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川は海へ続く


空は晴れ、雲が流れる。


緩く風が吹き、木々が揺れる。木がある為、遠くまでは見渡せないが奥深くまで道が続いていた。


馬車が通れる程の大きな道も確認できる。高く伸びた草が風でしなり、影に生えている低い草も揺れていた。


門番に愛想良く挨拶した後、少し話をしてからルイは外に出てくる。


「さてと・・」


気合を入れるように呟くと音を立てないように歩きながら、周囲を真剣に確認した。


子供でも倒せるゴブリンにそこまで緊張する必要があるのか、とルイから事情を聞いた門番は呆れた様子で見ている。逃げ帰ってきたら追っ払うぐらいはしてやろう、と二人で話していた。


街から離れて行くルイは、川を辿って移動する。


慎重に移動しながら風がどの方向から来ているのかも調べて、自分の匂いがゴブリンに発見されないように注意していた。


聞いた話によると匂いに敏感らしいので朝食は豆腐に似た料理を食べている。それからルイは、ハッ、と何かに気づいたように土粉を取り出すと自分の服に付けた。


体臭よりも土粉の匂いの方が安全だと想定した上での行動で、安心感が欲しかったルイはそれで満足する。


少し足取りが軽くなり、遠くから見つからないように背を低くして川べりを歩いた。


街の中では穏やかだった川は外では流れが早くなる。川幅もあり崩れる様子はなかったが、岩にぶつかって上げる水飛沫が自然の荒々しさを感じさせた。


人工物のような安心感がなく、足を踏み外す可能性も街の中よりも高いので、気をつける必要がある。


ルイはゴブリンに見つからないように注意しながら、慎重に下に降りる場所を探した。


低い木が何本も生えているが、そこは止めて移動する。そうしていると階段とまではいかないが上手く石が積み上がっている所を見つけた。


川の中まで続いているので下まで降りる事が出来そうだ。


「ここから行けそうね」


ルイが石を踏みしめながら慎重に下に降りて行くと、水面が近づいてくる。流れさえ穏やかなら水面が日差しを反射して綺麗だろう、と思った。


吹いている風が強くなるのを感じながら川を覗き込むと、水流に負けずに魚が泳いでいるのが見える。


手をつけてみると、案の定、直ぐに流された。


水面から手を出し、ついた水を振って飛ばすと日の光の中で水滴が落ちる。水面に当たって波紋が出来るが、それも共に流された。


「これに入るの?」


ルイは難しい表情で水面を見ていたが、良い考えが浮かばず深く息を吐く。

いくら考えても無駄だと覚悟を決め、勇気を持って足先から浸かってみた。


お願い流されないで、と真剣に考えながら入ったルイは、意外と平気で拍子抜けする。足に当たる水流はそれほど強く感じなかった。


「大丈夫そうね・・」


それから順調に腰まで浸かり、足元の確認をしてから仁王立ちする。


その姿は自信にあふれていた。


「なんだぁ。全然大丈夫じゃないのっ・・!」


気が大きくなったルイがそう言うと、次の瞬間、滑って足をとられ上半身が沈む。あぶぶぶ、水の中で口から空気を吐き出すと直ぐに息が出来るようになった。


全身が川に浸かり、川底に足が当たると、上手い具合に止まる。


心臓が大きな音を立てているのを聞きながら、ルイは自分の胸を押さえた。


「ビッ・・クリしたぁ」


川の底で安堵する。


水は少し濁っているが日が差し込むと、遠くまで見る事が出来た。


海とは違う光景が目の前に広がり、川の中には透明度のある琥珀色の枝のようなものが生えている。それを魚がつつき、膝ぐらいの高さのあるトカゲに似た魔海獣が這いずり食べていた。


少しの間、静かに見つめていると気持ちが落ち着く。

それからルイは背筋を伸ばし、気になっていたものに手を伸ばした。


琥珀色の枝は間近で見ていると、とても綺麗で採取したくなるのも当然だったが、強く掴むと脱皮したての蟹のような感触がする。


ルイの想像の中では珊瑚のような硬さだと思っていたので驚いて手を離した。


「ひゃっ」


端の方が細かく千切れてしまい、琥珀色の物体が流されて行く。だが先まで流される事なく大きな魚の口の中に入った。


ばくっ!という音が聞こえてきそうな勢いで食らいついている。

それから数匹集まってくると取り合いをしていた。


餌として魚釣りをしたら大量に釣れそうだなぁ、とルイは若干現実逃避をしながら、さらに千切って川に流す。


魚達が集まってきて我先にと食べていた。


そんな光景を見ていると周りに魔海獣が集まってきている事に気づき、ルイは餌付けを止める。


本来の目的通り海を目指す事にした。





ーーーー


ルイは川を下っていく。


地面から足を少し離すと流されるので、それを利用して飛び跳ねるようにして移動する。足元に丸い石や岩が多いので注意しながら慎重に歩くが、しばらく進むと面倒になってきた。


とにかく川底の岩が邪魔で移動しづらい。


十分な水流はあるのに流れに乗れない事にルイは苛立ちを覚え、目の前の事なので考えずにはいられなかった。


流れに乗れさえすれば楽が出来る事は分かっているが、それにも関わらず自分の中で警告する心が邪魔をする。しかしそれさえも、楽な方へと気持ちが傾いた。


「普通に流れても怪我なんてしないわよね」


レベルが高いやら、時間が勿体ないなど、色々な理由を思いつく。出来ない理由よりも、出来る理由を探していた。


そうなるとルイの頭の中では手を広げ優雅に移動する自分の姿がある。


気持ち良さそうな様子に納得して、川の底から完全に足を外し流れに身を任せる事に決めた。


「さぁ、行くわよー!」


ルイが足を浮かせると、体が自然と浮く。


これから手を伸ばし、飛行機のような大勢になって水の流れに乗れば完璧だと思った。


「よっ、と・・」


体が平行になる。


そしてさらに足が上がり、体の重心が傾くと、妄想の世界ではない現実が牙を向いた。


バランスをとる事が出来ず、回転し、川の中にある岩を破壊する。止まる事ができず縦横無尽に流された。


あぁあぁああっ、ルイは声にならない声を上げながら、浮いたり沈んだりを繰り返す。パニック状態なので考える事が出来ずにいた。


その途中で餌だと思い食いついた魔海獣がルイに弾き飛ばされ、目を回している。


しばらくすると景色が見えてくるようになりルイは叫んだ。


「ぎゃあああ!真っ直ぐになってぇぇ!!」


川の中でルイの声が響いていた。




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