脱出―④―
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恰幅の良いカンタの右手から放たれた青緑の雷撃。
サキの左頬を横切り、
『やったな、クソデブ!!』
項が見えるのほどの短髪のサキの守護者――"ライラ"――の剣と化した右手の一閃が、疾走る。
カンタの右腕から放たれた雷撃とぶつかり、衝突熱力が発生。
熱力の奔流と衝撃が、カンタの眼を覆った。
「やったわね!!」
野太くも、絹を引き裂いたような声を上げるカンタの姿が、サキの眼の前から消える。
オゾン臭が鼻を突くと、サキは"命導巧":"フェイス"を背後に振った。
青緑の残光と共に黒縁眼鏡の大男が両手を組み、背後からサキの頭へ振りかぶる。
黒縁眼鏡の表面にサキの顔が映った。
勝利の確信に、嗜虐の笑みを浮かべたカンタだったが、彼の眼に"もう一人の女"が浮かぶ。
カンタに肉迫したのは、"鶏冠の守護者"――"ヴァージニア"。
彼女の右手が弓に変わった瞬間、カンタが吹っ飛んだ。
カンタの顎をぶち抜いたのは、"ヴァージニア"の右腕から放たれた拳の大きさをした結晶。
結晶が放物線の頂点に達し、光を発する。
放出された光の熱力が人型――つまり、"ライラ"になった。
『気持ち悪い声上げるな、クソデブ野郎!!』
"ライラ"の猛禽を思わせる両目が、カンタの巨体を捉える。
カンタが倒れる間際に放った雷撃を、"ライラ"が右手の光の剣で相殺。
熱力の衝突が爆発を生み、カンタを衝撃で地面に叩きつけた。
"フォトニック結晶"。
光の屈折率を100%にして、それを制御することができるナノ構造体である。
光そのものとも言える"命熱波"の守護者"ライラ"を移動させ、カンタに一撃を加えたのだ。
「……何よ、あんた……女だからって――!!」
"ヴァージニア"と"ライラ"の連携攻撃を受けながら、カンタが立ち上がる。
その憎悪が、崩れた庁舎や公園の風景を背後にしたサキを映す。
『こいつ、何か眼がヤバいよ!!』
『……それに、口調も……やられたことの他に、何か根本が歪んでますわね』
"ライラ"と"ヴァージニア"の二人の言葉に、サキは無言で同意する。
カンタの眼から感じる、サキの根本を憎悪する何か。
それが、彼女を警戒させる。
カンタの背後では、一平と龍之助が"政声隊"の二人組を迎え撃っていた。
リカコと言う、炎を纏った脂肪太りの女が、大地を焼きながら龍之助に突進。
龍之助が、"命導巧"の矛槍で作った水の刃を振るいながら、彼女の攻撃をいなしている。
ヤニの目立つ歯のマキナは氷を放ちながら、一平の炎を寄せ付けない。
どちらも攻撃としては単調だが、突破口を見つけられていない。
「ちょっと、リカコ、マキナ!! こっち来てよ、早く!!」
カンタが甲高くも、不快な声を上げる。
「そっちこそ、こっちに来てよ!!」
「リカコ、カンタ、あんたら、どんくさ過ぎ!!」
リカコとマキナが口々に、異議を唱える。
三人の不和が、均衡状態を崩した。
「龍之助!!」
一平が声をかけると同時に、"命導巧":"ライオンハート"を装備した両手の内、右手を突きだす。
一平の声に応えない龍之助。
眼を合わせた瞬間、その意図を把握したようだ。
龍之助が、矛槍型"命導巧":"セオリー・オブ・ア・デッドマン"の矛先を一平の右手の照準に合わせて撃つ。
龍之助の矛槍が水の塊を放ち、"ライオンハート"の炎の榴弾がそれを追った。
炎と水が衝突し、爆発。
水蒸気の幕を張り、リカコとマキナの視界を奪った。
やがて、水蒸気の幕がカンタも覆い始める。
ライデンフロスト現象。
水を急激に100度に上昇させると、蒸発せずに沸騰。
水蒸気の幕を作る。
その幕が何らかの衝撃に触れると、高温の液体と水が一気に混ざり、爆発を起こす現象だ。
戸惑う脂肪女、ヤニ女と大男を他所に、一平と龍之助がサキに合流する。
「こいつら、何か……タフすぎだぜ!!」
「一平もそう考える!?」
「三条が、他の"コーリング・フロム・ヘヴン"を使う奴らと違う強化を施しているようだな……」
龍之助の言葉に、サキは同意した。
龍之助が、目の前の"政声隊"に目を向ける。
サキは"コーリング・フロム・ヘヴン"という"トルク"を纏う"政声隊"と戦ったことは、あまりない。
最初の経験である、上万作学園前の大乱闘までの記憶を辿っても、サキの中で何かが引っ掛かった。
「龍之助……強化って、もしかして……回復が速いってこと?」
サキの言葉に、龍之助が頷いた。
「そうだ、サキ。"政声隊"にせよ、"政市会"にせよ……装備によって――時間差はあるものの――双方の持つ武器が回復させる」
「待てよ……じゃあ、アイツらを回復させているものって何だよ!?」
一平の疑問に、サキは息を呑む。
龍之助も目を見開いた。
「……"へルター・スケルター"の力は『龍之助を通して』しか使えなかった……だよな?」
一平がロックの言葉を反芻し、サキの中で考えが浮かんだ。
「もし、"コーリング・フロム・ヘヴン"の力が龍之助を通した"へルター・スケルター"由来なら、追い出した後でも"政声隊"が今も使えるのはおかしいよ!!」
「三条がやっていたのが、その出し入れだとするなら……"その力の大元"は、どこからだ?」
違和感を口にしたサキに、一平が疑問を言語化する。
サキは周りを見渡した。
力を出し入れ出来る存在である三条が、ロックと戦っている。
ロックの右肘鉄による打ち上げを、彼女が躱した。
ロックが、後退する三条の出方を見つつ、左直蹴りを放つ。
彼女が左へ動くと同時に、寸暇を入れずにロックが右の回し蹴りで妨害した。
三条が動きを止めると、逆手にして"ブラック・クイーン"の"籠状護拳"で彼女の左頬を狙う。
純金の頭と銀の両腕を持った、三条の"守護者"が立ちはだかった。
"守護者"の左拳が、ロックの攻撃を潰す。
右拳から炎がロックに向けて放たれた。
ロックの翼剣型"命導巧"から半自動装填式拳銃型"命導巧"が飛び出る。
ロックの撃ち出した炎の弾丸で、打ち消した。
「ついでに言うと、その中継地点ももだが……?」
龍之助が矛槍型"命導巧"の穂先を向けた。
龍之助の視線に、サキと一平も得物を構える。
水蒸気の幕が晴れた先。
炎、氷と雷。
それぞれを纏った、リカコ、マキナとカンタがサキ達を睥睨していた。
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