第6話【4】
翌日、坊主頭と額を隠すよう薄ピンク色のニット帽を被る少女が赤羽神社を訪れた。
「ここが私のおうちですか?」
不安そうな三船未来に、白石美空が告げる。
「そうだよ! プレハブ小屋だけど、大丈夫、こんなに広いから!」
ウサギのぬいぐるみ事件で捜査本部に使用したプレハブの長屋を再び建設したのだ。ここには、世話役もかねて白石も住む予定だ。
七三分けの水色袴姿のメガネ男子、林手一平が告げる。
「何かあれば、僕ら心霊保安官が守るよ。それに、赤羽には正義の使者、レッドウイング・ゴリスタル・カイザーがいるから安心してね!」
と、赤羽のドンが試作したフィギュアを見せびらかす。どうやら、赤羽駅前のゴリラを観光名所とすべく、現在さまざまなグッズを試作中らしい。
少女は人間とゴリラの合体兵器に、女刑事の背後に隠れてしまった。
「怖い……!」
「えぇ?! 以前は気に入ってくれていたじゃないですか!」
「一平、記憶がないっていっただろう」
「ブロッコリーに似ている……」
同僚の芦田聖夜が額に怒りマークを浮かべた。彼の髪が緑で天然なパーマだ。グリーンサラダのほかにブロッコリーと霊道院生時代にイジられたことがある。
「あのね、未来ちゃん。ブロッコリー、俺が嫌いな野菜。二度といわないで」
少女の肩に手を添える白石がいう、
「聖夜くん、ブロッコリー嫌いなんですか? マヨネーズ付けたら美味しいのに」
「姉御、ブロッコリーってキモくないっすか? あのツブツブな感じ」
「えー、ひど! ブロッコリー農家さんに謝罪案件だよ」
「姉御は育ちがいいから、なんでも食べられるんですよ。俺の毒親は嫌いなもんはとにかく食べさせなくて、今じゃ俺は偏食家ですから」
「今日から食べればいいじゃないか。未来さん、何か食べたいものある?」
と、三船未来を護衛する一人、心霊公安官の桜ノ宮勇月が尋ねた。
カウボーイの男がいう。「勇月、ここはラーメン一択でしょ! 祭りのときにラーメンを食べてたし、もしかしたら記憶が戻るかもしれない」
「いいや、隊長、ここはゴリソバで。美味しさのあまり、目が覚めますよ」
「いやいや、お二人さん。まだ朝の九時だよ。小腹には桜餅がベストだよ」
少女は悩む。三人の男が我こそはと顔を近づけてくる。圧がすごい。
「怖がるから、やめいッ!」
と、カミちゃまが間に入った。そして、少女は顔を上げてこういった。
「脳が食べたい」と。
みなが背筋を凍らせる中で、カウボーイは眼に、拳に、つま先に力を込める。
この国が隠す何かを知るために、己の運命と向き合うために、彼は右手中指の指輪を外して、その少女の右手中指にはめた。
三船未来は煌めくハートの紋章に心を奪われているようだ。
そして、近藤は自分の小指と少女の小指を結んだ。
「俺は赤羽神社の心霊保安官、慈愛の美徳で赤羽を守る愛の戦士、ラブヘルパーこと近藤愛之助だ。未来ちゃん、俺はこの右胸の心臓に誓って、君を守るよ」
少女は真っ青な顔になった。そして、少し間をあけて、ポツリと返す。
「……怖い」と。
ヒミコという魔女が言っていた、父親が生きていると。大統領暗殺事件で父親、近藤金之助は大和江戸城前で処刑された。そして、母親はその後を追って死を選んだ。
その父親が生きていると聞いた。本当かどうかは真偽不明だ。だが、七夕の日に何かが起きるだろう。カウボーイハットと父親の刀を持った魔女がそう言っていた。
七夕の日まで二か月、近藤愛之助が確固たる決意を持ったとき、
「近藤愛之助保安官、幼女恋愛感情保持罪で逮捕します」
ガチャン、女刑事が男の両手首に手錠をかけた。
「えー、なんで?!」
「なんで、じゃない! いいですか、未来ちゃんに何かしたら即時刑務所にぶち込みますからね! ラブヘルパーならぬラブキラーにならないでください!」
激高する白石だ。少女を妹、娘、家族のように思い、守ると決めている。
近藤は憎き死神を思い出す。ミュージシャンの男で、ファンの女を殺していた。
『愛されて死んだ方が幸せだと思わないかい? だから、僕はラブキラーになったんだよ。幸せを願う女の子のために、ね』
「どうしたんですか、ラブ助?」
「あ、いや、なんでもない」
「兄貴、もしかしてガチでへこんでんすか?」
「いや、そういうことじゃないんだけど……」
釈明するのが難しい。気まずい空気が境内を覆ったとき、神馬が鳥居に向かって鳴いた。全員がその方へと顔を向けた。
「すんませーん! ラブヘルパーさん、おりませんかーっ?」
ボーイッシュな緑と茶を混ぜた髪色の若い女が神社を訪れた。ずいぶんラフな格好で、はだけたシャツからブラジャーが丸見えだ。聖夜の目が見開く。
「あ、いた! おーい、ラブヘルパーさんっ!」
カウボーイを見つけるや否や女は駆け寄り、いきなり腰を折った。
「ワイは磯部理沙いそべりさです。祭りの時に食べた屋台のラーメンに惚れました! ワイをぜひとも弟子にしてください! お願いしまーすっ!」
「へ、弟子?!」
こうして、東京都北区赤羽に新たな住民がやってきたのだった。




