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【完結】クリムゾン・コート・クルセイド Vol.Ⅱ ”平和たる軍靴"  作者: アイセル
第四章 Cog By Cog

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歯車は嚙み合う―⑩―

当作品の無断転載、AIを含めたあらゆる二次利用を禁止します!!

Do not reupload / use my writing for any purposes, including for AI!!

 ダグラスの心身の熱さは冷めなかった。


 むしろ、留(・)ま(・)る(・)こ(・)と(・)を(・)知(・)ら(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。


 "ス(・)パ(・)イ(・)ニ(・)ー(・)"に出(・)し(・)抜(・)か(・)れ(・)た(・)か(・)ら(・)で(・)は(・)な(・)い(・)。


 深(・)手(・)を(・)負(・)っ(・)た(・)か(・)ら(・)で(・)も(・)な(・)い(・)。


 炎に囲まれたガレージの熱とも異なる。


 ただ、中途半端な"政声隊(チンピラ)"との戦いの日々に退屈していたこと。


 ロック="スパイニー・ノーマン"=ハイロウズに、そ(・)の(・)心(・)の(・)内(・)を(・)見(・)抜(・)か(・)れ(・)た(・)こ(・)と(・)。


 それが、ダグラス=スコット=クレイが歓(・)喜(・)し(・)て(・)い(・)た(・)理(・)由(・)だ。


――足(・)り(・)な(・)い(・)、足(・)り(・)な(・)い(・)、足(・)り(・)な(・)い(・)!!


 退屈に殺されそうだったダグラスを満たしてくれる戦(・)い(・)が。


 しかし、"ス(・)パ(・)イ(・)ニ(・)ー(・)"という獲(・)物(・)との楽しみを目(・)の(・)前(・)の(・)牛(・)男(・)に奪われた。


 その怒りもある。


 彼(スパイニー)と味わうはずだった熱(・)い(・)戦(・)い(・)の(・)時(・)間(・)。


 同(・)質(・)の(・)も(・)の(・)をもたらしてくれるなら、牛(・)男(・)だ(・)ろ(・)う(・)が(・)誰(・)だ(・)ろ(・)う(・)が(・)構わなかった。


「おいおい……前菜(オードブル)を逃して、肌(・)晒(・)す(・)粗(・)相(・)を(・)カ(・)マ(・)し(・)て(・)ん(・)じ(・)ゃ(・)ね(・)ぇ(・)よ(・)!?」


 ダグラスの渇望が、ぞんざいな物言いだが、不思議とその声によって徐々に静まっていく。


 目の前の"牛男"の擬獣(エミュレータ)も、視線を声の主に目を向けた。


 声の主は、ポンチョを纏った細い男。


 粗雑な口調と不釣り合いな、仮面舞踏会(マスカレード)を思わせる笑顔をしていた。


 その男の名を、ダグラスは口に出した。


「……"コロンバ"」


 その名前は、牛男の目に映る"別の戦い"――エヴァンスと狼男――をも中断させた。


「お前の言う『血が滾(たぎ)るような戦いが欲しい』というのは、獣(・)の(・)ご(・)と(・)く(・)節(・)操(・)な(・)く(・)這(・)い(・)ず(・)り(・)回(・)る(・)こ(・)と(・)か(・)?」


