↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】クリムゾン・コート・クルセイド Vol.Ⅱ ”平和たる軍靴"  作者: アイセル
第四章 Cog By Cog

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/175

歯車は噛み合う―⑭―

当作品の無断転載、AIを含めたあらゆる二次利用を禁止します!!

Do not reupload / use my writing for any purposes, including for AI!!

午後4時12分


 硝子机の向こう側にいる四人とロックは対峙していた。


 その内の一人が、ソファに座っている。


 深く腰をかけず、背筋を伸ばす着流しの老人。


 そんな彼を囲む様に立つ、鷲鼻の老人、扁桃(アーモンド)の吊り眼の女、小太りの男。


 小太りの男は、"政市会"の代表の尾咲 一郎だ。


「……なるほど、あなた達が関わっていたか……」


 ロックの隣のブルースが強張らせて言う。


「"政市会"の本部代表の尾咲と広島支部の鍛冶、広島というよりは"中国地方"のフィクサーの同田貫 剛介。そして……」


 ロック、サキ、ブルースに一平がソファを空席にし、周りに立っていた。


 サミュエルとシャロンが、ロック達から離れた背後の食卓に座っている。


「"大和保存会"会員の菅原(すがわら) 辰雄(たつお)」


 ブルースの剣を思わせる鋭い声に、ロックは息を止める。


「……"大和保存会"。確か、日本最大の極右勢力だったよな?」


 一平が言って、睥睨。


「……ほう、あなたのような若い方が我々をご存じですか?」


 菅原は、少し身を乗り出す。


 一平の様な活気の良さに好感を抱いたようだ。


「……時(・)代(・)錯(・)誤(・)な(・)明(・)治(・)時(・)代(・)の(・)大(・)日(・)本(・)帝(・)国(・)憲(・)法(・)の(・)復(・)古(・)、教(・)育(・)勅(・)語(・)を(・)幼(・)稚(・)園(・)で(・)五(・)歳(・)児(・)に(・)歌(・)わ(・)せ(・)た(・)り(・)、自衛隊を軍隊にしようとしている"悪(・)趣(・)味(・)な(・)奴(・)等(・)"しかわからないけどな」


 一平が鼻を鳴らして言うと、着流しの老人が大きく笑う。


 尾咲が肝を冷やした顔となり、鷲鼻の剛介が歯ぎしりをしていた。


「……でも、妙(・)な(・)組(・)み(・)合(・)わ(・)せ(・)に思えるんだけどな……」


 一平の言葉に、ロックは首を傾げていると、


「一平……それ、正解だ」


 ブルースが言うと、


「本来、"政治を取り戻したい市民の会"――通称、"政市会"――と"大和保存会"は一緒になることはない。それどころか、"大和保存会"は、"政市会"の過(・)激(・)路(・)線(・)を蛇(・)蝎(・)の(・)ご(・)と(・)く(・)嫌(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)」


