6-2
早速2日に1回更新失敗してるじゃないか(呆れ)
ーーー特区公社 メキシコ支部 作戦司令部
部下の操作するパソコンのディスプレイを、上官らしき男が怪訝な顔で見詰めている。
「もう一度再生を。」
「はい。」
ディスプレイは『5月5日通り』周辺に設置された監視カメラの映像を映していた。
2日前、『5月5日通り』でギャング同士の抗争があった。その監視カメラの映像から、逃走した犯人を見つけようとしたのだ。
このメキシコにおいて、麻薬カルテルと下部組織のギャングは魔物よりタチが悪かった。
魔法を使える人材や異世界からの難民を私兵に迎えており、簡単に手出しが出来なかった。
軍警察から『監視カメラの映像がおかしいので調べて欲しい』と頼まれ、映像を譲り受けて見たのだが...。
「何回見ても分からん。...ここだ。ロケットランチャーが壁に着弾...そして少し経つと映像が途切れる。勝手にカメラが復帰した時には全部終わっている、と。」
「実は、監視カメラの本体と周辺機器を解析、調査したところ、何者かのハッキングを受けている事が分かりました。」
「ハッキング!?あんなタイミングでか!?」
上官は目を見開いた。たかがギャングの、それも鉄砲玉同士だろう奴らの抗争が収められた映像を、誰がハッキングするのか。
それも含めて気になる事が多い。
「セキュリティがあったはず。それは?」
「僅か0.4秒で17層全てが破られています。」
「バカな...学習させた量子ニューロンAIが7万年掛かるセキュリティだぞ...。侵入経路は?」
「信じられませんが、魔法に近いものです。異世界の錬金術士による、魔力粒子波での強制干渉だと思われます。」
「カルテルには錬金術士まで居るのか...。ありがとう、また何か分かったら教えてくれ。」
「イエッサー。」
上官は部下の肩を軽く叩きその場を後にする。分からない事だらけで謎も満足に解決しなかったが、何か大きな事が起こる気がした。
「...スギモト一佐に連絡しておくか。何かあるぞ...これは。」
☆
襲撃から数日後。シナトラは『シルバーサーティーン』のユダの元へ赴いていた。
「こんにちはお嬢様。本日はどの様なご用件でしょうか。」
「パーティーの準備をしたくて。サプライズのね。」
「室内ですか?それとも外で?」
「どっちも。取り回しが良くて...威力もあるのが欲しいな。」
「畏まりました。であれば、こちらを。」
ユダが取り出したのは黒いプラスチックで作られたコンパクトなアサルトライフル。
「HK416C。弾丸は5.56×45mm強化NATO弾を使用。銃身は9インチモデルで、外は勿論、室内でも効果的な攻撃を行う事が出来ます。」
マガジンの入っていない銃を手に取り構える。ユダの言う通り銃身は短めでスマートになっており、ピカティニーレールにアタッチメントを装着する事も出来る。
「ストックは折り畳み可能かつスケルトンモデルを。反動制御も容易ですし、強化プラスチック製ですから人体を殴打しても形が変わる事はまず無いでしょう。マガジンは標準的な30発の物と50発の物が御座います。」
「マガジンは30のやつで良い。後はフォアグリップとサプレッサーを。」
「承知致しました。他には?」
「そうね...。」
シナトラは顎に人差し指を当て、少しだけ考えた後、何かを思い出した表情を作る。
「デザートが欲しいな。鋭くて、丈夫で、紳士淑女、皆が喜ぶのが欲しい。」
「なるほど...誰にでも喜ばれる...デザート。心当たりが御座います。お嬢様もきっと気に入りますよ。」
自信ありげな笑みを浮かべるユダは、カウンターの内側にある引き出しから10インチ程の箱を取り出した。
カウンターに置かれた鉄の箱を開けると、中には様々な形のナイフが入っていた。
「如何でしょう。老若男女、魔物にも喜ばれる逸品揃いです。」
「あ...そう、ね...。」
「お嬢様?どうかなさいましたか?」
箱の中に鎮座していたフォールディングナイフが視界に入ると、それだけで心拍が乱れでいくのが分かる。
動悸は激しくなり、呼吸も荒くなる。適切な温度に保たれているにも関わらず、額には汗が浮かんで来た。
「ハァ...ハァ...。大丈夫...大丈夫だから。」
「しかし...。」
直視出来ずに目を瞑ると、一瞬脳裏を憎き男の姿が過ぎってしまう。あの粘ついた笑みと下品な笑い声を嫌でも思い出してしまう。
オイオイ、結局お前はSoldadoなんかじゃあ無い。ただ武器を持って暴れる狂ったヤク漬け人形じゃないのか?