 今度は低い声が、エヴァンスと"狼男"の間を割る。


 一糸まとわぬエヴァンスと狼男の間に立つのは、禿頭の男。


 "コロンバ"と違い、地獄の入り口に聳(そび)え立ち、罪人を待つ石像を思わせる。


「テメェ、"ケンティガン"!! あ(・)の(・)夜(・)の(・)借(・)り(・)を返してやる!!」


 エヴァンスと向かい合っていた人狼が、怒りを彫り込んだ禿頭の男に反応した。


 今にも爪と牙を剥いて、飛び掛かろうとするが、


「"ライト"、"バイス"……下がれ」


 狼男と牛男の二人が、別の声に反応。


 声の主の両側に、並ぶ。


 狼男と牛男の間に立つ、深秋を彩る広葉樹の様な赤毛の男だった。


 ジャケットに膝丈までのパンツを履いている。


「"パトリキウス"……ペットの躾(しつけ)の良さには、恐れ入るぜ……その秘訣を教えてもらいたいものだ」


 "コロンバ"がポンチョの裾を揺らしながら笑った。


 研(・)が(・)れ(・)切(・)っ(・)た(・)刀剣を思わせる眼が、赤毛の男――"パトリキウス"――から"ダグラス"に向かう。


 口で語るまでもなく、ダグラスが"コロンバ"の横に素早く立った。


 それから、"コロンバ"からタオルを渡される。


 バスタオルは胴を覆うには十分な大きさで、


「粗(・)相(・)し(・)た(・)お(・)嬢(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)にも、な」


 コロンバに促されたダグラスは、肌を晒したエヴァンスにバスタオルを放り投げる。


 エヴァンスが羞恥を覚えながらも、バスタオルで白い肌を覆った。


 彼女がタオルで全身の女(・)性(・)の(・)部(・)分(・)を(・)覆(・)う(・)と、"ケンティガン"の後ろに隠れる。


「……さて、どうするべきかな?」


 貼り付けたような笑顔で"コロンバ"が言うが、


「去れ」


 "パトリキウス"の言葉の刃に不純物がない。


 その口調と視線に、雑談を楽しむ余地を一(・)秒(・)と(・)も(・)入れなかった。


「お前ら"ホステル"が、ここがど(・)う(・)い(・)う(・)場(・)所(・)か(・)分かっていて聞くなら――」


「わかってますよ、わかってますよ……上万作(あまんさく)と伊那口の境界なんでしょ……"B.L.A.D.E.(ブレイド)"地区で」


 ダグラスの前の"コロンバ"はおどけながら、諳(そら)んじる。


「同時に言うと、"パトリキウス"君と仲(・)良(・)し(・)の(・)"ソ(・)カ(・)ル(・)"の縄(・)張(・)り(・)で」


 "パトリキウス"の隣の人狼――"ライト"が"コロンバ"に爪を向けるが、彼に制される。


 "ソカル"。


 スコットランド・ゲール語で、"凪(なぎ)"を意味する言葉だ。


 同時に、"パトリキウス"を代表とする組織の名前である。


 そんな、"赤毛の男"は"コロンバ"に鋭い視線を送った。


 言葉次第では、剣(・)を(・)振(・)れ(・)る(・)と(・)言(・)わ(・)ん(・)ば(・)か(・)り(・)の威圧感を込めて。


「そういえば、"ブリジット"は元気? 最近見てないから――」


「ほざけ!! その理由はお(・)前(・)ら(・)が(・)良(・)く(・)理(・)解(・)し(・)て(・)い(・)る(・)ことだろう?」


 "パトリキウス"は、"コロンバ"の一言を切り捨てる。


「そうだよね……そっちでも、昏(・)睡(・)し(・)て(・)い(・)る(・)人(・)いるから大変だもんね」


 "コロンバ"の笑顔を、"パトリキウス"は逃がさない。


「話を逸らすな。貴様たち……何を目当てにしている?」


 "パトリキウス"の一言で、"コロンバ"と"ケンティガン"との間の空(・)気(・)の(・)温(・)度(・)が(・)下(・)が(・)る(・)。


 "ケンティガン"の背後にいる、エヴァンスもそれを感じ、震え上がっていた。


「昏睡者が目覚め始めている……つまり、封(・)印(・)が解(・)か(・)れ(・)始(・)め(・)て(・)い(・)る(・)。それで、お前ら"ホステル"による覚(・)醒(・)し(・)た(・)昏(・)睡(・)者(・)の(・)殺(・)害(・)だ。何が狙いだ?」


