのを見たくらい。

 そう尋ねるとセレノアさんは再び首を横に振る。


「肉以外に使うほどの相手に出会ったことがない。私が火霊を使うのは本気で戦わないといけない時。あ、ちょうどいい機会だから教える。ルーシャ様も聖霊からめっちゃ好かれてる」

「…………、そうなの?」



 ――あの時の話によれば、私の治癒魔法がほぼ蘇生魔法なのは、魔力の質が高い上に聖霊にめっちゃ好かれているから、らしい。なぜセレノアさんが精霊と通信できているのかは謎だけど、私達はそれぞれ聖霊と火霊の特性があるということだろう。


 だとしたら私は今、すごく後悔している。どうして〈ヒール〉系以外の聖霊魔法を習得しておかなかったのかと。答は実に簡単。


 ……こんなに強い魔獣がいるなんて思ってもいなかった。


 巨大鹿の魔獣はセレノアさんの火霊突撃で一度は倒れこんだものの、すぐに起き上がって体をブルブルと震わせていた。ダメージはほとんどないに等しい感じだ。倒せる感じが全くしない。

 私が地上に降りて程なく、攻撃を終えたセレノアさんもやって来て合流した。彼女も私と一緒になって敵の巨体を見上げる。


「こいつは倒せない」


 うん、知ってる……。

 さっきまで生き返った皆の体を確認していたキアも私の隣に並んだ。


「助けにきてくれてありがとうな。人も聖獣も完璧に蘇生したみたいだ。けど、私達またすぐに死ぬんじゃないか、これ」


 やっぱりそう思う?





いつも月末に慌てて固め出ししているのになぜこんな月はじめに投稿を、と思った方もいらっしゃるでしょうか。

今月からばらけさせて投稿しようかと。(それが普通ですよね……)

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