表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生魔王の墜落詩  作者: 忍霧麒麟
失楽園の王子
19/38

18 君の名前は

 食事も終わり、食器などの片付けも終了した頃。

 俺は、彼女にとある質問を投げ掛けた。


「そういえば君、名前は何て言うの?」


 昨夜……いや、今日の早朝とでも言おうか。

 俺は彼女に名前を言ったが、この腹ペコ幽霊からは名前を聞いていなかった。


「……なまえ?」


「君とか、腹ペコ幽霊とかじゃなんか呼び辛いだろ?」


「……はらぺこゆうれい?」


 ……あ、これ自分で口にして初めて気がついたけど、この名前センス無いわ。


「だから、名前を聞こうと思ってさ」


 そう言って、俺はカップに紅茶を淹れた。


 ピンク色の花の装飾がされたカップが傾き、彼女の口の中へと流れ込んでいく。


 ……そういえば、幽霊なのにものを食べることができるんだな。

 今こうやって見ていると、それがそのまま透過して、下に落ちるんじゃないか?とか考えたけれど、どうやらその心配は杞憂だったようだ。


(……幽霊って、もしかしてそういう種族がいるって設定なんだろうか?)


 どうでもいいこと考えながら、ウィリアムは彼女の回答を待った。


「……ゆうか。それが、わたしのなまえ」


 ユウカ、か。

 ある意味、何の捻りもない名前だな。


 それに、なんか名前が日本人っぽいような。

 そういえば、ナツメ先生も日本人っぽい名前だよな。

 ナツメ・クラハ。

 日本人みたいに、先に名字が来る感じだと、クラハ・ナツメになるわけか。


「そうか。それじゃ、ユウカ。これからよろしくな」


 俺はそう言って、手を差し出した。


「……うぃる、またごはん、つくってくれるの?」


「そのために、お前専用の食器買ってやったんだろ」


 それに、なんか放っておけない気がする。

 なんというか、なんと言えばいいか。

 独り暮らしってのも、なんか寂しいし。


(……なんで、なんだろうな?)


 疑問は残るままだが、まあそれは別にいいだろう。

 後でアーカイヴスで調べればいいし。


 すると、彼女は差し出した俺の手を見つめると、やがてその手を握り返した。


「……おなか、すいた。うぃる、ごはん」


「さっき食べただろ」


 さんざんおかわり言っておいて、まだ食おうとするのかこいつは。


「……そうだっけ?」


「もう忘れたのかよ!?」


 ……ま、いっか。


「でも、こんな時間にいっぱい食ったら太るぞ?」


「……ゆうれいだから、ふとらない」


「なにそれ、食いだめとかできんの?幽霊って」


 こくり、と頷くユウカ。

 まあそうですよね、わかってましたとも。ここが非常識な世界だってことくらいは。


【その通り】


 ほらね、さっきこっそりアーカイヴス使ってみたんだけど、幽霊は本当に食いだめができるらしい。


 こうして俺は、盛大なため息をつくこととなった。


 この異世界にやって来て数日。

 もうすぐ一週間が経とうとしている。

 俺の心は不安だらけと言っても過言ではないが、それでも俺は、臆病なりにこの世界を生きていこうと思う。


 ──生きて、俺は城山を救いだして見せる。
































「……」


 夜中。私は、天井から滴り落ちる水滴に目が覚めた。

 地下の独房。

 寒く、恐ろしい世界。


 ──私の、嫌いな場所。 


 だけど、その中で唯一、嫌いではないものがある。


「仕事だ、起きろ」


「っ……!」


 バケツ一杯の氷水を頭からぶちまけられ、私の目は覚醒する。

 もともと白い肌が更に血の気を無くし、血色の悪い唇は、その辛さを物語っていた。


 私は裸のまま独房から連れ出されると、獄吏から一着の服を渡された。

 黒い、裾の長いローブである。

 その下には、赤紫色のワンピースのような衣類を着こんでおり、奴隷である証として、下着はつけられてはいない。


「今回も、仕事の内容は同じだ。いいな?」


 獄吏を勤める悪魔の声に、私はこくりと頷いた。


 仕事の内容は、地球──つまり、私達が居た、あの世界を征服することである。


 この時だけ、私はもとの世界に帰ることが許される。

 ……だが、許されただけであって、自由はない。


 逆らえば、死ぬ。


 そういう呪いがかけられているからだ。


「魔王様の御言のままに」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