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【完結】クリムゾン・コート・クルセイド Vol.Ⅱ ”平和たる軍靴"  作者: アイセル
第七章 Apple of Discord

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不和―③―

当作品の無断転載、AIを含めたあらゆる二次利用を禁止します!!

Do not reupload / use my writing for any purposes, including for AI!!

――何で、こんなことに……"S.P.E.A.R.(スピア)"は……"S.P.E.A.R.(スピア)"は!?"


 秋津の心の問いに応える者はいない。


 自分の涙で霞んだ天井が広がっている。


 LED照明は秋津の心境など構わず、変わらない輝きで自室を照らし続けた。


 潰えぬ輝きの下で、先ほど垣間見た"政声隊"の暴力性が頭をよぎる。


 そ(・)ん(・)な(・)彼(・)ら(・)だ(・)け(・)で(・)な(・)く(・)、"政(・)市(・)会(・)"に(・)も(・)立(・)ち(・)回(・)っ(・)た(・)ロック=ハイロウズ、河上 サキに、その仲間たちの姿が、秋津の頭に浮かんだ。



『平(・)和(・)っ(・)て(・)何(・)だ(・)?』



――……その通りだよね……。


 秋津の中で、少し前に問われたロックの言葉が反芻される。


 秋津は頭が良いかと言われれば、本人は否定するだろう。


 だが、時事にはある程度の関心はあった。


 ついでに言えば、関心を持つことを止めないこと。


 それが、世界や人と繋がることとも考えていた。


 渡瀬政権の行動はおかしい。


 小学生ながらそう考えていたら、秋津を中心に学生で行動を起こしていた。


 SNSを中心に高校生ばかりでなく、大学生や中学生もいた。


 確かに、渡瀬政権を止められるかと言えば、難しい。


 されど、世代を問わず、思いを共にする仲間たちの存在に秋津は頼もしく思えた。


 しかし、秋津たちに転機が訪れる。


 新聞記者の取材が来たのだ。


 その時に、彼女が子どものころに書いた作文を取り上げられた。


 秋津としては、あまり愛着はない。


 そもそも、夏休みの課題に書けと言われた程度のものだ。


 広島らしくテーマは平和である。


 しかも、夏休みの終わる一週間前に書き始めたものだ。


 その作文自体が、県内の小学校と新聞社が共同で出したコンテストの作品でもあった。


 提出期限を守れたものの、受賞には至らなかった。


 その記録が何(・)故(・)か(・)残(・)っ(・)て(・)い(・)て(・)、彼女だけでなく周囲にも知れ渡った。


 それから、彼女の元に多くの人が集まり始めた。


 彼女と同じように渡瀬政権の暴走を懸念する者たちだった。


 その中には、"政治に声を張り上げ隊"――"政声隊"――の山土師 靖もいた。


 "S.P.E.A.R.(スピア)"は、元々学生たちの集まりだった。


 運動に加わっていくうちに、"政声隊"としての活動も担っていった。


 デモや報道では秋津が前に立ちつつ、その後ろでは先ほどの可搬型演算器(ラップトップ)の動画で、山土師に殴られていた大学生風の男が"S.P.E.A.R.(スピア)"を運営していた。


 しかし、や(・)る(・)こ(・)と(・)は問題提起とは程遠いものだった。


 渡瀬政権に対するデモは、一種の"表現の自由"に基づいたものである。


 当然、支(・)持(・)を(・)す(・)る(・)側(・)の(・)運(・)動(・)が(・)あ(・)っ(・)て(・)も(・)不思議ではない。


 "表現の自由"は情(・)報(・)の(・)送(・)受(・)信(・)と、それによる人(・)格(・)の(・)陶(・)冶(・)を尊ぶ。


 それぞれの対抗言論の出現は、自由民主主義を標榜するなら当然のことだ。


 渡瀬政権側に立つのは、"政治を取り戻したい市民の会"――"政市会"。


 彼らとの衝突も多くなった。


 "政声隊"も、"政市会"の移民排斥デモの妨害も始めた。


 罵声と暴力が飛び交う様になった。


 左派の政党も、渡瀬政権打倒を掲げる為の標語唱和(シュプレヒコール)に加わった。


 "政声隊"の一部が、8月6日の平和公園の式典に出る様にもなった。


 死者を追悼する場で、自(・)分(・)た(・)ち(・)の(・)存(・)在(・)と(・)正(・)当(・)性(・)を(・)声(・)高(・)に(・)叫(・)ぶ(・)という、あまりにも破廉恥な行為をするために。


