不和―③―
当作品の無断転載、AIを含めたあらゆる二次利用を禁止します!!
Do not reupload / use my writing for any purposes, including for AI!!
――何で、こんなことに……"S.P.E.A.R."は……"S.P.E.A.R."は!?"
秋津の心の問いに応える者はいない。
自分の涙で霞んだ天井が広がっている。
LED照明は秋津の心境など構わず、変わらない輝きで自室を照らし続けた。
潰えぬ輝きの下で、先ほど垣間見た"政声隊"の暴力性が頭をよぎる。
そんな彼らだけでなく、"政市会"にも立ち回ったロック=ハイロウズ、河上 サキに、その仲間たちの姿が、秋津の頭に浮かんだ。
『平和って何だ?』
――……その通りだよね……。
秋津の中で、少し前に問われたロックの言葉が反芻される。
秋津は頭が良いかと言われれば、本人は否定するだろう。
だが、時事にはある程度の関心はあった。
ついでに言えば、関心を持つことを止めないこと。
それが、世界や人と繋がることとも考えていた。
渡瀬政権の行動はおかしい。
小学生ながらそう考えていたら、秋津を中心に学生で行動を起こしていた。
SNSを中心に高校生ばかりでなく、大学生や中学生もいた。
確かに、渡瀬政権を止められるかと言えば、難しい。
されど、世代を問わず、思いを共にする仲間たちの存在に秋津は頼もしく思えた。
しかし、秋津たちに転機が訪れる。
新聞記者の取材が来たのだ。
その時に、彼女が子どものころに書いた作文を取り上げられた。
秋津としては、あまり愛着はない。
そもそも、夏休みの課題に書けと言われた程度のものだ。
広島らしくテーマは平和である。
しかも、夏休みの終わる一週間前に書き始めたものだ。
その作文自体が、県内の小学校と新聞社が共同で出したコンテストの作品でもあった。
提出期限を守れたものの、受賞には至らなかった。
その記録が何故か残っていて、彼女だけでなく周囲にも知れ渡った。
それから、彼女の元に多くの人が集まり始めた。
彼女と同じように渡瀬政権の暴走を懸念する者たちだった。
その中には、"政治に声を張り上げ隊"――"政声隊"――の山土師 靖もいた。
"S.P.E.A.R."は、元々学生たちの集まりだった。
運動に加わっていくうちに、"政声隊"としての活動も担っていった。
デモや報道では秋津が前に立ちつつ、その後ろでは先ほどの可搬型演算器の動画で、山土師に殴られていた大学生風の男が"S.P.E.A.R."を運営していた。
しかし、やることは問題提起とは程遠いものだった。
渡瀬政権に対するデモは、一種の"表現の自由"に基づいたものである。
当然、支持をする側の運動があっても不思議ではない。
"表現の自由"は情報の送受信と、それによる人格の陶冶を尊ぶ。
それぞれの対抗言論の出現は、自由民主主義を標榜するなら当然のことだ。
渡瀬政権側に立つのは、"政治を取り戻したい市民の会"――"政市会"。
彼らとの衝突も多くなった。
"政声隊"も、"政市会"の移民排斥デモの妨害も始めた。
罵声と暴力が飛び交う様になった。
左派の政党も、渡瀬政権打倒を掲げる為の標語唱和に加わった。
"政声隊"の一部が、8月6日の平和公園の式典に出る様にもなった。
死者を追悼する場で、自分たちの存在と正当性を声高に叫ぶという、あまりにも破廉恥な行為をするために。
――でも……私も、気づくのが遅かったよね……。
秋津は、自分と同じ感情を共有してくれる仲間が欲しかった。
"敵"が欲しかった訳ではない。
秋津の望むものと、かけ離れた"政声隊"と"S.P.E.A.R."。
彼女はそれでも、手放せなかった。
――でも、離れるようなことをしたら……。
それは、先ほど流れた動画が多くを語っていた。
山土師を始めとした大人たちの憂さ晴らしの標的となるだろう。
同時に言えば、感情を共有できた仲間との別れも意味していた。
"政声隊"の苛烈な正義感と縄張り意識に毒された"かつての仲間たち"は、もはや組織を維持するための方便として敵を探していた。
それは、外部だけでなく内部にも。
"政声隊"の内外を考えていたら、ある女性の姿が秋津の頭の中で不意に浮かぶ。
それは、
――三条 千賀子……あの人は、一体……?