 ブルースの話した内容を、ロックは思い出した。


 "政市会"は電脳世界で眼を付けた論敵に、現実世界でも押しかける。


 その批判の手段として、憎悪表現(ヘイトスピーチ)や実(・)力(・)行(・)為(・)も(・)辞(・)さ(・)な(・)い(・)。


 その姿勢から、至る所で敵を作った。


 それは、右(・)派(・)論(・)壇(・)か(・)ら(・)も例外ではない。


「待って、ブルース……それなら、何故、こいつらが一緒に?」


 サミュエルが言うと、


「話してくれるというか、何と言うか……ロ(・)ッ(・)ク(・)、サ(・)キ(・)と一(・)平(・)ならわかるんじゃないか?」


 ブルースに促された三人。


 サキが、


「同田貫って、確か県議会議員に――」


「それだけじゃない……俺(・)た(・)ち(・)の(・)学(・)校(・)に(・)も(・)いるぜ」


 一平の言葉に、


「どういうことだ?」


 ロックは疑問を口にして、一平が口をぽかんと開けた。


 サキも目を丸くしている。


 話題を振ったブルースが、頭を抱えていた。


 何故か、鷲鼻の老人――同田貫 剛介――が自分に向ける視線が鋭い。


 耳を澄ますと、歯(・)軋(・)り(・)の(・)音(・)も(・)聞こえて来た。


「……ロック、あの大乱闘の時に、お前が首(・)を(・)絞(・)め(・)た(・)奴(・)……いたよね?」


 一平の一言に、ロックは思い出した。


「……ああ、もしかして……あの茶(・)髪(・)の(・)サ(・)ル(・)ガ(・)キ(・)か?」


「サ(・)ル(・)ガ(・)キ(・)と(・)は(・)な(・)ん(・)だ(・)!?」


 鷲鼻の老人が顔を赤くして、叫んだ。


「そう顔を赤くすんなよ、猿(・)ジ(・)ジ(・)イ(・)……赤(・)い(・)の(・)は(・)ケ(・)ツ(・)だ(・)け(・)に(・)し(・)と(・)け(・)よ(・)? 高(・)血(・)圧(・)で(・)死(・)な(・)れ(・)て(・)も(・)困るしな」


 ロックの言葉に同田貫 剛介が押し黙る。


 正確に言うなら、咀嚼すればするほど煮え立つロックへの怒りに、憤(・)死(・)し(・)か(・)ね(・)な(・)い(・)の(・)を(・)押(・)し(・)と(・)ど(・)め(・)て(・)い(・)る(・)様に見えた。


 ロックは溜息をつくと、


「要はバカ老人のバカ孫……つまり、そいつが両(・)団(・)体(・)を(・)く(・)っ(・)つ(・)け(・)た(・)ということか」


「まあ、そういうことだ」


 ブルースが頷いて、


「加えるなら、そのバ(・)カ(・)孫(・)が"政市会"に入っていて、『孫(・)の(・)団(・)体(・)だ(・)か(・)ら(・)贔(・)屓(・)に(・)し(・)て(・)』、と言う感じじゃない?」


 サミュエルが頬杖ついて、気だるそうに言った。


 尾咲と同田貫の二人が、真っ赤になるが、


「……兄さんほど短気じゃないけど、そのおこぼれに預かろうとする豚(・)眼(・)鏡(・)の腕(・)一(・)本(・)か足(・)一(・)本(・)で手(・)打(・)ち(・)……というわけでもないようだけど?」


