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【完結】クリムゾン・コート・クルセイド Vol.Ⅱ ”平和たる軍靴"  作者: アイセル
第三章 Obstacles

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敵対―③―

当作品の無断転載、AIを含めたあらゆる二次利用を禁止します!!

Do not reupload / use my writing for any purposes, including for AI!!

広島市内 地方自治研修センター 講堂内 午前10時37分


――何で……こんなことになるのよ!?


 雑賀 多恵は携帯通信端末(スマートフォン)の通知の嵐に辟易していた。


 原因は分かっている。


 いや、明(・)白(・)だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)やり場のない怒りが、雑賀の感情の器から溢れ切っていた。


 方々からの視線が、雑賀 多恵に注がれる。


 視線の紡ぎ手から囁(ささや)かれた言葉が、雑賀の劣等感を擽(くすぐ)った。


「ま(・)た(・)河(・)竹(・)市(・)……?」


「あの人たち……ま(・)た(・)問(・)題(・)起(・)こ(・)し(・)た(・)の(・)?」


 河竹市。


 雑賀 多恵の勤める市で、所在地は山陰地方の島根県と鳥取県の間だ。


 島根県か鳥取県の違いが分からないという自虐冗句がある。


 少なくとも河竹市に行けばど(・)ち(・)ら(・)に(・)も(・)行(・)っ(・)た(・)証(・)明(・)に(・)使(・)え(・)る(・)程度の知名度であった。


 しかし、地元や近辺に住む者からはそ(・)れ(・)以(・)外(・)の意味も含まれている。


――……河上 サキに斎藤 一平……!!


 雑賀が負傷した地自労の河竹市の若い組合員に聞いてみると、二人の名前を確認したという。


 しかも、"紅き外套の守護者《クリムゾン・コート・クルセイド》"と一緒に共同戦線を張っていたのだ。


世(・)界(・)で(・)有(・)名(・)な(・)"ウ(・)ィ(・)ッ(・)カ(・)ー(・)・マ(・)ン(・)"討(・)伐(・)の(・)英(・)雄(・)の(・)少(・)年(・)と(・)少(・)女(・)の(・)敵(・)に回(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)事実。


 今回の"紅き外套の守護者《クリムゾン・コート・クルセイド》"の抵抗を目の当たりにした職員の中には、組合を抜けたい――または、役(・)場(・)を(・)辞(・)め(・)た(・)い(・)とまで言い出すものもいる始末だ。


 組合は、原則、脱退は自由である。


 しかし、組(・)合(・)に(・)入(・)る(・)こ(・)と(・)を(・)是(・)と(・)し(・)て(・)い(・)る(・)組(・)織(・)で、そ(・)の(・)逆(・)は(・)想(・)定(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。


 抜けた者についての、職場での関りも必然的に皆無。


 そうなった場合は、い(・)な(・)い(・)者(・)と同じ扱いになる。


 雑賀はそれを心配しているのもあるが、


――全部、私(・)の(・)せ(・)い(・)に(・)な(・)る(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)!!


 雑賀 多恵は男社会でもある地方公務員の中で、公務員組合の若い女性リーダーとして白羽の矢が立った。


 その使命感も、"政声隊"のデモで台無しである。


 しかも、河(・)竹(・)市(・)を(・)失(・)墜(・)さ(・)せ(・)た(・)河上 サキと斎藤 一平の二名が関わっていた。


――あ(・)い(・)つ(・)等(・)の(・)せ(・)い(・)で(・)!!


 雑賀 多恵が高校卒業してから今日までの七年間、河竹市に勤めている。


 地元の高校で優秀な成績だったが、大学へ行くよりも、早くお金を稼げる公務員に進路を定めた。


 地元で安定した日常を送れると考えていた。


 しかし、彼女の人生の展望(ライフプラン)は崩壊を迎える。


「河竹市って、"預け"と"差し替え"をしてたんだろ?」


「しかも、裏金も作っていたんでしょ?」


「俺……そこの職員が裏金使い込んで、女子高生に未成年飲酒させようとしたよな?」


「わたし…その後、女の子の友達に見つかって、河竹市のヤツが、そ(・)い(・)つ(・)に(・)ぶ(・)ち(・)の(・)め(・)さ(・)れ(・)た(・)って話聞いたわよ?」


 "預け"は、使い切れなかった国や県の補助金を取引業者にプールさせる行為である。


 "差し替え"は、業者に請求書と違う品物を納入させることである。


 当然、認められる筈が無い。


 何より、河竹市役所が、全(・)部(・)や(・)っ(・)た(・)こ(・)と(・)も事実である。


 しかし、


――私の草一さんを……あ(・)ん(・)な(・)奴(・)ら(・)と一緒にしないで!!


