弐
「サキは偉いよ」
侍女仲間のお香がよいしょと薪を背負いながら言った。
「ヤコウ様は酷い癇癪持ちだから半年ともった侍女はいなかったね」
確かにお香の主人であるカンナリ様は、侍女が何十人もいるのに対してヤコウ様には私しかいない。
「清めの時間もヤコウ様ってそりゃあ長いんだろ?清め勤めの巫女婆様たちもそりゃあ骨が折れるっていってたよ」
狐族は、風呂がとても好きだ。私も好きだけれど彼らにはとても適わない。ヤコウ様は、確かに他のものより長く入浴をしている。
湯を温める薪の量は半端なく使うし、薪を運ぶ体力のない私はぐったりと疲れてしまう。
「頑張れるのはいつも、香が手伝ってくれるからだよ」
私がいうとお香は照れ臭そうに首を傾げえへへと笑った。
「サキの作ってくれた服みんなに評判でさぁ」
「あぁ、あの青空色の綺麗な衣?ワンピースにしただけだよぉ」
ヤコウ様がいらないと捨てた衣をいつも世話になっているお香のために、ワンピースに縫い直しプレゼントしたところこんなに変わった服は、見たこともないと大変喜ばれた。
まだ、布が余ってるし、今度は巾着でも作ろうかなぁ。きっと可愛い巾着が出来るだろうとにやにやとしていると、きゃあきゃあと侍女たちが騒ぎだした。
「カンナリ様だ」
お香が、頬を赤らめぼおっと湯あみ場の渡り廊下を見つめている。
美しい銀色の尾が七つ。尾と同じく肩に流した髪は、天の川のように輝いている。
「顔もお美しいし、あの琥珀色の瞳で見つめられたら」
はあと溜息をつくお香は恋する乙女だ。清め勤めの巫女婆様たちも同じく、頬を赤らめはあと溜息をついている。
「う・・・うちのヤコウ様だって負けてないよ」
そう言ったが、サキの声は弱弱しかった。
ぐすり、すん・・・
ぐすり_____
どうして泣いてるんだろう?
目の前で男の子が蹲って泣いている。
ぐすり、すん。すん。
声をかけても顔も上げようとしない。なんだか、可愛そうだなぁ。めんどくさがりの私は家の階段を飛越し、少年の元へと駆け寄ろうとした。
あれれ・・・
階段をたった3段飛び越しただけなのになんだろうこれは。
何だか奈落の下に落ちていくような。
「ひやあ」
着地に失敗した私は、可笑しな声をあげ尻餅をついてしまった。
驚いて顔を上げた少年は、とても悲しいめにあったのだろう。
腫れ上がった瞼からは、止めどなく新しい涙が流れているし、鼻からは鼻水が垂れている。
まぁ世に言うぐちゃぐちゃな状態なんだけども、それでも、とても整った顔立ちをしている。
綺麗なつややかな御髪、涙のせいで潤んだ瞳など、見たこともない綺麗な銀色の瞳だった。
二回ほど瞳を瞬くと少年は、涙を袖で拭きぴしりと背中を正した。
「何の用じゃ?」
先ほどまでとは正反対に、感情の無くなってしまったガラス玉のような瞳が私を見つめた。
えーと。私は頬をぼりぼりと掻く。ちらりと周りを見渡せばいつもの見慣れた風景はなく澄んだ流水が流れる川と、赤い鳥居が並んでいた。
ここは、どこでしょう?
とりあえず_________
「僕、大丈夫?」
少年は、また驚いたように瞳を瞬かせた。涙はもう出てはいないが頬には涙の跡がくっきり残っている。
余が怖くないのか?そう少年が聞いてきたので私は首を傾げた。
なんで?____だって、あなた子供じゃない。
よくよく見てもとても綺麗な子供だと思う。でも、何故か少年は真っ白な着物を着ていた。
「そうか__可笑しな侍女じゃな・・・」
(あ・・・笑った)
私は、胸を撫で下ろした。
(でも、ここはどこだろう)
少年は泣き止んだけれど_____私は家に帰れなくなってしまった。
帰り方が分からない。
まるで、迷子の子供のようだ。