 サミュエルの視線が、"政市会"の尾咲に向かった。


 この場から逃げ出しかねないほどに、尾咲の腰が引けている。


 剣呑な雰囲気に関わらず、菅原老人が弾けたように笑い出した。


「……爺(じじい)、何がおかしい?」


 ロックは好々爺に目を向ける。


 彼の眼に映るロックの視線は、殺気で研ぎ澄まされていた。


「そ(・)の(・)眼(・)光(・)……なるほど、欧(・)州(・)を(・)救(・)っ(・)た(・)と(・)い(・)う(・)だ(・)け(・)はありますね」


 菅原老人が、息を整える。


 そこで、扁桃の眼の女性――鍛冶 美幸――が口を開いた。


「我々は混(・)沌(・)の(・)溢(・)れ(・)る(・)"我が国"に"真(・)の(・)秩(・)序(・)"をもたらす為に、協力しています」


 ロックは、意味が分からず反射的に怪訝な声を上げた。


 ブルース達も同じで、お互いに顔を合わせ始める。


「そう、我々はこの国の"真(・)の(・)民(・)主(・)主(・)義(・)"と市(・)民(・)を(・)体(・)現(・)さ(・)せ(・)る(・)ことで一致しました」


「真(・)の(・)秩(・)序(・)を(・)も(・)た(・)ら(・)す(・)存(・)在(・)……その追及だ……」


 菅原老人と同田貫 剛介が口々に言うと、


「それは、日本に伝わる"最(・)高(・)神(・)の(・)実(・)現(・)"」


 尾咲が誇らしげに言うと、


「……日本の神って、お前らがよく人(・)を(・)殴(・)る(・)の(・)に(・)持(・)ち(・)出(・)す(・)"世(・)間(・)体(・)様"じゃねえのか?」


 ロックのぞんざいな言い回しに、菅原がかぶりを振って否定。


「あなたもご存じのはずです……ダンディーの空で遭遇した、"天(・)空(・)の(・)神(・)"――"天之御中主神《アメノミナカヌシノカミ》"を!!」


 思わぬ言葉を耳にし、ロックの頭の中が真っ白になった。


「おい、ロック!!」


「止めろ!!」


 ブルースと一平に制され、ロックは我に戻る。


 ロックは拳を菅原にぶち込む為に、邪魔となっている受視機(テレビ)の前の硝子テーブルを蹴飛ばしたようだ。


 蹴りの衝撃により、硝子テーブルが破壊。


 大小問わず欠片が、菅原達に降り注ぐ。


 サキが、ロックの腹を抱えて止めていた。


 散らばった硝子の輝きを見て、ロックの中で湧き上がった怒りが静まる。


 ロックは三人に大丈夫であることを伝え、離れた。


 菅原以外の"政市会"メンバーの尾咲と同田貫老人が、目を丸くしていた。


 来訪者の側に怪我人はいないことを、ロックは視認する。


「"天之御中主神《アメノミナカヌシノカミ》"……確か、日本の神話では目立ったことはしてなかったはず」


「いや、伝承は無くても、祀(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)と(・)こ(・)ろ(・)が(・)あ(・)る(・)。確か伊勢神道か、出雲地方にその流れがあった気が……」


 一平とブルースが菅原に向けて言うが、


「テメェら……どこまで知っている!?」


 ロックは衝動を抑えながら、菅原に問う。


「あなたに力をもたらした存在……欧州では"ケルヌンノス"でしょうか? 調査をした結果、その記録がありました。そして類似したモノが、世(・)界(・)各(・)地(・)に(・)あ(・)る(・)こ(・)と(・)も(・)」


 菅原、鍛冶、同田貫と尾咲の眼に映るロック。


 怒りに震えるロックの両脇をブルースと一平が固めていた。


「あら……てっきり、ロックと言う方は、そのブルースと言う方から言われていたはずですが……そ(・)れ(・)が(・)、こ(・)の(・)街(・)に(・)あ(・)る(・)こ(・)と(・)を(・)」


 好々爺としている菅原の眼の奥に、日本刀を思わせる鋭さ。


「……確か、"ヘ(・)ル(・)タ(・)ー(・)・ス(・)ケ(・)ル(・)タ(・)ー(・)"と呼んでいた筈ですが?」


 ロックは息を呑む。


 サキが驚きのあまり口を空け、一平は怪訝な顔を浮かべた。


 動じずにブルースが、


「お前たちは何をするつもりだ……"ワ(・)イ(・)ル(・)ド(・)・ハ(・)ン(・)ト(・)事件"の再(・)来(・)を(・)起(・)こ(・)す(・)つ(・)も(・)り(・)か(・)?」


「違います……秩(・)序(・)を(・)も(・)た(・)ら(・)し(・)ま(・)し(・)ょ(・)う(・)。この国と、そして世界を平和にするために……我(・)々(・)とあ(・)な(・)た(・)達(・)と共に」


 菅原の笑顔からの提案に応えたのは、意外な声の主だった。


「お断りします」


 河上 サキがロックの前に躍り出る。


「あなた方の様に、人(・)の(・)生(・)ま(・)れ(・)と(・)か(・)で人(・)を(・)神(・)輿(・)に(・)す(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)人(・)た(・)ち(・)と手を結べません」


 サキが菅原の視線に動ぜず、意思を示すが


「しかし、あなたは"地自労"や"電脳左翼(デンサヨ)"――反日勢力を敵としている……我が国の――」


「我(・)が(・)国(・)と言いますが、あなたたちの言う敵は"ま(・)と(・)も(・)な(・)日(・)本(・)人(・)で(・)あ(・)り(・)た(・)い(・)"とも願っていました……そのために、そ(・)の(・)道(・)か(・)ら(・)逸(・)れ(・)た(・)人(・)を神輿にし、時に排除してきました。はっきり言って、"電脳右翼(デンウヨ)"も"電脳左翼(デンサヨ)"も、どう違うのか、わかりません」