――でも……私も、気づくのが遅かったよね……。


 秋津は、自(・)分(・)と(・)同(・)じ(・)感(・)情(・)を(・)共(・)有(・)し(・)て(・)く(・)れ(・)る(・)仲(・)間(・)が欲しかった。


"敵(・)"が(・)欲(・)し(・)か(・)っ(・)た(・)訳(・)で(・)は(・)な(・)い(・)。


 秋津の望むものと、かけ離れた"政声隊"と"S.P.E.A.R.(スピア)"。


 彼女はそれでも、手放せなかった。


――でも、離れるようなことをしたら……。


 それは、先ほど流れた動画が多くを語っていた。


 山土師を始めとした大人たちの憂さ晴らしの標的となるだろう。


 同時に言えば、感(・)情(・)を(・)共(・)有(・)で(・)き(・)た(・)仲(・)間(・)と(・)の(・)別(・)れ(・)も意味していた。


 "政声隊"の苛烈な正義感と縄張り意識に毒された"か(・)つ(・)て(・)の(・)仲(・)間(・)た(・)ち(・)"は、もはや組織を維持するための方便として敵を探していた。


 それは、外部だけでなく内部にも。


 "政声隊"の内外を考えていたら、ある女性の姿が秋津の頭の中で不意に浮かぶ。


 それは、


――三条 千賀子……あの人は、一体……?


 人生経験が多いわけではない。


 それにも関わらず、秋(・)津(・)の(・)女(・)性(・)と(・)し(・)て(・)の(・)勘(・)が"護(・)憲(・)派(・)の(・)女(・)弁(・)護(・)士(・)"を警戒していた。


 特に、"ウィッカー・マン"に取り込まれた女性――雑賀 多恵――に向けられた目線。


 "政声隊"の血気盛んな空気に関わらず、三条は感情を滅多に出さない。


 しかし、秋(・)津(・)は(・)見(・)た(・)。


 雑(・)賀(・) 多(・)恵(・)が(・)妊(・)婦(・)で(・)あ(・)る(・)こ(・)と(・)を(・)知(・)っ(・)た(・)三(・)条(・)の(・)眼(・)に僅(・)か(・)な(・)感(・)情(・)が(・)宿(・)っ(・)た(・)と(・)こ(・)ろ(・)を(・)。


 彼女の眼(・)の(・)中(・)の(・)鋭(・)さ(・)は雑(・)賀(・) 多(・)恵(・)の(・)腹(・)を(・)裂(・)い(・)て(・)や(・)ら(・)ん(・)と(・)す(・)る(・)猛(・)禽(・)類(・)か(・)猛(・)獣(・)を(・)思(・)わ(・)せ(・)た(・)。


 あるいは毒(・)の(・)込(・)め(・)ら(・)れ(・)た(・)砥(・)石(・)で(・)研(・)ぎ(・)澄(・)ま(・)し(・)き(・)っ(・)た(・)刀(・)剣(・)類(・)を思わせる害意に溢れていた。


 三条の害意に満ちた視線が、上万作(あまんさく)市役所での戦いの時、サキのクラスメートである斎藤 一平、飴色のジャケットを着た男の子に加勢した"滑輪板(スケートボード)"を駆る女の子にも向いていた。


