壱
夕花様の【動物の世界にとりっぷ!】シリーズに参加させて頂きたいと前々から思っており、図々しいのですがさせて頂きました。
世界観が・・・・と思う方もいらっしゃると思いますが、心広く見て頂ければ幸いです。
拝啓
お父さん、お母さん、お元気ですか?
突然いなくなってしまった私のことを心配なさっておいでだと思います。
心配しないで下さいと言いたいのですが、言葉も伝えるすべがありません。
けれど、送るあてのない手紙を今書いています。
私は元気です。
この言葉だけでもどうか届きますように。
見上げると湿った生温かな鼻とひくひくと揺れる金色の髭。
頭に乗った生き物をむんずと掴むと私は顔に近づけ頬ずりをする。
あぁ、なんて柔らかいんだろう。
金色の美しい柔らかな毛並を頬で十分堪能すると私は、ひょいと目線までその生き物を持ち銀色のきらきらとした大きな瞳が私を映し出す。
「もう、終いか?」
「もっとぎゅっとしたい・・・・」
ぴくりと大きな耳が上がりふさふさの尻尾はふりふりと揺れた。
「けど、そろそろ休憩が終わるので駄目、駄目。ヤコウ様も、そろそろお勉強のお時間ですよね?」
大きな耳がだらりと下がり尻尾は動くのをぴたりと止めた。
目の前にいるしゅんと項垂れる生き物はまさしく狐の子供だった。
でも、人間はこの世界にはいないんだって。時折この世界に落ちてくる人を落人っていうらしい。
「余はサキとぎゅっとしていたい____何故、サキは余に夢中にならぬのじゃ?余にはそんなに魅力がないか?」
そんな不埒なことを言われましても・・・・・
狐の一族に求められるのは美しさを纏い他者を圧倒することが出来るほどの魅力だ。
ヤコウ様は、身分の高い弧族の生まれでしかもその弧族の中でも美しさは1、2位を争う。
私はこの狐を主人とし侍女として働いている。
答えない私にヤコウ様は、興味を削がれたのかもうよいと私の顔をそのおみ足で蹴ると宙を舞いとんと地面に降りられる。
そして、いつの間にか目の前には、金色の髪の綺麗な顔立ちをした少年がいた。
「余の侍女のくせに生意気じゃ!可愛げというものが全くない!」
じろりと不服そうに睨みつけるのは銀色のガラス玉。可愛げを求められましてもそんなものは持ち合わせていませんと答えると彼ご愛用の扇子を顔に投げつけられる。ひょいと上手に躱してみせるとふんとそっぽを向いて踵を返して歩き始めた。
齢15になられたヤコウ様はどうやらお年頃らしい。