表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反逆の心臓  作者: だいふく丸
31/41

第5話【2】

 綱引き対決で幕を開けた赤羽おバカ祭りは週末の土日に催される。


 土曜日の企画、午前は赤羽のど自慢大会とアーティストによるライブ、午後は東口にて赤羽ルンルン商店街で行われる山車レースだ。


 日曜日の企画、午前は西口にて赤羽ショッピングモール店舗対抗荒川河川敷マラソン、午後は赤羽かくし芸大会と漫才師によるライブだ。


 来場者は東京都内だけでなく、関東圏からも数多く訪れる。祭りで特徴的なのはコスプレを推奨している点だろうか。老若男女問わず、北区長や都議会議員など政治家もこぞって好きな服装を着て、非日常感満載な祭りを楽しむ。中にはドクロ仮面を付け、大鎌を担いだ死神の恰好をする、護神庁にケンカを売る若者もいるが。


「リンゴのみちよラーメンください!」


 赤羽神社はコスプレイヤーたちで賑わう。彼らのお目当てはブチ模様の神馬との乗馬体験もあるが、広い境内に設置されたメン好きにはたまらないフードコートだ。


 ソーメン、ラーメン、つけ麺、パスタ、うどん、そばなど麺類の屋台が並び、近隣学校の学生たちによる活発な呼び込みが神社の空気と霊気を朗らかに温めていた。


「未来ちゃん。れいちぇるず、すごかったね!」


「れいちぇるずってすごいんだね! めっちゃ可愛かった!」


 簡易テーブル席に座った少女の瞳は潤んでいた。悲しいからではない、エンターテインメントのすばらしさに感動したからだ。


 ウサギのぬいぐるみ事件で少女の母親は殺人者となってしまった。現在も意識不明の重体で入院している。母親の様態も気になるが、なにせ自分が加害者遺族となったことで、また学校でいじめられると怖くなった。現在は白石とホテルで生活中だ。


 真横に座る、姉のように付き添う女刑事は買ったばかりのタオルを首に巻き、興奮冷めやらぬ恍惚な表情でペットボトルの水を飲み、糖分補給に桜餅をかじる。


 れいちぇるずとは、護神庁が活動PR目的に設立した六人組アイドルグループだ。国家霊道士養成機関霊道院の女子学生を集めて地域での行事を盛り上げている。


 結成から一周年を迎え、先々週にお台場のライブハウスで行われたアニバーサリーライブは盛況のまま幕を閉じた。ファンたちは確信する、俺たちの時代が来ると。


 盛り上がりはSNSで話題となり、ゴールデンウィークは各地の音楽フェスからオファーを受けるほどだ。そのウォーミングアップの場がこの赤羽おばか祭りだ。


 ウォーミングアップとはいえ、彼女たちが日々努力してきた成果を目にすれば、アイドルに興味がなかった大人でさえ、その情熱に心を打たれて虜となる。


「白石警部、未来さん。この子が羽武翔子です」


「初めまして。れいちぇるずのイエロー担当、羽武翔子です。ずっきゅん♪」


 三船未来の元へ、黄色の魔法少女が会いに来たのだ。アイドルによるファンサービスで心臓を撃ち抜かれてしまった。


「か、かわいい……!」


 そのアイドルはタンポポのよう微笑む。身長は低いけれども、子猫に似たそのクリクリとした瞳、メンバーを引き立てる明るく思いやりがある性格、キレのあるダンスがオタクたちのハートを鷲掴んで離さない。


「あ、握手してくださいっ!」


 白石美空が両手を何度もタオルで拭き、羽武と握手をする。


「あー、グッズ買ってくれたんですね。ありがとう、ございます♪」


「あ、ありがとうございます!」


 触れた右手を宝物のよう見つめる未来に、同期生のアイドルを連れて来た桜ノ宮愛月は感激したのか、ハンカチで目元を拭う。




 兄の勇月から赤羽で発生したウサギのぬいぐるみ関連事件の話を聞いていた。


 三船未来の母親早絵が悪霊に憑依され、殺人事件を起こしたと。その事件の背後には死神の組織、殺神隊とそのボスが絡んでいたと。母子家庭だった未来は親戚と疎遠であり、今後は養護施設に預けられ、この先の茨な人生を母親抜きで生きていかなければならないと。


 少しでも元気になれば、と愛月は友達のアイドルを紹介した。


 少女の笑顔が温かい霊気を引き付ける。ささやかな力にはなれたようだ。


「はーい、未来ちゃん。リンゴのみちよだよ」


 と、赤羽神社に所属する心霊保安官が開く、行列が絶えないラーメン屋台から自慢の一品と、今年の屋台キャラクター《林檎野りんごのみちよ》の缶バッジが届けられた。アニメオタク層を狙ったグッズだ。


