介入
「すっこんでろって言われてももう遅いよ!来ちゃったしね!ユミル、介入するよ!」
「はい!」
拒否されても僕らにだって事情がある。怒鳴られたからはい、やめます。なんて出来ない。
敵部隊は四種族混成部隊のようだ。見た感じほとんどが上位や進化種だけで編成されている。夢で見た部隊と比べると数が少ないように思えるが似ている。
まず手頃な所に居たゴブリンに剣で斬りかかる。混戦状態のため槍が使い辛いのだ。
鑑定ではホブゴブリンリーダーと観えた。ランク的にはDランクといったところか。これがこの部隊の最底辺クラスなのだから厄介だ。
ゴブリンは僕に気づくと剣を構えて待ち受けるが格も装備も違い過ぎた。通り過ぎざまに剣を振るう、ゴブリンは剣ごと首を切り落とされて倒れた。
近くに居た何体か同じゴブリンがそれを見て僕を脅威と感じたのか殺到してくる。だがゴブリンが進化していようが上位個体へと成長していようが僕の相手にはならない。
同時に三体が飛びかかってくる。普通のゴブリンなら何体も居ようが単体で攻撃してくるだろう、こいつらは頭がそれなりに良いらしい。
僕は剣に魔力を込めると飛びかかって来たゴブリンをなぎ払う。リーチが槍より短いため少しやり辛いが問題なくゴブリンを消し飛ばす。魔石だけは肉体より硬いためそれだけが残り地面へと落ちた。
魔獣達は強敵が現れたことですぐさま警戒対象をシルフィへと固定しジェネラル以上の魔獣だけが接近し始める。
「へぇ、軍隊行動するだけじゃなく、ちゃんと状況も判断するんだね。随分頭が良い。」
だがわざわざ倒し辛い敵が寄って来ても僕には相手をする理由がない。魔獣達は質より量居る方が騎士達には辛いだろう。そのまま追って来る魔獣を無視して雑魚の相手を続ける。
コボルト達はすぐに接近せず僕の周りを十体程でとり囲む。強敵相手にただ突っ込んで行くのは下策。間合いをとって隙を突くのがセオリーだろう。気軽に死ねるゲームとは違うのだ。臆病な方がいい。
だがまだまだ魔物は数多い。囲まれて時間が過ぎるのを待っているわけにはいかない。剣から槍に切り替えて突進する。
「突撃」
僕の前に居たコボルトは自分が死んだことに気付かなかっただろう。槍で頭部を破壊されたコボルトは崩れ落ちる。他のコボルトは一瞬呆気取られて足を止めてしまう。
急いでいる僕は勿論そんな隙を見逃すはずもなくコボルトに躍り掛かる。十体居たコボルトは一体につき一秒程度の時間しか稼げずに全滅する。このコボルト達はコボルトの進化個体だったらしくライカンという名前だった。まぁ、興味もないのでそのまま移動しようとする。
だがそのライカン達が稼いだ時間で足の速い魔獣が追いついてしまう。名前はリザードマンビショップ。
ビショップとは司教という意味だったか…。そのリザードマンは白いローブのような物を着て頭にはサークレットのような頭飾りをしている。ジェネラルとはまた違う進化を遂げているようだ。
格は周りの魔獣よりも高くスキルも指揮系統が無い替わりに光魔法と戦闘系スキルがやや高い。ジェネラルのような指揮より個人戦闘を得意としているんだろう。
リザードマンは威嚇音をあげながら持っている三叉槍を突き出してくる。今まで見た中で一番速い一撃だ。だがAGIの上がっている僕の目にはちゃんと見えている。
当たらないように僕の槍を三叉の間に入れてそのまま地面へと叩き落とす。勢いが強かったのかリザードマンはそのまま槍を取り落としてしまう。
僕は接近して槍を振り落とす。リザードマンは片手に付けていた盾で辛うじて防ぐが衝撃で盾はひしゃげそのまま付けていた片腕も使い物にならなくなる。だが流石は個人戦闘に特化した個体だ。痛みに怯まず尻尾で薙ぎ払ってくる。
リザードマンの尻尾の先にはモーニングスターのような物が付けていたようだ。当たると痛そうなので飛び退いて距離をとる。リザードマンは砕けた腕をぶら下げながら威嚇音を出し続けている。戦意は全く挫けていなさそうだ。