 彼女の夫、雑賀 草一は河竹市職員である。


 彼とは課が違うものの、組合活動で知り合った。


 雑賀 草一は、県外から入庁をした――いわゆる、I(アイ)ターン職員である。


 浅黒い肌で、笑顔は爽やか。


 何より外のことを知っているからか、地元の郷里の人間よりも洗練されている雰囲気があった。


 雑賀 多恵も高校を卒業してからすぐに入庁。


垢(・)抜(・)け(・)始(・)め(・)た(・)彼女にとって、刺激的な出会いだった。


 それから二人は恋仲となり、結婚もした。


 しかし、彼女たちの人生が荒天に見舞われたのは、ある少女と少年との出会いだった。


「しかも、一(・)度(・)な(・)ら(・)ず(・)二(・)度(・)ま(・)で(・)も(・)河上 サキ、しかも、今回は高校の前で好き放題に騒いでおいて、河竹市の連中……ま(・)た(・)喧(・)嘩(・)し(・)た(・)ん(・)だ(・)よ(・)な(・)……まったく、田舎役人め」


――そんなんじゃない!!


 雑賀 多恵の知る限り、周(・)囲(・)の(・)認(・)識(・)と自(・)分(・)の(・)認(・)識(・)は大きく違う。


 端的に言うと、汚職をした職員がいた。


 そいつとつるむ一部の職員が、よく行く札(・)付(・)き(・)の(・)飲(・)食(・)店(・)の連中たちも、よりにもよって斎藤 一平と河上 サキの友達の女子高生を連れてきてしまった。


 彼女の同意も曖昧なまま。


 しかも、常連が飲酒を持ち掛けたのもタチが悪い。


 そこに、斎藤 一平と河上 サキが店に乗り込んだ。


 彼らは、友達を救うために汚職職員たちばかりか、飲食店の従業員や常連客もぶちのめした。


 そこで終わりかと思ったがそうではなかった。


 斎藤 一平と河上 サキの友達の女子高生が、河(・)竹(・)市(・)の(・)汚(・)職(・)の(・)証(・)拠(・)と(・)も(・)い(・)え(・)る(・)U(・)S(・)B(・)メ(・)モ(・)リ(・)を(・)何(・)ら(・)か(・)の(・)形(・)で(・)手(・)に(・)入(・)れ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)のだ。


 全課で行われた不適切な会計に加え、一部職員による横領という異常事態に河竹市全課が、記録を確保するために職員に回収を命じた。


 消防団も総動員である。


 無論、命じられた職員兼、消防団員の中には、雑賀 草一もいた。


 このことから、斎藤 一平や河上 サキと事を構えた。


 しかし、この争いが思(・)わ(・)ぬ(・)と(・)こ(・)ろ(・)か(・)ら(・)横槍が入る。


「しかも、河(・)竹(・)市(・)の(・)や(・)ら(・)か(・)し(・)た(・)こ(・)と(・)を"ワールド・シェパード社"が嗅ぎ付けたんだよな……そして、"ウィッカー・マン"対策の特区を作るという名目で、河(・)竹(・)市(・)役(・)所(・)を(・)買(・)い(・)取(・)っ(・)た(・)。山陰両県知事も防災目的だと何も言えないから」


「そして、中(・)国(・)地(・)方(・)全(・)体(・)の(・)県(・)か(・)ら(・)市(・)町(・)村(・)ま(・)で(・)の(・)職(・)員(・)を(・)、消(・)防(・)団(・)の(・)減(・)少(・)も重なって防(・)災(・)要(・)員(・)としての訓練が義務付けられた……」


 "ワールド・シェパード社"という民間軍事会社は、戦闘だけでなく災害時の救助活動も行う。


 そのための人員としての訓練への参加が義務付けられた。


 無論、その第一弾が河(・)竹(・)市(・)だった。


 男女の関係もない。


 老いも若きも些細な事だった。


その訓練に、職(・)員(・)の(・)身(・)分(・)関(・)係(・)な(・)く(・)全員参加させられた。


 しかも、防災とはいえ"ウ(・)ィ(・)ッ(・)カ(・)ー(・)・マ(・)ン(・)"を(・)討(・)伐(・)す(・)る(・)た(・)め(・)の(・)も(・)の(・)だ(・)か(・)ら(・)、厳しいものだった。


