エピローグ
無人の倉庫では、先程の戦闘の痕跡がそのまま残されていた。
胸を貫かれたものと、頭部を無くしたもの。二人の骸が横たわっている。倉庫自体も戦闘であちこち破損しており、もしこれらを目撃されれば要らぬ問題が発生することだろう。
そうした問題を事前に防止・整理・抹消するのは魔女会議のエージェントの役割である。既にエイルやブラギにより、この戦闘の情報は本部へ伝えられている。そう経たないうちに、エージェントが事態のもみ消しにかかるだろう。
だが、骸の処置だけに関しては、エージェントたちの出る幕はなくなった。
倉庫内へ、おびただしい数のカラスが侵入してきたのだ。それらは二つの骸へ殺到し、死肉を租借し始める。まるでサバンナのハゲタカのような行為だ。
瞬く間に骸の肉は削がれ、血がこびりついた白骨が顕になり始めた。その様子を、額に呪印の刻まれたカラスが天井裏から黙視していた。
他のカラスが処理に奮闘している中、呪印のカラスだけ高見の見物をしているのだが、そのカラス自身も他のカラスも全く意に介していない様子だ。
くくくっ、とそのカラスのクチバシから人の声が漏れた。
『良いものを見させたもらったぞ、ウル。貴様の死は無駄ではなかったようだ』
カラス──いや、そのカラスの視界を用いて倉庫内の一部始終を傍観していた魔女は、そう呟く。
先程の魔女会議の魔術師と従者たちとの戦闘で彼女が見たもの。それは彼女が長年探し続けていたものに相違なかった。
ウルの報告に物珍しさを覚え、造魔を介して戦闘を観戦していたのだが、まさかそれに出会えるなど、まさに僥倖としか言えないものだった。
『竜胆司、と言ったか。今まであんな人間の肉体に隠れていたとはな……』
だが、ついに見つけた。自らの片割れ、半身を。
あの蒼炎と今カラスにも刻まれている、二つの蛇竜が絡み合った呪印が、その何よりの証拠だった。
『待っているがいい。我が直々に迎えにいってやるその日まで。私はお前を逃がさない。完全なる力を取り戻すために……』
魔女──ジャンヌ・ダルクはそう独りごつ。その台詞は死肉を食い漁る音に掻き消され、誰の耳にも届くことはなかった。
これにて、「サバトの魔術師#2」は終了です。
ラストを見て貰って何となく感付いている方もいるかもしれませんが、今回は来期シリーズを完全に意識した終わり方にしてみました。肝心の続きなのですが、まだぼんやりとした構想しかなかったりするのですが、はてさてどうなることでしょうか……?(聞くなっ)
また、この作品は私的にはそれなりの満足感と多々の議題を残しました。今後も色々な作品を書いているつもりですが、更なる精進が必要だなー、と痛感した次第です。
ちなみに次に書く作品ですが、「サバトの魔術師」とは別のモノを書こうかと画策中です。それもまだ決まってませんが……。
それでは長いあとがきでしたが、ご愛読していただきありがとうございました。また別の作品が掲載されましたら、お付き合いして頂ければ幸いです。