人生経験が多いわけではない。
それにも関わらず、秋津の女性としての勘が"護憲派の女弁護士"を警戒していた。
特に、"ウィッカー・マン"に取り込まれた女性――雑賀 多恵――に向けられた目線。
"政声隊"の血気盛んな空気に関わらず、三条は感情を滅多に出さない。
しかし、秋津は見た。
雑賀 多恵が妊婦であることを知った三条の眼に僅かな感情が宿ったところを。
彼女の眼の中の鋭さは雑賀 多恵の腹を裂いてやらんとする猛禽類か猛獣を思わせた。
あるいは毒の込められた砥石で研ぎ澄ましきった刀剣類を思わせる害意に溢れていた。
三条の害意に満ちた視線が、上万作市役所での戦いの時、サキのクラスメートである斎藤 一平、飴色のジャケットを着た男の子に加勢した"滑輪板"を駆る女の子にも向いていた。
河上 サキと一緒に戦う時に出た二人の女性も、例外ではなかった。
少し前に同じものを、秋津は感じたことを思い出す。
数日前に開かれた"上万作の武装化に反対する市民の緊急集会"の時、本番で読むスピーチの原稿を見直していた。
その時、秋津は三条の視線が開いた鞄に注がれているのに気づいた。
鞄には教科書の中に紛れ込んだ漫画が一冊。
友人から借りたものだった。
内容としては、主人公の男の子が魅力的な女性との大騒動に巻き込まれるという単話完結式のそれだった。
巻数は多く、週間発行の少年漫画誌の連載枠だ。
男性受けを狙っている絵柄と性的な内容故か、女性からの評判は良くない。
しかし、友人であるクラスメートの女子と秋津は、登場人物の女性が個性豊かに描かれていて面白いと思っていた。
だが、三条はそうではなかった。
三条の漫画に向けた視線は、上万作市役所の騒動で亡くなった雑賀 多恵に投げかけていたものと同じものだった。
三条に眠る悪意の正体――秋津はその大元に、ふと気づいた。
――女性を……命を、恨んでる……!?
三条 千賀子はアニメや漫画を規制する考えを隠そうとしないことで、右派だけでなく左派とも揉めているというのは聞いていた。
献血を呼びかける為のアニメの女性のキャラ――胸の大きく描かれた――のポスターへの批判も電脳世界で展開していた。
当然、医療行為の妨害でもあるので多方面から批判を読んだ。
しかし、それは三条の悪意の"氷山の一角"ではないのか。
自分の借りた漫画や雑賀 多恵に限らず、その時に敵対した女性陣に向けられたもの。
その悪意の牙の行きつく先に、秋津は気づいた。
――三条さんは、私にも――!?
上万作市役所の激闘については、庁舎を中心に発生したガス爆発事故としてメディアは伝えていた。
世間的に"事故"の犠牲者として発見された、二人の女性の遺体と並ぶ秋津自身。
その最悪な結末を、秋津の頭の中の絵筆が描き始めた。
その作業が唐突に止まる。
彼女の携帯通信端末が振動をした。
明滅する液晶画面が、"リーネア"の着信を告げる。
"リーネア"を開くと、秋津は眼を白黒させた。
"会話相手"の承認の許可申請が受信されていた。
知らない相手に追加されないよう、アカウントを検索できないよう"リーネア"で設定は出来る。
しかし、秋津は自分を検索するモノ好きはいないと考え、わざわざその設定をしていない。
友人や家族との会話に"リーネア"の使用を限定していたが、外からのアクセスは可能だった。
"リーネア"を操作し、秋津は承認を求めるアカウントを確認する。
変なものではないと確認でき、彼女は"会話相手の追加"を選んだ。
そうして、矢継ぎ早にメッセージが着信する。
『お前に会わせたいヤツがいる』
面白いと思ったら、リアクション、評価にブックマーク、よろしくお願いいたします!!
© 2026 アイセル




