終章
終章
窓外からは、人々の賑々しい声が絶えず響き渡っていた。
それは昼夜を問わず、水都は今まさに繁栄しているかのようにも思わせられる。
余とソフィアは宴のような街の復興を、奇跡的に破壊から免れていた宿内にて、他人事のように耳にしていた。
ヴァルディッシュが討伐されて一日が経過した、昼のことである。
余はラウナによって、街の様々な情報を手に入れていた。
水都の損失は教団員たちの協力もあってか、聖水の加護を広範囲に伸ばすことができて、人的被害はさほどでもなかったらしい。
そして、彼らの調査によって、なぜヴァルディッシュが水都に巣食っていたのかも、調べがついたと聞かされた。
水都の地下道、ダム近辺に、極小のポータルが開いていたらしいのだ。ヴァルディッシュはそこから風に乗って運ばれ、身を落ち着かせたらしい。
その後は、小さな羽虫や動物を餌に、じわりじわりと育ったみたいである。
水都の地下に存在する迷宮のような水路が、事件の起因に買っていたのは明白であり、街の在り方については、お偉方たちで討議が交わされるらしいが……余の知ったことではないの。
それから、ニーナについて。
彼女は大腿部に大怪我を負っていたが、それも時間が経てば傷跡も残らないほど、問題ないようだ。
そんなことよりも重大なのが、ニーナが助け出した少女のことである。
少女は、ニーナに命を救われたことをきっかけに、彼女に惚れてしまったというのだ。ニーナは身体を張って、命がけで女の子を救出したのだから、恋が芽生えてしまうのも頷けるというものじゃが……。
そして……ニーナもその愛を受け入れて、わずか一日で円満な恋人となってしまったらしいのである。
余としては、これでニーナに付きまとわれなくて済むので、願ったり叶ったりではあるが。あの少女、メンヘラニーナと恋仲になって、無事でいられるといいがのう。
ま、一抹の不安はあるが、ラブラブでいるうちは病んだりしないじゃろう。今度こそ幸せにな、ニーナよ。
そして、これらの情報を与えてくれたラウナ。
彼女は、街の英雄のような存在になっていた。
なぜならば、ラウナはその類まれなる身体能力で、ヴァルディッシュに襲われていた街を北に南に駆け巡り、教団員たちに情報の伝達をしていたのだから。
ラウナは教団員の大勢から謝礼を受けていて、面映そうにしていた。
そして、それをきっかけに、彼女は自ら街の警邏を買って出ていた。
その理由は、たくさんの給金がもらえるからだとか、余たちの安全を確保できるだとか、私欲に満ちているものだったが。
水都としても、ラウナのような英雄が街を見回ってくれるなら、安心というわけだ。
銀髪のメイドは、今も街を巡回するために、宿を後にしていた。
ラウナ曰く、四六時中、余とソフィアのイチャイチャを見せつけられるわけにはいかないから、というのが一番大きな理由らしいが。
余とソフィアを、暫くは二人っきりにしてくれるための気遣い、だとはわかっていた。相変わらず、素直ではないメイドじゃ。
そんないじらしい彼女にも、何か幸せが訪れて欲しいところである。ラウナ一人だけ独り身なのが、憐れにすら思う。
いずれ、ラウナの嫁探しにでも付き合ってやるとしようかの。奴の好みなら、余でも把握できておるしな。少なくとも、お相手は女の子が適切なのは確定情報である。
それから……。
余の隣にて、無言で膝を抱えている、ソフィア。
彼女は修道服ではなく、部屋着のラフなシャツと短パンを身に着けていた。春風のようなふんわりとしたウェーブヘアは、お風呂に入っていないこともあってか、無造作に荒れている。
……余は今現在、大人の姿だ。
この姿になってから、ソフィアは口をはたと噤んでしまったのである。
余には心当たりがまるでなくって、どうしてソフィアが急激に機嫌を損ねてしまったのか、甚だ理解不能なのであった。
「のう、ソフィ。……昨日はえっちの約束をしたのに、寝てしまってすまんかったの。し、しかしじゃな、昨日はあの化け花と戦った後じゃったから、疲れておったんじゃよ」
「…………いえ」
ソフィアはそっけなく、一言呟くだけである。
余は一体全体、何をやらかしたというんじゃ?
