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第0.5話 元二十一代目勇者キン=リブスが勇者でなくなるまで その②

 翌日。

 ババアに叩き起こされ、代金代わりに店の手伝いをさせられる羽目になった俺は、魔獣を狩りに行くと言うババアに同行することとなった。

 肝心の魔獣がどこにいるのかと尋ね、返ってきた答えに頭を強く殴られたような衝撃を受けた。


「魔界……?」


 魔界、もしくは瘴気渦巻くダンテドリ島、そこにしか魔獣はいないのだと言う。

 確かに旅に出てからこっち、魔獣の姿は見ていなかったが、まさかそこまで数が減っているとは思いもしなかった。


「まあ、知らないだろうね。ドーズさんがそう仕向けたんだから」


「あ?」


 ババアが口走ったのは、これまた思いもしなかった世界の真実だった。

 初代勇者ドーズによって100年も前に魔王は倒されたが、復活を予感したドーズはその事実を隠し、故郷から勇者を出し続けることで魔王復活に備えたということ。

 そして、それを知った勇者が村に帰って事実を伝えないよう、勇者の印と名付けられたミサンガにかけられた呪いで帰れなくされているということ。

 つまりは、俺が出発前に長老に渡され、特に何も思わず左腕に巻いたそのミサンガのせいで、俺は二度と村に帰れなくなっているということ。

 最後に、魔獣がいないせいで、世の中には山賊や海賊のような悪党が蔓延っているということ。


「冗談じゃねえよ……」


「ああ、冗談じゃないよ。ヘコんでるとこ悪いけどね、魔界まで結構時間かかるから、もうさっさと行くよ」


 この無駄にうるさくて馬鹿みたいに強いババアは俺が途方に暮れる時間すら与えてくれなかった。

 またしてもとんでもねえ力で俺の腕を掴むや、店の外に出て、急に走り出した。


「っあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!??」


 もし俺を安全な場所にしがみつかせてくれていたのなら、もし走りではなく浮遊魔法なりで飛んでいたのなら、こんな間抜けな悲鳴は上げなかっただろう。

 俺に人生最大級の屈辱を二度も与えながら、ババアは構わず、人間が出して良い範疇を超えた速度で魔界まで突っ走った。






「…………で、俺に何を手伝えってんだよ」


 魔界について開口一番、俺の言葉はそれだった。

 道中、ババアは俺に「魔獣を適当に何匹か狩るからそれを手伝え」と言っていた。

 それが上手くいけば食い逃げしようとしたことは不問にしてやると。

 だが、魔界にいる魔獣なんてのは、俺よりずっと強い奴らばかりだった。

 中級魔獣くらいは単体ならどうにかなるが、そいつらはババアを警戒して群れで固まっている。

 で、上級魔獣はどうなのかというと、


「ケェェェェェェェイ!!!!!」


なんて叫んでいやがるババアに蹴散らされていた。

 そこまで実力に開きがある奴をどう手伝えってんだよ、瘴気のせいか、ずっとババアに掴まれてたせいか、腕も痺れてきてるしよう、などと完全にふて腐れた俺は、ババアが魔獣狩りに夢中になっている隙に魔界を抜け出し、海へと逃げた。

 初代勇者が遺した『退魔指南書』に書かれた僅かなヒントから浮遊魔法を習得していたので、周りが海でも逃げられるだろうと踏んでいたのだ。


「遠い……」


 見通しが甘かった。

 ババアに連れられた時は一瞬だったからわからなかったが、海を越えるにはかなりの距離があり、それに気付いた時にはもう沖まで出てしまっていた。

 おまけにさっきまでなかったのに霧が出ていて、岸が見えない。

 当てずっぽうで飛んだところで岸にたどり着けるわけもない。

 戻りたくても戻れない。

 走馬灯的なものが頭を駆け巡りはじめた時、目の前に船が現れた。

 天は俺を見捨ててはいないらしい、喜んでその船に飛び乗った。

 帆に描かれた髑髏のマークには気づかずに。

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