19 エヴュラ
魔法祭までの残り数週間。
この期間は、魔法祭に向けてさまざまな依頼が、学校側から生徒たちへと募集をかけられる。
その依頼の大概は、魔法の暴発、及び観客への被弾を防ぐための魔法障壁の構築の手伝いだったり、それに必要な材料の採取、それ以前に、会場の設置のバイトなどがある。
この中でももっとも簡単な依頼は、材料採取か会場設置のアルバイトだが……。
それだと、魔王と戦うために必要な、最低限のレベルにまで到達しない。
EXPなんて、これっぽっちも入りやしないのだ。
俺は、経験値がほしいのだ。
アーカイヴスで調べた限りによれば、経験値の入手には、魔物の討伐が必須らしい。
そして、討伐するだけではなく、その心臓部ともいえる部分、つまりコアを破壊しなければ、経験値(に相当するもの)は得られないときた。
学校側は、魔物の討伐に際して、その証拠として討伐した魔物のコア、もしくは討伐部位と呼ばれる、魔物を討伐したことを証明できる体の部位を提出することで、報償金を提出することになっている。
コアは無くてもお金は貰えるが、もっとも、コアがあった方が高く金儲けできる、というわけだ。
そのためか、この世界の大半の人間はレベル1止まりで、EXPもすっからかんなわけで。
それに、戦闘技術なら、レベルアップしなくても、普通の鍛練や実戦で身に付く。
レベルアップは、その効率がよくなったり、ほかさまざまなModっていうの?それが使えるようになったりするらしい。
つまり、過去さまざまな時代の英雄が魔王に敗れてきた理由は、このレベルという概念の認識のなさによるものだと、俺は推測したわけで。
「……にしても、さすがに生徒には討伐依頼出さねぇよな……しかも、こんな時期に」
会場は学園内の校庭に設置するって話だし、周囲のモンスターに気を使う必要がない。
そもそも学園は、魔王討伐に参加を希望する訓練兵の練習場になっているわけだし、そうそう学園内に魔物が訪れることはない。
一度だけ、過去に誰かさんがミスって、巨大な蛇の魔物──確か、ヘビースネイクって言ったかな──を通したことがあるだけで、今までここに魔物が入ってきた事例は、それを除けばないも同然なのだ。
……まぁ、あった事例を除けば、ないも同然になるのは道理ではあるのだが。
「お、ウィル!こんなところで何してんだ?」
掲示板の前でうんうん唸っていると、後ろから金髪の幼女が俺に話しかけてきた。
ケイト・ハートフィリアである。
「お前こそこんなところで何してたんだ?お子さまがこんなところに来たら危ないでちゅよ~?」
「からかうな!」
そう言って、彼女は俺の膝窩(膝の裏)を蹴りあげた。
【針流:膝室】
「いっつ……!?」
とたん、力が抜けて、前に倒れる俺。
「ふん!バカにするのも大概にしろ!」
一瞬だけ現れたウィンドウの文字列にハテナマークを浮かべながら、俺はゆっくりと起き上がろうとした。
……しかし。
「いっ!?」
膝の裏が痛くて立てなかった。
「バカだな~、お前さんも」
そんな様子を見ていたのか、どこからか長めの茶髪をオールバックにした、切れ長の目を持つ長身の男がやって来た。
「二年二組の、たしかエヴュラ先輩でしたっけ?」
この前、名簿で記憶したすべての生徒の名前を、アーカイヴスで顔写真だけ調べておいたことがあった。
その時、俺は彼をワル系のイケメンだと思っていたことを覚えていたので、すぐに見分けがついた。
「ほぉう?お前さん、俺のこと知ってるのかい?」
若干しゃがれた声で、俺の前に屈み込み見下ろすエヴュラ。
「……まぁいいさ。それにしてもバカだな~お前は?」
「バカで結構ですよ……でも、それ以上言われるとちょっとキレそうなのでやめてくれませんか先輩?」
俺は、なんとかあの黒いモヤモヤで体を支えながら立ち上がると、嫌悪した目で睨み返した。
すると、彼は一瞬だけ目を見開いて、ニヤリと笑った。
……こいつは、なんだか無性に腹が立つ。
生理的に嫌いだ。
「わぁ~ったよ。またいつか会おうな、かみ……おっと滑った。ウィリアム・マーキュライト君」
彼はそう言うと、後ろ手に手を振りながら、どこかへと消えていった。
「二度と会いたくないな、あいつ……」
……それにしてもあいつ、何で俺のこと知ってたんだろう?
そんな疑問の残るなか、俺はケイトの方へと向き直った。
「……ウィル、そのモヤモヤって……」
すると彼女は、なぜか信じられないものを見るような目で俺を見ていた。
「あぁ、これな。なぜかは知らないが、気がついたらいつの間にか使えるようになってたよ」
「いや、そういう問題じゃなくて……まぁ、いいや。突然あんなことして悪かったな、ウィル」
苦笑を浮かべて、俺の肩をポンポンと叩くケイト。
「なんだよ急に?らしくないぞ?」
「そ、そうかな?」
そう言って笑う金髪幼女。
これは絶対、何か隠してる。
中途半端にアニメとか見てきたけど、こういう何かありそうな挙動不審には、きっと何かがあるというのは、お約束中のお約束だしな。
「 そ、それじゃぁ私は、そろそろ家に帰るよ!じゃあな!」
そして、急いでケイトはその場をあとにした。
【針流:膝室】分類:蹴り
相手の膝窩に爪先を入れて、相手を前のめりに倒す技。
うまく決まれば、しばらく相手は立てないようになる。
使い方:まず、相手の膝の裏に爪先(親指を中心にする)を入れる。この時、膝の裏の窪みの、一番凹んでいるところに全体重を踏み込むようにしていれることがポイント。
次に、蹴りあげる、というより、前に一歩進むように下へ軽く踏み込む。ここでうまく決まれば、相手は脚に痺れを感じる。
終わり。
注意:完全に抑え込むと、脚をからめられて固め技に持っていかれるので、押したあとは速やかに足を戻しましょう。




