私が生まれた日の話
気が付いたら眠っていた。
どうやらうたた寝をしていたようだ。
どんな夢を見ていたのだろうか。
思い出せないが関係ない。
なぜなら私はどんな夢も描けれる。
この現実という名のどうしようもない世界においてだ。
どうしようもないからこそ、私はここでこうして寝ていられるのだ。
そこら中を闊歩する人々には夢がある。
それを叶えようと日々頑張っているのだろう。
それは良いことだ。
だが、夢は見るものではない。
私のように夢のままで終わらせずに現実にすることが必要なのだ。
でなければ彼らは私という名の映画のエキストラにすぎない。
でもそれは良いことだ。
私と共に同じスクリーンに映って私という主役の脇を飾る。
とても名誉な事じゃないか。
本当にそう思う。
私は権力の椅子を手に入れた。
権力者が座りそうな椅子ではない。
文字通り権力の椅子だ。
信じられない事かもしれないが、この椅子は持ち主にただならぬ権力をもたらす。
それがこの権力の椅子だ。
あれはまだ私がどうしようもない時の話だ。
どうしようもないといっても私の所為ではない。
それは私を取り囲む環境、時代、人がただ悪かっただけで、私には何の原因も無かったのだが、私は何も持てぬ明日すら見えない根無し草だった。
雨風をしのぐ屋根すらなくこんな物に溢れる国において、私は餓死しそうになっていた。
盗みなどをして生き延びようなどというつもりもなかった。
そんな下卑た行為をするぐらいなら私は死を待つ道を選んだのだ。
何度も言うがこうなってしまったのも私の所為ではないのだ。
私の考えに共感しなかった者や私を住みづらくさせた国の方針、その全てが悪いのだ。
そんな悪に追い縋って生を見つめる行為など私には出来なかった。
だから私は死を覚悟した。
最期に私は私を小馬鹿にし、嘲笑う悪鬼のような顔をした人々の顔を思い浮かべていた。
だが、やはりどう考えても私にそんな目に合う原因は見当たらなかった。
なのでどこを改善してこれからを考える意味というものが解らなかった。
ならば、私には自分の人生を終わらせる事にしかその意味はないとしか思えなかった。
適正出来なければ消えて行くしかない。
それが世の常なのだと思うしかなかった。
私は決して敗者ではない。
また違う時代で違う気概があれば私は消えずにすんだのだろう。
それだけの話だ。
最期の場所へと、私は人のいない家電製品が無造作に不法投棄されそれが山となっている場所へとやってきた。
この時代に合わなくなり人に捨てられた家電の山が何か私と似ていると感じたのだ。
どこか、より心の落ち着く場所を探し、ヨロヨロと私はその山の中を徘徊していった。
実際には聞こえるはずがないのだが、「おかえりなさい、あなたも疲れたでしょう」と私に家電達が語りかけているように私には聞こえた。
そこにその権力の椅子はあった。
雨ざらしになりぼろぼろになってはいたが、かつては地位の高そうな人物が座ってあったであろう椅子に私は吸い込まれた。
自然と私はその椅子に吸い寄せられ、椅子を求めた。
その椅子に座ると気を失った。
空腹で体力の限界という事もあったし、その椅子の力だったのかもしれない。
そして私はそこで一度死んだ。
目が覚めるとどうしようもなく悪い気分を感じていたが、その一方でふつふつと湧いてくる力を感じていた。
即座にこう思った。
『こんな所で消えている場合じゃない』
そこから私は起き上がり、自分の感じる意のままに家電の中から冷蔵庫を時間をかけ、やっとの思いで引っ張り出した。
何故そんな事をしたのかとかはどうでもいいように感じた。
なぜならそんな事を考える事に意味はないからだ。
それが私にとって必要なだけでそれをする事が私にとっての全てだった。
今、考えればそれが最初の椅子の力だったのかもしれない。
そうとしか説明が出来ない。
そして私は冷蔵庫の中から取り出した大量の札束と権力の椅子を山の中から持ち出して、そこを後にした。
何故、冷蔵庫の中に札束があったかだって?
そこにあるべくしてあったからだ。
どこの暴力団の脱税した金だとか、どこかの金持ちのユーモアだとか考えれる事は山のようにあるが、それはどうでもいいことだ。
重要なのはそこに私の為にそれがあったという事だ。
新しい私の為の世界を作る為に。
続く




