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死神ダイル

 馬鹿馬鹿しい。

 最初はそう思っていた。


 たかが1人の悪魔が現れたぐらいで、ここ奈落の権限者全員に招集がかかったのだ。


 だがそんなもの、暇な奴等が話し合っていれば良いと思い参加はしなかった。


 そんな権限者が1人、死神ダイルは例の大悪魔とやらを観察するため、奈落南部の森林へとやってきていた。


 幸い、今はこの辺一帯を縄張りにしている厄介なサイリスは魔王の招集により不在にしているため、何事もなくこの森林へと侵入する事が出来たのだ。


 ダイルとしては、とりあえず例の大悪魔の動向を観察し、そして可能であればその場で討ち取ってしまおうと考えていた。


 魔王どもが集まってあれこれ語っている間に、自分が大悪魔の首を持って帰ればそれだけで大手柄だろうと考えたからだ。


 そうして、奴らを嘲笑ってやろう。

 暇をしているダイルにとって、この場に来た動機としてはその程度のものだった。


 あの時、現魔王には惜しくも敗れてしまい、今は権限者として魔王の配下に成り下がってはいるものの、万全の状態であればダイルはガルドに決して劣ってなどいないはずなのだ。


 あの時の奈落はまさに戦乱の中にあり、ダイルは度重なる戦闘の末、疲弊した状態で運悪くガルド達と鉢合わせてしまったのだ。


 だから、あれはガルドの運が良かっただけ。

 大悪魔を狩ったら、次は魔王の番だ。

 いつか必ず倒してやろうと、ずっと隙を狙っているのだ。


 ダイルの異名は、死神。

 暗闇に潜み、音も無く相手の背後に忍び寄り命を刈り取る事を得意としているが故の異名だ。


 そんなダイルの正体は、シャドウオーガである。

 この森林の先にアサシンオーガの里があるが、彼らアサシンオーガとシャドウオーガは近い種族関係にある。


 しかし、正直に言ってシャドウオーガはアサシンオーガの上位互換の種族と言って差し支えないだろう。

 何故なら、アサシンオーガは相手の影に潜り相手の命を刈り取るのに対して、シャドウオーガは存在そのものが影なのだ。

 だから、実体を物理的に闇に隠す事ができるシャドウオーガは、暗闇であれば場所を選ばず暗躍が可能なのである。


 だが、そんなチートなシャドウオーガにも欠点がある。

 それは、アサシンオーガ以上に数が少ないレアな種族であること。

 また、種族特性として基礎能力が極端に低い事だ。


 そのため、ダイル達シャドウオーガの一族は種族間の抗争になると数には勝てず、結果これまでの争いの中でその数を減ら続けてきたのである。


 幸い、種族特性として暗闇に紛れる事が可能であるため、洞穴など常闇の場所を縄張りとする事でなんとかその身を守ってきたのだ。


 だが、その中においてダイルだけは違った。

 本来上位種であるシャドウオーガの自分が、コソコソと逃げ回る事しか出来ないという現実に、物心ついた頃からどうしても許せなかったのだ。


 だから、ダイルは努力した。

 まずは基礎能力を大幅に向上させ、その次にシャドウオーガの特性を活かした戦闘スタイルを確立させたのだ。

 そうして、魔物や攻め込んできた魔族達を次々に倒していくうちに、次第にダイルの噂が広まり気が付けば広く恐れられる存在にまでなっていたのだ。


 ―――あの洞穴には絶対に近付くな。


 ―――あそこには死神がいる。


 そんな噂が奈落中に広まった頃には、既にダイルの前には敵など存在しなかった。


 だが、そんな中ガルドが現れたのだ。

 ここ奈落の魔王になるべく、戦乱を生み出した1人の怪物。


 そして、ダイルはガルドに敗れた。


 それが、今から数十年前の出来事である。

 ダイルは、今でも打倒ガルドの念は抱いている。

 しかし、自分に権限者という地位を与えてくれた事には一定の感謝はしている。


 この権限者という地位により、他のシャドウオーガ達の安全を守る事が出来ているからだ。


 権限者ダイルの名を前にして、シャドウオーガと対立しようという種族など最早現れなくなったからだ。


 だが、そのせいもあってダイルは退屈をしていた。

 だから、権限者達を集める程の大悪魔に興味が湧いてここまで来たのだ。


 そうして、ダイルは暗闇に紛れ大魔王とその取り巻きの連中をひっそりと観察していた。



 だが、そんなダイルの目の前でとんでもない事が起きたのだ。


 道を塞ぐのは、サイクロプスが2体。

 ダイルにとって、暗闇であれば倒すのは容易い相手ではあるが、そうでなければ負ける事は無いが非常に厄介な相手と言える相手だ。


 そんなサイクロプスが2体、大悪魔達一行の前に立ちはだかっているのだ。

 大悪魔はともかく、他の人間達では手に余る相手だ。

 人間などが敵うレベルの相手ではない。


 だが、そこで事件は起きた。

 馬車から降りた大悪魔は非常に美しく、ダイルは思わず見とれてしまったのだが、その大悪魔が突如として目の前から消えたのだ。


 油断はしていたものの、それでも突然視界から消えた大悪魔にダイルは驚いた。

 直ぐ様、大悪魔が上空に移動した事には気が付いたが、それでも一瞬ダイルは大悪魔を見失ってしまったのだ。


 これは、異常な事だった。

 ダイルにとって、暗闇での優位性だけはこれまで誰にも負けるはずがなかったのだ。

 どんな相手でも、シャドウオーガである自身の右に出る者など存在するはずがなかった。


 だが、たった今ダイルは、暗闇という有利な条件下であるにも関わらず、大悪魔を見失ってしまったのだ。


 そして、更にあり得ない事は続いた。


 上空に移動した大悪魔は何やら魔術を唱えると、簡単にサイクロプスの巨体が地面に張り付けにされてしまったのだ。


 あの、鋼のような肉体を持つサイクロプスが、何の抵抗も出来ずに地面に張り付けにされるなんて、同じ権限者であるマリーや魔王の側近のソリンに出来るか?


 ……いや、無理だ。

 そんな事が可能であれば、マリーは負けなかっただろうし、ソリンはもっと楽にこの国を統一していたはずだから。


 つまりは、この奈落の二大魔術師であるソリンやマリーよりも、この大悪魔の魔術レベルは断然上という事になる。

 そして、暗闇というダイルの有利な条件下であっても、ダイルで追い付けなかった程の速度での移動が可能な基礎能力。

 その2つを併せ持つ目の前の大悪魔は、どうやら今権限者達を集めている魔王達の警戒こそ正しかった事をダイルは理解した。


 軽い気持ちでやってきたダイルであるが、もしここで飛び出していれば恐らく死んでいただろう事を悟ったダイルは、ブルッと身震いすると早々にその場から立ち去る事にした。


 あんな化物には関わってはいけないと、急いでその場から離れる事にした。


 立ち去る前、大悪魔と目が合った気がしたが、何かの間違いだろうと自分に言い聞かせながら。

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