 河竹市は全国の消防団訓練では上位だった。


 "ワールド・シェパード社"の訓練の前では、その時の賞や名誉が塵(ちり)紙や"ガラクタ"と化した。


 全国に河竹市役所職員が男女平等に倒れ、泣き言を晒した。


 その映像が公共の受視機(テレビ)ばかりでなく、電脳空間でも広まった。


 しかも"河竹市役所"も、"ウィッカー・マン対策"の前線として24時間、インフラをフル稼働という状態になった。


 世界的な脅威の前に、彼らの享受していた公務員の権利はなくなった。


 しかも、河竹市の悪事の連座と言わんばかりに、中国地方全体に広がった。


「要は河竹市のせいで……俺たちは、座学と実技で訓練しなきゃいけないんだよな」


「しかも、減給もあるからな……」


「就業時間で終われないものね……」


 河竹市の汚職の中心人物は、何(・)故(・)か(・)行(・)方(・)不(・)明(・)。


 河竹市の事件で、中国地方の全自治体職員が軍(・)隊(・)染(・)み(・)た(・)訓(・)練(・)に(・)駆(・)り(・)出(・)さ(・)れ(・)る(・)。


 当然、地元市民からも冷たい目で見られるようになった。


 携帯通信端末(スマートフォン)の止まらぬ通知も、雑賀 多恵の短文投稿サイトに限らず、SNSへの返信によるものだ。


 反応が多いのは、上万作(あまんさく)の軍事化に反対するパレードの写真だ。


 "地自労"の一人として、少し前に参加したものだが、



 "公安さん、反日デンサヨがいます"


 "税金泥棒"


 "髪染めたサル顔女"


 

 多恵は通知を受けるたびに、携帯通信端末(スマートフォン)を操作。


 ブロックと報告を繰り返す。


――何が悪いのよ……『こ(・)れ(・)は(・)や(・)り(・)過(・)ぎ(・)!!』って訴えて、何が悪いのよ!!


 雑賀 多恵は、内心ぶちまけたい思いだが、留まる。


 彼女だけではない。


 河竹市から研修で派遣された職員たちは、皆、同じような目に遭っていた。


 しかも、地自労の活動に乗り気でない、出張と言う名のガス抜きでやっている公務員からの心(・)無(・)い(・)一(・)言(・)のサンドバッグにされた。


 悪口は高卒の若い職員を中心だが、同年代や年上の職員は笑顔で接するものの眼(・)は(・)笑(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。


 話そうとすれば、すぐに距離を離す。


 目を合わせたら、意図的に逸らした。


『関(・)わ(・)り(・)た(・)く(・)な(・)い(・)』と(・)口(・)に(・)出(・)し(・)て(・)く(・)れ(・)た(・)ら(・)、どれほど楽であろうか。


 大(・)人(・)と(・)社(・)会(・)へ(・)の(・)憧(・)れ(・)が、思わぬ形で雑賀 多恵への悪意となり返ってきた。


――私は……負けない、負けてたまるか!!


 雑賀 多恵の中に、これらの悪意に引き下がる選択肢はない。


――おなかの中には……草(・)一(・)さ(・)ん(・)と(・)の(・)子(・)ど(・)も(・)が(・)!!


 多恵もだが、草一も耐えていた。


 草一にいたっては、何故か汚(・)職(・)職(・)員(・)と(・)共(・)に(・)女(・)子(・)高(・)生(・)を(・)襲(・)お(・)う(・)と(・)し(・)た(・)とまで言われたほどだ。


 だから、


――生んでやる……何(・)が(・)何(・)で(・)も(・)、生(・)き(・)て(・)や(・)る(・)!! しかし……その前に。


 雑賀多恵は、この現状を訴える。


 国ではないが、少なくとも、デモに加わった地自労関係者が、"紅き外套の守護者《クリムゾン・コート・クルセイド》"、斎藤 一平と河上 サキという三名に無意味に倒された。


 その原因を作った、山土師 靖。


 彼には、一切の責任がある。


――彼に、直に訴(・)え(・)な(・)い(・)と(・)――!!


 そう思いながら、多恵は休憩時間の終わりを迎える。


 それから、次の研修の準備に入った。

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© 2026 アイセル

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