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【完結】クリムゾン・コート・クルセイド Vol.Ⅱ ”平和たる軍靴"  作者: アイセル
第三章 Obstacles

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敵対―②―

当作品の無断転載、AIを含めたあらゆる二次利用を禁止します!!

Do not reupload / use my writing for any purposes, including for AI!!

芸州グランドホテル内のレストラン 午前9時55分

 

 尾咲 一郎は体型に関わらず小食である。


 ただ、祖父母の世代の肉付きが独特な骨格を持っていた。


 ついでに言うと、脂肪も蓄えやすい。


 それが遺伝しただけである。


 体型ゆえに、食に貪欲な印象を漂わせているが、いたって小食なのが尾咲 一郎だ。


 しかし、今回、彼の食欲が更(・)に(・)減(・)退(・)し(・)て(・)い(・)く(・)。


 芸州グランドホテルという地元では有名なホテルのブランチ。


 小食でも、一度はそこのメニューを一口味わいたい。


 その程度の欲望は、尾咲も持ち合わせている。


 だが、その実現のきっかけは、尾咲にとって歓迎できるものではない。


 それは、彼(・)と(・)相(・)席(・)を(・)す(・)る(・)者(・)た(・)ち(・)が(・)原(・)因(・)だ(・)っ(・)た(・)。


「やはり、ここの卵料理は絶品ですね」


 尾咲の座る円卓の向かいには、好々爺(こうこうや)の菅原。


「確かに……西洋料理では卵料理は、お(・)に(・)ぎ(・)り(・)に(・)並(・)ぶ(・)基礎の料理……基礎がしっかりしているところは、味も安定していますね」


 尾咲の左隣にいるのは、広島県のフィクサーで、大和保存会の支援者、鷲鼻の同田貫 剛介。


 尾咲の食欲をよそに、二人の老獪が卵料理を堪能している。


 好々爺の菅原の前に、トーストと半熟ゆで卵。


 鷲鼻の老人が舌鼓を打つのは、ポリッジとオムレツとサラダ。


「おや、尾咲さん……手の方が……」


「朝ごはん、しかも卵を食べないとは……もしかして、アレルギーが?」


 菅原と同田貫の二人が心配している顔を浮かべ、


「いえいえ……そんなことはありません!! 小食でして……」


 尾咲は慌てて、二人の気遣いに問題がないことを告げる。


 尾咲の食べているメニューは、トーストとスクランブルエッグだ。


 確かに美味しい。


 しかし、二人を前に、食事に現を抜かせというのが無理だった。


「なるほど……それならよろしいのですが……」


「……ただ、尾咲さんのスクランブルエッグ……片(・)手(・)間(・)落(・)ち(・)ですね、ク(・)リ(・)ー(・)ム(・)を(・)入(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)とは……」


 菅原の後に、同田貫が尾咲の食べているスクランブルエッグを見る。


「クリームは、思(・)っ(・)た(・)よ(・)り(・)も(・)盛(・)り(・)上(・)が(・)ら(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)と(・)き(・)に(・)入(・)れ(・)る(・)も(・)の(・)……取(・)り(・)繕(・)い(・)としては認められますが……」


「それすらも、ま(・)ま(・)に(・)出(・)来(・)な(・)い(・)……気を付けたいところですね、尾咲さん」


 菅原と同田貫の二人は、笑顔である。


 しかし、会話の内容に、尾咲の心中を穏やかではなかった。


 尾咲は胃が縮む思いをしながら、気を紛らわせる意図でトーストを齧る。


 尾咲が朝食を食べているのを満足そうに見る、菅原。


 二人の一言一句、一挙一動に尾咲は気が気でない。


 今回のブランチに、尾咲は菅原と同田貫に招待された。


 無論、卵料理の品評会ではない。


 先日の大騒動についてだった。


「どうですか……あなたの"政治をまともにしたい市民の会"の方たちの具合は?」


 菅原に問われ、尾咲は手元の珈琲でパンを流し込む。


「ええ……重軽傷者が出ていますが、幸いにも死に至るほどの方はいませんでした……」


 尾咲は話すと、菅原と同田貫の二人は頷くものの、どこか首を傾げていた。


 老若男女問わず、ロック=ハイロウズや、も(・)う(・)一(・)人(・)の(・)乱(・)入(・)者(・)と大立ち回りをした。


 何人かは彼らから激しい抵抗を受けた。


確かに、後遺症を受けるほどの攻撃を受けたものもいた。


だが、生死の境目を漂う程の診断を受けた者は、不思議と耳にしなかった。


「たしか、"リア・ファイル"……というのが、回復させている……とは聞いていましたが……」


 尾咲は言うと、菅原と同田貫は合点が付いたようだった。


 "スウィート・サクリファイス"は"リア・ファイル"による自己再生が働いていると耳にした。


 しかし、通常の人よりは回(・)復(・)が(・)速(・)い(・)も(・)の(・)の(・)、完(・)治(・)に(・)時(・)間(・)が(・)か(・)か(・)る(・)ことは変わらない。


