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【完結】クリムゾン・コート・クルセイド Vol.Ⅱ ”平和たる軍靴"  作者: アイセル
第八章 Reckoning

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落とし前―⑥―

当作品の無断転載、AIを含めたあらゆる二次利用を禁止します!!

Do not reupload / use my writing for any purposes, including for AI!!

上万作(あまんさく)駅前 午後6時37分


 堀川 一は、余(・)り(・)に(・)も(・)変(・)わ(・)り(・)果(・)て(・)た(・)上万作(あまんさく)駅前の現状に目を疑った。


 隣にいる同級生の少女――秋津 澄香――も、目の前に広がる光景に言葉どころか、息すらも止まっている。


 秋津を初めて見た時、堀川は特に快活と思っていなかった。


 特段おとなしいということもない。


 上万作(あまんさく)駅前広場の惨状を眼にした彼女の全身から、生(・)気(・)が(・)全(・)て(・)消(・)え(・)失(・)せ(・)て(・)い(・)く(・)様に見えた。


 彼女の眼から再(・)び(・)溢(・)れ(・)そ(・)う(・)に(・)な(・)る(・)涙。


 そこに映し出される炎、瓦礫、と堀川の顔。


 目(・)の(・)前(・)の(・)惨(・)状(・)に(・)対(・)し(・)揺(・)れ(・)動(・)く(・)環(・)状(・)。


 それらが、今の彼女を支えていているようだった。


「状況は?」


 苔色の外套(コート)を着た茶髪の青年――IX組の副担任のブルース=バルトと堀川は聞いていた――が、白い装甲を纏った"ワールド・シェパード社"の社員に話しかけている。


 その様子を見つけた背広を着た二人の男が、ブルースに話しかけて来た。


 それぞれが、手帳をブルースに見せる。


 刑事だろうか。


 眼が細い禿頭と頭頂部に頭髪を少し残した丸顔の刑事も加わり、会話を始める。


「いつものように"政市会"関係者を見つけ、"政声隊"が追いかけ回していました」


 "ワールド・シェパード社"の社員が言うと、


「それに対して、"政市会"会員達が集まって、追ってきた"政声隊"の関係者を警棒……かな? それで迎え撃って来て、乱闘騒ぎ。俺たち警察も出る羽目になった」


 少しの頭髪を頭頂部に残す刑事が、ブルースと親しいのか率直に話す。


「そ(・)れ(・)だ(・)け(・)な(・)ら(・)良かったんだが……」


 禿頭の刑事の口調も砕けている。


 ただ、目(・)の(・)前(・)の(・)状(・)況(・)に(・)理(・)解(・)が(・)追(・)い(・)つ(・)か(・)ず(・)言葉を選んでいるのか、少々歯切れが悪い。


「時間帯が買い物客、下校している学生や、職場帰りで多い駅前。加えて広場では、そんな彼らに向けて訴える"政市会"と"政声隊"……非武装だったが……」


 卵を思わせる輪郭の細目の刑事が、眉間に皺を寄せて、


「それを見つけた"政声隊"の中で得物を持っている奴らが広場に乱入。SNSの投稿から見て付近にいた"政市会"関係者まで狩りだした。加えて、武装していない"政声隊"のデモに"政市会"も攻撃を仕掛けて、それぞれ報復し合って、広場に雪崩れ込んで……悪化の一途だ」