睨み合いは続けたくない、リザードマンの落とした槍を拾って足元狙って投げつける。リザードマンはそれを飛んで回避する。だが多少上に対象が動けば全力で投げられる。
今度は僕の槍を投げつける。リザードマンはひしゃげた盾と腕でガードしようとするがそれでは防ぐことは出来ない。槍は盾と腕を破壊しそのままリザードマンの脇腹も突き抜ける。
結果は見る必要はないだろう辺りを確認する。今度はオークのお出ましだ。オークキング。随分大物だ。得物は戦斧のようだ。僕と同じだけありそうな物を持っている。
オークは周りの惨状を見て唸り声をあげる。
「オマエ、ヤリスギ、ココデツブス。」
キングともなればそれなりに知性があるらしく片言だが言葉を話す。
「攻めて来たのはそっちじゃないか、抗わせてもらうさ。嫌なら襲って来なければいいじゃないか。」
「オウノ、メイレイ、ソレハ、キケナイ。」
「へぇ、キングの君が王と呼ぶのか。なら直談判に行くから居場所教えてよ。」
「ムリ、ソレハ、キケナイ。オウ、ガイスルヤツ、チカヅケサセナイ。シシツブシタアトナラ、ナエドコトシテ、アイニイケル。」
「それは是非遠慮したいね。突撃」
話し合いの最中に卑怯だって?戦場で呑気にお話しする方がおかしい。だがオークも油断はしていなかったようだ、戦斧で迎撃される。当たると痛そうなため身体を逸らして回避する。
戦斧は僕の背中をかすめ、槍は脇腹をえぐる。だが浅かったようだ。すぐさま回復して傷が見えなくなる。ジェネラルも持っていたが再生のスキルだ。それもジェネラルよりも効力が強そうだ。
オークは戦斧を地面をえぐりながら振り回す。やはり膂力はかなり高い。だがその分動きが遅く鈍い。余裕で回避できる。
オークはそれでも気にせず戦斧を振り回す。地面を割りクレーターを作りながら周りを走り回る僕を捉えようと必死だ。
僕は戦斧を掻い潜りながら槍と剣で着実にダメージを与えていく。だが身体は硬く体力も魔力も多い。削るのに時間がかかる。だが、戦斧を振り回すせいで周りに敵も味方も近寄れなくなり僕らの周りだけ人も魔物も居なくなる。好都合だ。
わざわざ近距離で戦ってやる必要はない。距離をとると魔法を発動させる。
「ロックブラスト。ロックキャノン。ロックバレット。」
オークは遠距離攻撃の手段がない。投擲は持っているが投げられる物も持っていない。戦斧は投げてしまえば僕と戦えなくなるため手放せず、魔法を防ぐのにも使っている。
火魔法は飛び火すると味方も巻き込むため土魔法にしたが、質量攻撃は内臓にもダメージを与えているのか思いの外体力の減りが大きい。しばらく魔法で攻撃するがオークはこのまま削られるのを嫌ってか無理矢理接近してくる。
あまり離れ過ぎるとまた混戦の中に入らないといけないためあまり下がらない。
「ファイアーウォール。」
火の壁を出してオークの接近を防ぐ。オークは戦斧で散らそうとするが魔法はその程度では効果が無くなることはない。オークは僕に近づけなくなってしまう。
「ガイアランス。」
地面から岩の槍が飛び出てオークの腹に刺さる。流石に硬いため深くは刺さらなかったがそれでも確実にダメージが入る。オークは唸り声を上げて壁から離れる。たが僕から距離をとるとは下策だ。次々と魔法を放ち続ける。普通これだけ魔法を連発していればすぐ魔力が尽きるが僕にはまだ余裕がある。
その後、オークは僕に接近しようと試みるも上手くいかず一方的にダメージを追い続ける。
「ウォーターピラー。」
大地の牙のお兄さんには効かなかったがオークは数メートルだけだが打ち上がる。今度は相手自身の勢いもある。
「ガイアランス。」
地面へと落下するオークに向けて魔力で追い討ちをかける。今度は落下の勢いも合わさって腹を貫き背へと抜けた。魔力も尽きたし致命傷だ。オークは槍から抜け出そうともがくがしばらくすると動かなくなった。
誤字報告、感想お待ちしております!