「安心しました……孫が、ロ(・)ッ(・)ク(・)=ハ(・)イ(・)ロ(・)ウ(・)ズ(・)に(・)締(・)め(・)上(・)げ(・)ら(・)れ(・)た(・)と聞いた時は、内心冷や冷やしましたが……」


 同田貫の口調から、安堵しているのが伝わる。


 しかし、眼光の鋭さがロ(・)ッ(・)ク(・)=ハ(・)イ(・)ロ(・)ウ(・)ズ(・)の名前で一(・)際(・)増(・)し(・)た(・)。


 その眼が尾咲を見据え、


「しかし、何故、あのような事態が起きたのでしょうか?」


 同田貫の疑問に、菅原も頷く。


 二人の視線に注がれた尾咲は、


「どうも、ウチの会員が『"紅き外套の守護者《クリムゾン・コート・クルセイド》"はロック=ハイロウズ』という情報を受け取ったそうです……」


 同田貫が頷くと、菅原が、


「しかし、それでいて、銃(・)撃(・)戦(・)に(・)発(・)展(・)す(・)る(・)というのは理解に苦しみますね……」


「それについては……ロック=ハイロウズが"政治に声を張り上げ隊"――つまり、"政声隊"かS.P.E.A.R.(スピア)の一人を"政市会"に放り投げ、彼が会員と揉み合いになったところ、撃ったとのことです。それに、応えるように、"政声隊"も攻撃を加え――」


 菅原、同田貫が尾咲の報告に、首を傾げた。


 現に、尾咲も話している最中に奇妙なことに気づく。


 それは、菅原の一言で。


「こ(・)ち(・)ら(・)か(・)ら(・)撃(・)っ(・)た(・)? それで……その会員の方の怪我の具合は?」


「それが……病(・)院(・)に(・)行(・)っ(・)て(・)な(・)い(・)と(・)の(・)こ(・)と(・)で(・)す(・)。ついでに言うと、撃った会員については、誰(・)も(・)知(・)ら(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)そ(・)う(・)で(・)す(・)……」


 尾咲も大騒動になっていることに驚き、何人かの会員に当日事情を聴いたのだ。


 しかし、争いの引き金となった会員について、彼の存在を知る者はいない。


「屈辱的なのは分かりますが……」


「そ(・)れ(・)を(・)一(・)番(・)感(・)じ(・)て(・)い(・)る(・)人(・)の(・)姿(・)が(・)い(・)な(・)い(・)……」


 同田貫と菅原の二名が話す度に、尾咲の心中が荒波となっている。


 話せば話すほど、自分たちは退路を断たれているかのように思えた。


「わかりました……そうなると、どちらにしても、"政声隊"が納得するはずが無いですね……」


「"スコット決死隊"を会員の活動に同行させましょう……ロック=ハイロウズや"政声隊"への牽制にもなるでしょう」


 菅原の懸念に、同田貫が提案をする。


 好々爺(こうこうや)は頷くと、


「そういえば、ハチスカさんの行方についてはいかがでしょうか、尾咲さん?」


 思わぬ議題の変化に、尾咲は息を呑む。


「……芳しくないようですね」


 同田貫が、尾咲の顔を読み取った。


「はい……私たちの方でも、ネットで特定出来る者たちに探させていますが……途中で――」


 尾咲は今回の暴動に加わらなかった"政市会"の会員の中で、電脳世界と現実世界の人物を一致させる作業が上手い者を中心にハチスカの捜索を依頼していた。


 しかし、彼を見つけたものの、


「妨害に遭って、匿われました。引き続き、行方を追うように言っていますが……」


 尾咲の言葉に、二人の顔が険しくなる。


 ややあって、


「分かりました……息子の方にも事情を話しましょう。情報の共有を出来るように、尾崎さんも働きかけてくれると助かります」


 同田貫が口を開いた。


 同田貫 剛介の息子、剛一は広島県議会議員である。


 県の関わる範疇なら、彼が適任と言うことだろう。


 尾咲は短く礼を言って、彼の頼んだ卵料理を再び口に入れる。


 しかし、考えれば考えるほど、尾咲は何か大きな力に翻弄されている。


 そのような感覚を覚えながら、食欲で打ち消すことに集中した。

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© 2026 アイセル

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