「……そりゃ、静(・)か(・)な(・)日(・)常(・)を(・)――」


「企(・)ん(・)で(・)い(・)る(・)こ(・)と(・)は(・)認めるか。それなら"政(・)市(・)会(・)"は愚か"政(・)声(・)隊(・)"も一掃すれば良いじゃないか……回りくどいのは、お(・)前(・)ら(・)し(・)く(・)な(・)い(・)」


 "パトリキウス"がコロンバを畳みかける。


 呼吸を入れ、


「俺(・)の(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)お前(コロンバヌス)なら、その愚(・)連(・)隊(・)く(・)ず(・)れ(・)もそ(・)の(・)つ(・)い(・)で(・)に(・)掃除してるはずだ」


"パトリキウス"の視線が、ダグラスに向けられる。


 ダグラスは、蛇(・)に(・)睨(・)ま(・)れ(・)た(・)蛙(・)を身を以て体感した。


 隣のエヴァンスにいたっては、寒気と吐き気を覚えたのか蒼白になっている。


「まあ……あれだ、鋏(はさみ)と同じようにバ(・)カ(・)と約(・)束(・)は使いようがあるんだよ?」


"コロンバ"の人好きのする笑みで、"パトリキウス"が要領を得たのか、


「……ああ、"七聖人"への挑(・)戦(・)権(・)。あの遊びを未だに興じているか」


 ダグラスは心の内を晒されたように、身体から熱気の放出を覚えた。


「……"ホステル"の中で、お前や"サロメ"は興味を持つとは考えづらい……大方、応(・)じ(・)た(・)の(・)は(・)"ケンティガン"。挑んだのが、そこの"愚(・)連(・)隊(・)崩(・)れ(・)"といったところか?」


 "パトリキウス"の冷笑が、素肌に突き刺さる。


「断る理由がない」


「受(・)け(・)る(・)理(・)由(・)もないだろう……どうせ、こいつらが、ご執心する"ロ(・)ッ(・)ク(・)=ハ(・)イ(・)ロ(・)ウ(・)ズ(・)"の"首"辺りで引き受けたんだろう?」


 "ケンティガン"が、鼻を鳴らし沈黙を守る。


 "パトリキウス"も、禿頭の男の沈黙にため息を吐いて、


「どんな児戯を興じても良いが、ここで大騒ぎするのは止めてもらいたいものだ……余(・)生(・)を静(・)か(・)に(・)過(・)ご(・)し(・)た(・)い(・)な(・)ら(・)、な」


「分かってるよ……こっちも、地(・)元(・)の(・)皆(・)様(・)の(・)ご(・)協(・)力(・)を得ている身だからね……静(・)か(・)な(・)方(・)が(・)ち(・)ょ(・)う(・)ど(・)い(・)い(・)」


 "パトリキウス"が踵を返し、炎の壁に向けて歩く。


 人狼の"ライト"、人牛の"バイス"も彼に続いた。


 "ケンティガン"に前(・)に(・)や(・)ら(・)れ(・)た(・)こ(・)と(・)を(・)忘(・)れ(・)ら(・)れ(・)な(・)い(・)のか、ライトが去り際に彼への怨嗟の視線を送る。


「……おい、ぼさっと突っ立ってんじゃねぇよ?」


 コロンバに言われて我に返る、ダグラス。


 "ケンティガン"の後ろのエヴァンスも、コロンバに向く。


「こっちも宮(・)仕(・)え(・)の(・)身(・)だ……次(・)の(・)準(・)備(・)を(・)し(・)な(・)い(・)とな」


 炎に包まれたガレージで輝く、コロンバの笑顔。


 ダグラスは、彼の仮面舞踏会(マスカレード)の笑顔から、地(・)獄(・)の(・)悪(・)魔(・)の(・)そ(・)れ(・)を連想した。

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© 2026 アイセル

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