シュラドまでの道7
深い海の底。
光の無い暗闇が続く事もあれば、明るく照らされる場所もある。夜の世界の中に、光が飲み込まれているような場所が深海だった。
ルイは自分の周りを、弱い光で照らしながら歩いている。その間にも、色々な生物が横を泳いでいった。
長い尾びれで、三本の角の先が光っている巨大魚や、昆虫の足のようなもので、移動する貝。
ダイヤモンドに似た体を光らせ、ゆらゆら揺らしながら細長い触手を出しているクラゲのような生物や、エメラルド色の、発光する玉を出している、海草のようなもの。
そんな中、ある魔海獣が自分のハサミを使って、何かを作っていた。
ぼんやりと光る真っ赤な鉱石を挟んで、ハサミで削ったり、岩に何度も擦らせ、鉱石はどんどん形を変える。
蟹と昆虫を合体させたような姿の魔海獣の下には、作るのに失敗した、色々な鉱石が散らばっていたので、この魔海獣がどれだけ丁寧に作っているのかが分かった。
ルイはそれを興味深々で見ており、その瞳は輝いている。
「こんな所にも素晴らしい職人がいるのね」
蟹似の魔海獣は満足のいくものが出来たのか、自分の持っている品を、色々な角度から確認していた。
そしてその魔海獣は、出来上がった鉱石を掲げて、左右に振りだす。
すると遠くから、同じ種類の蟹似の魔海獣がやってきて、鉱石を振っている魔海獣に合わせて左右に動く。それをしばらく二匹で続けて、最後にその鉱石を後に来た魔海獣が受けとると、二匹でどこかに移動していった。
「鉱石を振るのは求愛行動のようね。だから何度失敗しても、あんなに真剣に作ってたのかなぁ」
ルイは考えてから、魔海獣が残していった鉱石を見る。そこには、ぼんやりと光る黄色い鉱石と、茶色からオレンジ色に色を変化させる鉱石が、いくつか転がっていた。
「うっわ!素晴らしい」
ルイは魔海獣が作った品が芸術品に見え、欲しくなる。
所有者はもう行ってしまったので、これは持ち主がいない品なのだと、ルイは心の中で断定した。
「わー蟹似さん、ありがとう。今度何かあったら助けるわね」
そう言ってルイは、魔海獣が作った鉱石を収納する。
海の底で作られた品物を、手に入れる事が出来るとは思っていなかったルイは、大変満足した。
「さぁて、他の場所も行ってみよう」
ルイは歩いて回り、他の場所も見ていく。
岩に花のようなものが生えている場所や、魚が隙間なく詰まった穴などがある。
そして十分ほど経った頃、砂と激しい海水の流れが、ルイの方に押し寄せて来た。
海水の流れに乗って、魚や海蛇、小さな魔海獣達が流されて行く。助ける事が出来なかったので、直ぐに見えなくなった。
「え?何なの」
驚いたルイは、急いでその方向に向かう。
そこで見たのは、四本足の魔海獣と蟹似の魔海獣が争う姿だった。
四本足の魔海獣は、部分的には昆虫のような形をしているが、その半分以上は触手のようなもので覆われ、先には目玉のようなモノが付いている。
「うわぁ・・・」
四本足の魔海獣が怖い姿をしていたので、ルイは立ち止まるが、その時、蟹似の魔海獣から手に入れた品を思い出した。
とても芸術的な素晴らしい品なので、手放したくはない。
物欲の方が強くなったルイは、笑顔で二匹を引き剥がす。
それほど怖いとは、思わなかった。
二匹は威嚇しあっているが、ルイが間にいるので衝突はしない。
四本足の魔海獣は、一生懸命目玉の付いた触手を、蟹似の魔海獣が持っている、赤い鉱石に向かって伸ばしていた。
届かずにプルプルと震えている。
ルイはそれを見て、収納から自分が買った赤い大きな石の付いた首飾りを、一つ取り出し、掲げて見せた。
「ほら、これをあげるから。この子の作ったものは諦めて、お家にお帰り」
自分の事は棚に上げて、ルイは四本足の魔海獣を説得する。
差し出した首飾りを、触手の付いた目玉が集まって、ジッと見ていた。
三百六十度しっかりと確認した後、そっと首飾りを受けとる。
そして、ブチッ、と目玉を一つ取ってルイの手に乗せると、満足したように去って行った。
「ヒョエェェ!!」
ルイは目玉を放り出す事も出来ず、全身に鳥肌を立てて右往左往している。
いつの間にか蟹似の魔海獣もいなくなっていた。