ナイフを見ただけで泣きそうになって怯えるのが良い証拠じゃあないか。楽になれよ...
「チッ...!」
脚の力が抜け、倒れそうになったところで、なんとか跪く様な体勢でなんとか踏みとどまる。
頭を振り、アレハンドロの声で再生される幻聴を追い払う。例え自分が麻薬中毒でも関係無い。アレハンドロとカルテルを叩き潰す。
少女の心の炉には再び火が灯った。一般人と精神科医から見たら酷く歪で、かつ見るに堪えない物だろうが、可憐な少女は再び正常な感情を抑える事が出来た。
シナトラは一度深呼吸をし、自分の頬を軽く叩いて気持ちを切替える。
「あはは...ごめんね、ちょっとそのナイフ達は一旦仕舞ってくれない?特にフォールディングナイフはその、ダメ。」
「で、あれば...こちら等どうでしょう。」
ユダが次に取り出したのは、小さいが高級感のある茶色い木箱。中を開けると、そこには鉤爪の様な武器と苦無に似た武器が入っていた。
「こちらはカランビットナイフという物です。元々はマレーシアやインドネシア等の東南アジアで開発された、武器にも使える農業用の道具です。」
ユダはカランビットナイフの輪の部分に右の人差し指を通し、グリップを逆手持ちで握る。
「鉤爪状の刃は突き刺して引き裂きますので、すれ違いざまに致命的な一撃を与えられます。輪の部分で殴打する事も出来ますし、こうすれば」
今度は輪の部分に中指を通して固く握ってみせる。
「近接戦闘において、一時的に間合いを伸ばす事も出来ます。お嬢様はこれから、身体能力で勝っていても体格で不利を背負う事が出て来るでしょう。カランビットなら、素早く懐に潜り込んで致命傷を与える事が出来ます。普通のナイフと違い、敵の攻撃で落としてしまう事も少なくなります。」
「気に入ったわ。もう1つのは?」
ユダはもう1つの短剣型の武器を布越しに手に取る。
「名前は『TB-03 ミゼリコルデ』。見た目はNINJAの使うクナイに似ていますが、運用方法は西洋短剣のスティレットに近い物です。微細な高周波振動に加え、刀身を赤熱化させる事で凄まじい威力を発揮します。」
短剣の柄を握ると、空気の震える音と共に刀身が熱で赤く光る。
「これ、魔道具?」
「ええ。レスポンスは速い方ですが、それでも高周波発生装置とヒーターの起動に若干時間が掛かります。弱点はその点と魔力が無くなると動かせない点...適性が無いと性能を活かせない点ですね。」
「やっぱり現代科学と異世界の魔法は折り合いが悪いわね...。魔力を持たない出来損ないでも銃かナイフが有れば人を殺せるから、オーバースペックかもね。」
「あくまで便利な道具ですから。...お嬢様、こちらはどうなさいますか?」
「屋敷に届けて。」
「畏まりました。どうぞ、パーティーを存分に楽しんで下さい。」
立ち去る直前、シナトラはユダの方に振り返り、手袋をした手の甲に口づけし、そっと息を吹きかける。
そして、微笑みながら地上への階段を登って行ったのだった。
☆
「ったく、何がどうなってんだろうなあ。」
「ホントだよ。ミゲルやロト達を殺した奴を生け捕りって、ベレトは何考えてんだ?」
「よせよ。聞いたが、生け捕りはアルマダからの指示らしい。恐らく若...アレハンドロさんからだな。」
「マジか?」
「おう。でも悪い話じゃない。捕まえれば20万ドルだ。それに、アルマダの幹部になれるかもしれない。」
深夜、『レヒナ通り』109番地のバー、『Bar Regina』でグレミオ・アパンのメンバー達はいつもの様に飲んだくれていた。
「お前ら、そろそろ店閉めるから出てってくれ。」
「えぇ!?もうちょっと良いじゃねえかよホルク!」
「酔い潰れたガキを介抱してやれる程暇じゃねえんだよこっちは。」
「なんだと!?」
にべもなく断られた男は、怒鳴りながら銃を抜き、店主であるホルクを睨み付ける。
「なんだやんのか?新品のモデルガンか?あ?トウキョウマルイででも買ったのか?」
「ぶっ殺すぞテメェ!」
「おうやってみろ!!ガキが黙ってりゃ良い気になりやがって!今日という今日は俺だって...」
ホルクも声を張り上げて応戦し、カウンターの下から水平2連式の散弾銃を取り出そうとしたその時。
一触即発の雰囲気漂う店内に、入口の小さい金属製の鐘の音が響く。