 サキの凛とした視線と共に、


「"政市会"は、『他(・)者(・)を(・)蔑(・)ん(・)で(・)で(・)も(・)、日(・)本(・)人(・)で(・)あ(・)る(・)こ(・)と(・)に(・)固(・)執(・)し(・)た(・)い(・)人(・)た(・)ち(・)』。"政声隊"は『弱(・)者(・)を(・)助(・)け(・)て(・)良(・)い(・)日(・)本(・)人(・)と(・)言(・)う(・)理(・)想(・)像(・)を(・)演(・)じ(・)た(・)い(・)人(・)た(・)ち(・)』。どちらも、自(・)分(・)と(・)言(・)う(・)人(・)間(・)が(・)無(・)い(・)ということで言えば、同じに見えますね?」


 尾咲と同田貫 剛介が、サキの菅原への反論に血が吹き出んばかりに顔を真っ赤にしている。


 菅原 辰雄に至っては、笑ってはいるが微(・)か(・)に(・)冷(・)気(・)を(・)漂(・)わ(・)せ(・)て(・)い(・)た(・)。


 しかし、鍛冶 美幸に、サキが息を呑む。


 彼女の眼が象(・)牙(・)色(・)、唇が柘榴(ざくろ)を思わせる色に一瞬変わった。


「ど(・)こ(・)の(・)誰(・)が(・)吹(・)き(・)込(・)ん(・)だ(・)サ(・)ル(・)知(・)恵(・)か分からんが、引かねぇなら……"政声隊"もろとも"政市会(テメェら)"もぶちのめす」


 ロックは、戸惑うサキの前に出る。


「……僕からしたら、国(・)の(・)為(・)に(・)何(・)か(・)出(・)来(・)る(・)人(・)はハ(・)チ(・)ス(・)カ(・)の(・)様(・)な(・)気(・)が(・)す(・)る(・)ね(・)。そんな彼を狙ったというなら、僕もお前等と手を組むつもりはない!」


 サミュエルが言うと、シャロンも舌を突き出した。


 ブルースと一平も沈黙と鋭い視線を送ったのを見ると、菅原が溜息を吐いて、


「分かりました……それが、あなた方の意見としましょう」


 好々爺がソファから立つと、他の三人が続く。


 ロックの蹴り壊した硝子テーブルの破片を避けながら、部屋を出ていった。


 玄関の閉じる音がして、


「ロック……あれは……」


「サロメ……関わりはしないが、見(・)て(・)い(・)る(・)ということだろう?」


 サキの隣で、


「少なくとも、あそこで暴露はしなくていい。そんなことをしたら、相手は出方を変える。そうしたら、狙いも分からなくなる」


 ブルースがロックの代わりに答えた。


 一平が隣で全身から力を抜いていると、


「みんな、大変!!」


 シャロンが携帯通信端末(スマートフォン)を取り出して、叫んだ。


「何か……"ハチスカの文書"ってのが、出てきている!?」


 ロックは眉をひそめ、サミュエルも携帯通信端末(スマートフォン)を操作。


「……"電脳右翼(デンウヨ)"と"電脳左翼(デンサヨ)"……どっちも、互いが持っているって、言い張っている!?」


 サミュエルの携帯通信端末(スマートフォン)を覗くと、"電脳右翼(デンウヨ)"の短文投稿サイトのアカウントが出て来た。


 画像をブルースが見ると、


「この近くだ!! 投稿時間もすぐだ!!」


 ロックの見た画像。


 それは、"スウィート・サクリファイス"を構えた者の背後からのもの。


 向かいに立つのは、炎を発生させた"コーリング・フロム・ヘヴン"の人型を携えた"電脳左翼(デンサヨ)"だった。

面白いと思ったら、リアクション、評価にブックマーク、よろしくお願いいたします!!


© 2026 アイセル

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。