可能性があるとすれば、昨日、先に寝てしまったことくらいだったのじゃが……それすらも、違うらしい。
起き抜けには、イチャイチャとキスを交わしたというのに。
それからラウナの話しを聞いて、彼女が出かけてから、またキスをして。
その濃厚な口づけをきっかけに、ようやく大人の姿に戻れて、セックスが出来ると思ったところなのじゃが。
ソフィアは大人の余を見るや否や、不機嫌全開になってしまったのである。
「すまぬ。昨日、無茶をしたこと、やっぱり怒っておるのか?」
ソフィアは、ふるふる、と首を横に振るう。
先程から、ずっとこの調子である。
余はどうしたものか、と自身の白髪をかき上げ、困り果てていた。
「……うぅむ。なんか……すまぬな。ちと、気分転換じゃ。飲み物でも買ってくる。お主の分も買ってくるから、ソフィはゆっくりしておれ」
気を紛らわせるために、ベッドから立ち上がる。
余は扉に向かおうとして、その瞬間、前のめりに倒れそうになった。
……ソフィアが、服の裾を掴んでいた。
「……わかった、傍にいてほしいんじゃな? できれば、口を聞いてくれると、嬉しいんじゃがのう」
まるで、普段の立場が逆転しているかのようだった。
だだをこねるソフィアもまた珍しいが、彼女の意志ははっきりしている。余に何かを伝えたい、しかし、言い出せない。そんな心理状況だけは読み取ることができた。
余は徹底抗戦のつもりで、ソフィアの隣に身を沈める。
「…………フレデリカ様は……わたくしの知らないことばっかりで……」
ぽつり、とこぼすソフィア。
彼女のエメラルドの瞳は、いつものような澄んだものではなくて、若干の濁りが発露していた。
それは、ニーナのものと瓜二つ。
そうかそうか、女の子特有の、面倒くさいモード、が発動しているわけじゃな。
それでこそ、女の子らしさがあって、結構なことじゃ。普段は修道女としての顔もあってか、色恋関連には疎いからのう。
多少の闇は、ともに抱えるのが恋人の役目じゃ。……無論、ニーナほど行き過ぎなければ、の話じゃが。ま、ソフィアの重い心ならば、それが惑星ほどの質量だったとしても、受け止めてやるがの。
「そんなに気になることでも、あったかの? 余はこうして、ソフィとだけ愛を交わすことを誓っておるぞ? 不満があるならば、何でも言うてくれぬか?」
何が琴線に触れたのだろうか。
ソフィアは眼光をキラリと光らせ、溜めていたものが爆発してしまったかのようにして、余に掴みかかってきた。
余は彼女に肩を揺さぶられ、ガクガクと身を前後に揺すられる。
「はめどりだとか、ニーナさんとの関係――せふれ? だとか、お姉さまのこととかーー、なんで全部教えてくれないんですかー!? フレデリカ様が、ずっと黙っていたことが、悔しいんですっ! やましいことがあるから、今まで言えなかったんですかあ!?」
「お、落ち着け、ソフィ。お主、そんなこと気にしておったのか?」
「気にしたくなかったのに……。大人のフレデリカ様を見たら、なんだかわかんないんですけど……感情が止まらないんですっ! 平気で浮気もしちゃうし……。もっと、わたくしにフレデリカ様の全てを教えて下さい!」
「浮気はしておらぬじゃろうがっ! 余は、心さえ一途なら、それはセーフということにしておるっ!」
「アウトですー! 身体だけでも駄目なんですっ! わたくしだけに、してください!」
「わ、わかった、わかった。約束しよう。それと、ハメ撮りも今から教えてやる。後、ニーナとはただのセックスをしていた関係じゃ。セックスのフレンドで、セフレ、じゃ、わかったか?」
「うぅ……えっちするだけのお友達……って。またそうやって、わたくしの心を痛めつけるのですか!?」
「お、怒るな。聞いてきたのはお主じゃろうが! それに、ニーナとは過去のことじゃ。何十年も前のことじゃから、時効じゃ!」
「そうですよね……フレデリカ様は、百年も人生を歩んでいるんですものね……。わたくしとは、違いますよね……」
「人間でいえば、余もソフィとあんまり変わらぬ年頃じゃがのう。じゃが、これからの長い人生、全てソフィに捧げると誓う。じゃから、許してくれ。それに、姉上については、今度ゆっくり紹介しよう。余の家に、遊びに連れて行ってやる」
「……本当、ですね?」
「ああ、全部本当じゃ。じゃから。今からできること、やっていくぞ♪」
「あ、ちょっと……フレデリカ様ぁ、まだお話が……」
ソフィアは口ではそう言いつつも、抵抗の意志もなく、流されるがままベッドに押し倒される。
口調もどことなく、余を誘っているかのような甘ったるいものだ。
さすが、生粋のネコである。ソフィアの本性は、ベッドの上で本領発揮をしていた。
それに、ソフィはハメ撮りを所望しておったからのう……撮影機器はあったじゃろうか?
興奮してきたわい♪
「今は今を、愉しもうぞ、ソフィ? 余とソフィは、永遠に一緒、なのじゃからな」
「永遠に、わたくしを愛してくださいね? わたくしは、フレデリカ様のこと、永遠に愛していますから……」
「当然じゃ。我が最愛の恋人、ソフィア。永遠に愛しておるぞ」
口づけを、交わす。
暫くは、ソフィアと濃厚な時間を過ごすことになりそうじゃ。
恐らく水都にも、まだまだ滞在することになるじゃろう。
それもまた、一興、じゃな♪
終わり
最後までお付き合いくださった方がいましたら、読んでくれてありがとうございます。
ブックマークしてくださった方、評価してくださった方、読んでくださった方、全てに感謝しています。
次に書くことがあれば、もっと面白いものが書けるように頑張りたいと思います。