「...らっしゃい。お客さん、悪いがもう閉店で...って子供?」
「おいおい、ここはお子様が来る所じゃ無いぞ!ミルクでも頼むか?奢ってやるよ!」
「そうね...マスター、マッカランはある?」
「ンなもん...ジンビームなら。」
エルフの少女は小さく溜息をついた後、肩にかけていた大きい鞄を床に置く。
「じゃあいいや。ホットミルクに角砂糖2つね。」
「あいよ。」
「おちょくってんのかクソガキが!殺してや...」
「待てよダビ。コイツもしかして、例の賞金首の、エルフのガキじゃねえのか?」
「んん?おお...言われてみれば!運が向いて来たなぁ!おいガキ、大人しく着いてこれば乱暴しねえ。...オイ!聞いてんのか!?」
少女は先程より大分深い溜息をついた後、ホルクの方を見る。
「マスター、少し煩くするけどごめんね。」
「そりゃ、どういう意味で...」
床に置かれた大きい鞄から真っ黒なアサルトライフルが出て来る。既にマガジンが挿入されており、後は引き金を引くだけの状態だ。
ホルクも、グレミオ・アパンのメンバーも、可憐な少女に似つかわしくないアサルトライフルの登場に、完全に面食らっていた。
「Caer en el infierno、MotherFucker。」
引き金が引かれ、消音された炸裂音が鳴り、正確無比な狙いで放たれた銃弾が無慈悲に男達を貫いていく。
1人につき銃弾が3発ずつ撃ち込まれ、合計15発分の空薬莢が床に転がる。
一息ついたその時、男の1人が微かに動いた。心臓に直撃こそしなかったものの、致命傷のはずだが、当たり所が良かったのだろう。(即死と比べて、だが。)
「ゴボッ...グホッ!ハァ...お前が、アレハンドロの探してるエルフか...?ヘッ、アルマダの次期ボスはロリコンだった、のか?」
「あのクソ野郎の性癖なんて考えたくも無い。それじゃ、バイバイ。」
引き金を短く引く。ビシュ、と鋭い音と共に出た弾丸は、眉間を正確に撃ち抜き男の生を終わらせる。
ひと仕事終わらせた表情の少女は、銃を近くの机に置き、死体を脚で退かしカウンターに座る。
「ミルクはまだ?」
「...嬢ちゃん、何者?」
☆
そして数日後。
サン・アンヘル近くの公園、グレミオ・アパンのメンバー達はサッカーに興じていた。
その中には幹部メンバーであるセミと言う人物も居た。
「ゴールだ!ハッハ!」
「チクショー惜しかった!」
「フゥ...エルドア、ダビ達を殺したクソ野郎は見つかったのか?」
「まだ分かってねえ。バーの店主にも聞いたが、眠らされてて顔も見てねえらしい。」
第2Qが終わった休憩時間、エルドアらメンバー達は、先日仲間を殺した犯人について話し合っていた。一言で言えば、とても不味い状況だった。
仲間を殺され、あまつさえその犯人も、名前も、姿も、何一つ分かっていないのだ。
このままではライバルのギャングに舐められるだけでは無い、上のカルテル同士の勢力争いにも関わって来る。
今メキシコのカルテルの勢力図はかなり繊細だ。『アルマダ』は辛うじて勢力1位だが、次点の『フォールン騎士団』にいつ越されてもおかしくない状況。
それだけならまだ良かった。
これに加えてCIAやDEA、コロンビアから流れて来るメデジンの残党、中国共産党やロシアンマフィアまで介入して来るのだ。
この混乱の中、針の上で取っているバランスを崩される訳にはいかない。
「恐らく、ゴールドウィン...ベレトの兄貴分や妹を襲撃した時の報復だろうな。」
「ゴールドウィンの私兵か?」
「調べたが動いた形跡は無かった。潜り込ませてる奴からの報告だ。信憑性は高いだろうよ。」
「クソッ、何処の殺し屋だ。舐めた真似しやがって...!」
「まったくだ。だが...何で殺し屋はあの店を狙ったんだ...?」
セミは煙草を吹かしながら、ふと頭に浮かんだ疑問を口にする。
「確かに...あそこは俺達の馴染みの店だ。...まさか、裏切り者が居る?」
「その可能性もあるな...。どちらにしろ、逃がしはしない。かならず捕まえて後悔させてやる。」
「ああ!...ん?」
「どうした?」
エルドアと呼ばれていた男は、広場の近くに奇妙な人影を見たのだ。冬でも無いのにロングスカートにコートを着けている小柄な少女が立っている。