 河上 サキと一(・)緒(・)に(・)戦(・)う(・)時(・)に(・)出(・)た(・)二(・)人(・)の(・)女(・)性(・)も、例外ではなかった。


 少(・)し(・)前(・)に(・)同(・)じ(・)も(・)の(・)を(・)、秋(・)津(・)は(・)感(・)じ(・)た(・)こ(・)と(・)を思い出す。


 数日前に開かれた"上万作の武装化に反対する市民の緊急集会"の時、本番で読むスピーチの原稿を見直していた。


 その時、秋津は三条の視線が開いた鞄に注がれているのに気づいた。


 鞄には教科書の中に紛れ込んだ漫画が一冊。


 友人から借りたものだった。


 内容としては、主人公の男の子が魅力的な女性との大騒動に巻き込まれるという単話完結式のそれだった。


 巻数は多く、週間発行の少年漫画誌の連載枠だ。


 男性受けを狙っている絵柄と性的な内容故か、女性からの評判は良くない。


 しかし、友人であるクラスメートの女子と秋津は、登場人物の女性が個性豊かに描かれていて面白いと思っていた。


 だが、三条はそ(・)う(・)で(・)は(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。


 三条の漫画に向けた視線は、上万作(あまんさく)市役所の騒動で亡くなった雑(・)賀(・) 多(・)恵(・)に(・)投(・)げ(・)か(・)け(・)て(・)い(・)た(・)も(・)の(・)と同じものだった。


 三条に眠る悪意の正体――秋津はそ(・)の(・)大(・)元(・)に、ふ(・)と(・)気(・)づ(・)い(・)た(・)。


――女(・)性(・)を(・)……命(・)を(・)、恨(・)ん(・)で(・)る(・)……!?


 三条 千賀子はアニメや漫画を規制する考えを隠そうとしないことで、右派だけでなく左(・)派(・)と(・)も(・)揉めているというのは聞いていた。


 献血を呼びかける為のアニメの女性のキャラ――胸の大きく描かれた――のポスターへの批判も電脳世界で展開していた。


 当然、医療行為の妨害でもあるので多方面から批判を読んだ。


 しかし、それは三(・)条(・)の(・)悪(・)意(・)の(・)"氷(・)山(・)の(・)一(・)角(・)"で(・)は(・)な(・)い(・)の(・)か(・)。


 自分の借りた漫画や雑賀 多恵に限らず、そ(・)の(・)時(・)に(・)敵(・)対(・)し(・)た(・)女(・)性(・)陣(・)に(・)向(・)け(・)ら(・)れ(・)た(・)も(・)の(・)。


 その悪意の牙の行きつく先に、秋津は気づいた。


――三条さんは、私(・)に(・)も(・)――!?


 上万作(あまんさく)市役所の激闘については、庁舎を中心に発生したガス爆発事故としてメディアは伝えていた。


 世間的に"事(・)故(・)"の犠(・)牲(・)者(・)と(・)し(・)て(・)発(・)見(・)さ(・)れ(・)た(・)、二(・)人(・)の(・)女(・)性(・)の(・)遺(・)体(・)と(・)並(・)ぶ(・)秋(・)津(・)自(・)身(・)。


 その最悪な結末を、秋津の頭の中の絵筆が描き始めた。


 その作業が唐突に止まる。


 彼女の携帯通信端末(スマートフォン)が振動をした。


 明滅する液晶画面が、"リーネア"の着信を告げる。


 "リーネア"を開くと、秋津は眼を白黒させた。


 "会話相手"の承認の許可申請が受信されていた。


 知らない相手に追加されないよう、アカウントを検索できないよう"リーネア"で設定は出来る。


 しかし、秋津は自(・)分(・)を(・)検(・)索(・)す(・)る(・)モ(・)ノ(・)好(・)き(・)は(・)い(・)な(・)い(・)と考え、わざわざその設定をしていない。


 友人や家族との会話に"リーネア"の使用を限定していたが、外からのアクセスは可能だった。


 "リーネア"を操作し、秋津は承認を求めるアカウントを確認する。


 変なものではないと確認でき、彼女は"会話相手の追加"を選んだ。


 そうして、矢継ぎ早にメッセージが着信する。


『お前に会わせたいヤツがいる』

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© 2026 アイセル

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