 卵を思わせる輪郭の刑事が吐き捨てる。


「それから、駅前広場を中心にして争っている。俺たちは、どちらの政治団体も広場に押し込めて、拡散しない様にしているが……」


 刑事の言葉に、ブルースが眉間にしわを寄せる。


 駅前広場に通じる道路には、警察車両と"ワールド・シェパード社"の車両が並列に並んでいた。


 救急車両や消防車も控えているが、その先で広がる炎や雷撃、叫び声が壁を作る。


 その中で助けを待つ者に、手を差し伸べられないことへの悔しさが、それぞれの隊員たちから堀川にも伝わってきた。


 ブルースと話していた丸顔の刑事が、会話を遮りパトカーに向かう。


「……何、是音台で、同田貫――火事――!?」


 断片的に出た名前に、堀川の足は思わず刑事の方に向かった。


「同田貫くんに何かあったんですか!?」


 無線で応答していた刑事が思わず目を見開いた。


 堀川は戸惑う刑事を他所に、掴みかかる。


 困惑する丸顔の刑事がブルースに助け船を求めた。


 戸惑う刑事の反応を見て、冷静さを取り戻した堀川は周囲を見渡す。


 ブルースはバツが悪そうにして、天を仰いでいた。


 "ワールド・シェパード社"の隊員は犬耳兜で顔は見えない。


 だが、彼の視線がどこかブルースの居心地を更に悪くしていた。


 卵頭の刑事が出て来て、丸顔の刑事から無線を取る。


 乱入してしまった恥ずかしくなった顔が、ブルースの眼に映った。


 羞恥心が増し、丸顔の刑事から手を放すと、


「少し落ち着いて聞いて欲しい」


 卵頭の刑事に両肩に手を置かれて、堀川は思わず向き合う。


「同田貫くんのお友達で……良いかな?」


 刑事の声に、堀川は思わず頷く。


 先ほどの緊迫した口調とは、似ても似つかない穏やかなものだった。


「先ほど入った無線は、同田貫 剛一さん……つまり、お友達のお父さんの事務所が火事になった……ということ」


 穏やかな口調から語られた内容は、堀川が穏やかでいられる内容ではない。


 少し前に話した、同田貫 剛多を取り巻く状況が最悪になったことの証左だった。


「焦るのは分かる……ただ、ケガ人はいない。お友達は……確か、同田貫さんの息子さんの名前、剛多くん……で良かったかな?」


 卵頭の刑事の優しい問いに、堀川は首を縦にゆっくり振る。


 内心驚いたが、焦りと言う焦りが堀川の身体の内から消えていった。


「彼の名前は無い。もちろん、彼のお父さんもお母さんも無事だ」


 語られる内容に安心した。


 同田貫自身を取り巻く現状が、堀川の中で突如、不安の間欠泉として上がる。


「でも……同田貫くんは、"政市会"で――」


「そちらも大丈夫」


 卵頭の刑事が、相棒の丸顔の刑事に視線を促すと、


「ああ、今のところ……"政市会"と"政声隊"の関係者……どちらからも、君(・)た(・)ち(・)と(・)同(・)年(・)代(・)の(・)子(・)で(・)、救(・)急(・)搬(・)送(・)さ(・)れ(・)た(・)と(・)い(・)う(・)報(・)告(・)は(・)聞(・)い(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。この辺りで、逮(・)捕(・)さ(・)れ(・)た(・)という話も……もちろん、ない」


 丸顔の刑事からの言葉に、堀川は脱力した。


 友人がこの騒ぎを悪化させることはおろか、それで危険に晒されたこともない。


 絶望感から解放されて、眼に熱い涙が出そうになると、


「はい」


 堀川の目の前に、差し出されるハンカチ。


 その色は、優しい空を思わせる水色。


「秋津……?」


 ハンカチの持ち主の眼に映る、堀川自身の姿。


 涙が止めどなく流れ、鼻水まで垂らしていた。


 気恥ずかしさを覚え、ハンカチを思わず右手で取る。


 取り方が乱暴だったのではと堀川は考えてしまったが、その時には両目の涙を拭っていた。


「……鼻水も拭いたら?」


「いや、汚いよ!!」


 秋津の言葉に、堀川は思わず声を上げた。


 不思議そうに見つめる秋津のつぶらな瞳。


 堀川の鼻水が、目立っていた。


「……汚くないよ? 堀川くんが友達を心配しているところ……見られて、安心したな」


 秋津の一言に、堀川は言葉が出ない。


 それは、最悪な事態とかに直面したとかではない。


 心の中が温まるようなものだった。


「……堀川。鼻水拭いて、あとで洗って返しときな?」


 ブルースが優しく語りかける。


 苔色の外套(コート)の青年は笑顔だった。


 ただ、どこか目のやり場に困っている様に見える。


 現に刑事二人組や、兜で顔は分からないが"ワールド・シェパード社"の社員も明らかに、別のところへ視線を向けていた。


 堀川は、その様子に恥ずかしさと気まずさの混じった感情を覚える。


 しかし、堀川にとって予想外なのが、


「ふぇ……!?」


 言葉にならない、秋津本人からの声だった。


 秋津の顔も、何故か赤面している。


「え……私、堀川くんに……!?」


 今までのやり取りを思い返したのだろうか。


 少なくとも、秋津自身が口(・)に(・)し(・)た(・)言(・)葉(・)の(・)意(・)味(・)を理解できている様には見えなかった。


 意味を反芻した秋津の頭と首から下が赤くなる。

 

 もし、漫(・)画(・)か(・)ア(・)ニ(・)メ(・)の(・)世(・)界(・)だ(・)っ(・)た(・)ら(・)、秋(・)津(・)の(・)全(・)身(・)か(・)ら(・)大(・)き(・)な(・)キ(・)ノ(・)コ(・)雲(・)が(・)立(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)か(・)も(・)し(・)れ(・)な(・)い(・)。


「ちょっと待って……秋津……いや、その……もしかして――」


「ごめん、堀川くん……いや、『ご(・)め(・)ん(・)』というのは、そ(・)う(・)意(・)味(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)け(・)ど(・)……堀川くん……思ったよりも、頼もしくて……むしろ、鼻(・)水(・)だ(・)っ(・)て(・)本(・)当(・)に(・)汚(・)い(・)と(・)は(・)思(・)っ(・)て(・)な(・)く(・)て(・)――!!」


「秋津、これ以上言わなくて良いから!! それ……僕(・)も(・)恥(・)ず(・)か(・)し(・)く(・)な(・)る(・)!!」


 堀川は、同じく気恥ずかしさで直視できない、秋津から視線を外そうとする。


 しかし、秋津も自分を直視できないので、視線の着地場所を探すことが困難だった。

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© 2026 アイセル

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