通常のヒト種とは違う特徴的な長く尖った耳を見るに、種族はエルフだろう。アンニュイさの混ざった表情と、その小柄な体格から放たれる色香に目を奪われていたが、少女の持っていた大きめの鞄には殊更に目を引かれた。
「おいおい、何か嫌な感じがするぞ...。」
「俺もだ...じゅ、銃は...。」
少女が鞄を地面に置いてその中身を取り出した時、セミやエルドアを含めた男達は己の不幸を狙った。
カトリックだった"Jesus Christ"エルドアは、思わずそう呟いた。
「Adios。」
消音された鋭い炸裂音が鳴り、少女の近くに居た男が倒れる。頭と心臓に1発ずつ撃ち込まれている。
「に、逃げろおお!」
「あ、あれが例の殺し屋かよ!?」
射殺された男が倒れたのを皮切りに、武器を持たないグレミオ・アパンのメンバー達は一斉に逃げ始める。
だが少女の狙いは恐ろしい程に正確だった。美しい容姿に似合わぬ黒いアサルトライフルから放たれる弾丸は、吸い込まれるように男達の頭と心臓を的確に撃ち抜いていく。
ドサ、という音と共にエルドアが倒れた。弾丸は後頭部から眉間を、背中から心臓を射抜いていた。
「あアッ!?」
振り返ってその様を見てしまったセミは、ふくらはぎを撃ち抜かれ前のめりに転倒してしまった。
うつ伏せで傷を押えて呻いていると、歩いて来た少女の蹴りが腹部に刺さる。
「ゲッホッ!グハッ!」
「こんにちは。聞きたい事があるのだけど、いいわよね?」
「ェホッ、ハァ...クソが!お前が俺達を狙ってる殺し屋か?倍払う!ペソじゃねえ、ドルでだ!」
少女はわざとらしく首を傾げ、無知な少女を演じてみせたが、その可愛らしさにドイツ製のアサルトライフルは余りにもアンバランスだった。
「なんの事か知らないけど、アムドゥスって奴の場所、知ってるでしょ?」
「あの狼野郎の事か?ハハ、なんだ?元カノか何かっ、ぐわああアッ!あぁ...チクショオ...!」
嘲笑いながら冗談を言おうとしたセミの右肩部に1発撃ち込む。
痛がるセミを冷ややかに見下ろしながら、少女はマガジンの交換を行う。
「で、どうなの?」
「エ、エスペランサの企業病院だ...そこで、整形手術と治癒魔法を受けてる...。奴はヘヘ...顔が命みてえな奴だからな。」
「カス野郎が...次こそ顎を木っ端微塵にしてやる...!んん!...さて、一番聞きたい事は聞けたし...。はい、これ。」
「あぁ...?」
少女から渡されたのは白いハンカチだった。
「それ持って、ほら立って。...ボヤボヤしてんな!撃つぞッ!」
「わ、分かった!分かった!」
銃で小突かれ、セミは痛みに耐えながらよろよろと立ち上がる。傍から見れば、最早どちらがギャングか分からない。
「それを目に巻いて。」
「こ、こうかよ。」
畳まれていたハンカチを広げ、絞って細くした物でセミ自身に目を覆わせる。
「今向いてる方向に歩けば大通りよ。真っ直ぐ歩いて助けを呼ぶなりなんなりして。」
「は?おま、正気か?」
「...何?今すぐ死にたい?」
「じょ、冗談だ...歩く、歩くから撃つなよ!?」
「分かったから、早く歩いて。」
「クソッ...絶対殺してやる...仲間全員で犯して生きたままバラバラにしてやる...ッ!」
セミは見えないながらも必死に歩く。彼の頭の中では、自分のプライドを傷付けた少女をレイプし、あらゆる方法で辱める様を思い描いていた。
今まで自分が逆の立場だった時、彼がどう対応していたかを少しでも考えていれば...。
まあ、例え考えていたとしても、結末は変わらないだろうが。
「Dulces sueños」
セミの背中にフルオートで弾丸を叩き込む。穴だらけになった死体に歩み寄り、うつ伏せの死体を脚でひっくり返す。
残った弾丸は、全て死体の顔面に向けて撃つ。
「次やる事も決まったし、帰るかな。」
アサルトライフルを鞄に戻し、肩にかけてその場を立ち去る。しばらくすると、歩く少女の後ろで通行人の叫びが上がるが、彼女の頭の中に殺した男達の事など既に無く、全く別の事を考えていた。
(やだ、リップクリーム切れてる。後で買いに行かないと...。)
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