 黒マントの代わりに《赤羽神社》の法被を着る坊主頭の近藤に未来は礼をいい、リンゴの優しい甘みがみその塩辛さと絶妙に絡むちぢれ麵をすする。


「んーっ、おいしっ!」


「未来ちゃん、ベーコンで野菜と麺を巻いて食べてみ」


「んんんーーーっっ!!」


 少女は言葉を失う。拳を丸めてガッツポーズする近藤だ。SNSでも新感覚な味を褒められており、屋台に行列ができている。


「近藤さん、私の分は?」


 女刑事がねだるも、「並んでください」と店主は突っぱねた。


「ケチ」頬を膨らます白石が疑問を口にする。「そういえば、一平ちゃんはどこにいるんですか? ソバの屋台、けっこう楽しみにしていたんですけど」


「あー、一平ちゃんのゴリソバは日曜だけですね。今日は、午後の山車レースに全身全霊で挑むんで。気合が違うのですよ、気合が」




 赤羽商店街前、大通りは祭りの開催に合わせて交通規制が敷かれている。


 歩行者天国となった道にはレースに出場する大小さまざま、多彩な人形の山車が展示される。人形は出場規定さえ守れば何でもよく、ドラゴンやケロべロスといった伝説の生き物のほかに、お城や自宅、おまんじゅうにどんぶりまである。


 中でも、人々の注目を集めてSNSでトレンド入りしたのはアレだ。


 威厳と勇敢を表現したその鋼鉄のボディは陽射しを跳ね返し、堀が深い精かんな顔付きは格下の敵を跪かせ、紅い両翼は今にも青く澄み渡る空へと羽ばたくだろう。


 そして、赤羽を破壊しに来た怪獣を一撃で蹴散らす、ザ・マイスターによって魔改造された黄金の右腕、グレネードランチャーが今日も赤羽の街を破壊しながら守り抜く。彼の名は正義の使者、レッドウイング・ゴリハルコンだ。


「すっげぇ……このゴリラ。いくらかかってんだよ……」


 一眼レフカメラで撮影するロボット愛好家に、背後に立つ開発者本人が訂正する。


「これはゴリラではありません。ゴリさんです。いや、違う。悪魔を木っ端微塵に吹き飛ばす、孤高なるニュータイプ、レッドウイング・ゴリハルコンです」


 キラーン、偶然にも陽射しが白衣の男のメガネに反射する。


「一平よ! わらわは、わらわは、やっぱりこんなのに乗りたくない!」


「こんなのでも乗ってくださいっ!」


 巫女少女姿をした赤羽神社のアカバネノカミが駄々をこねているのだ。


 カミは山車に付けられた神座へと座る決まりがある。ゴリハルコンの場合は両翼の間、背中に神座があり、カミとて高いところは苦手だ。


「あれからめちゃくちゃ試行錯誤して、ようやく今日に至るんです! 赤羽神社のカミちゃまなら、その努力を認めてください!」


「認めるかっ!」


 民間人にカミは見えていない。一人で声を荒げ始めた林手一平からロボット愛好家が離れていくも、赤羽の隣町、王子神社ご一行が到着する。


「ごきげんよう、アカバネノカミさん」


 狐の少女姿のオウジノカミのご登場だ。愛用する扇子を仰ぎながら挨拶する。


「わたくしたちが本年度も優勝杯を頂きますわ」


「このゴリラもくれてやるわ!」


「ダメです! このゴリハルコンは動物園に寄付するんですから」


 アカバネノカミが投げやりな態度なのは、レースで勝てないと悟ったからだ。


 ゴリハルコン号は出場規定のギリギリ、祭りのパンフレット曰く、最長かつ最重量の山車で商店街の天井に頭頂部がスレスレだそうだ。


 しかも、王子神社のシルバー・フォックス号はその真反対、最短かつ最軽量の山車で、担ぐ心霊保安官三人は俊足ぞろいで毎年レースレコードを更新してくる。


 また、山車の神座にはアカバネノカミとオウジノカミ、そして十条神社のジュウジョウノカミが交互に座る。ごくごくたまに選手がこけてしまい、カミともども山車が放り飛ばされるためだ。カミたちにとっても、この山車レースは極めてエキサイティングでデンジャラスな催しなのだ。


 ちなみに、王子神社の祭りは八月上旬、十条神社の祭りは十二月下旬に行われ、山車レースも当然ある。ちなみに、赤羽神社は連敗街道まっしぐらだ。


 保安官とカミが痴話げんかしている他方で、赤羽神社には王子神社の心霊保安官、メガネ愛好家でもある江藤玲子えとうれいこが新作のラーメンを目当てに足を運んでいた。レースには出ないので紫色の袴姿だ。


「近藤くん、ラーメン食べに来たわ」


「今日もお奇麗ですね、江藤少佐」


 美貌を褒められると頬を赤らめる癖がある。メガネをかちゃり、


「じゃあ、ラーメン無料にして。皐月賞外しちゃってさ」


「ダメです。今年は荒れましたね。まさか四コーナーでショートカットするとは」


 競馬談義で談笑する二人に、一人の心霊公安官が訪ねた。


 桜の家紋の額当てをする、桜ノ宮勇月だ。神妙な面持ちで彼らに話しかける。


「ラブ助、江藤少佐、ちょっと」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