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グロリア・フォン・コードウェルの断罪と復讐(書籍版:悪役令嬢グロリア・フォン・コードウェルの断罪と復讐)  作者: 万丸うさこ


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第29話 優しい生き方、優しい選択

 その日の夜にコードウェル家へ届けられたアランとシンディの首を見てから、A子の泣きじゃくる声が脳内に響いてうるさい。


 ケイトが下がって寝る直前でもまだ泣き止まず、夜着に着替えたグロリアは仕方なくドレッサーの前に座った。このままでは眠れない。


 うんざりしながら、うんざりした顔をしている鏡の中の自分に「泣き止め」と言う。

 はたから見ていたら全く意味がわからない言動だが、脳内でA子がぐずぐず鼻を鳴らしながら顔を上げた気配がした。


 (だって、こんなに簡単に死んじゃうなんて思ってなくて……)


 ずずっ……! と脳内に鼻をすする音が響く。

 他人の下品で汚い音が脳内に響いたのがとてつもなく不愉快で、鏡の中のグロリアが眉間にしわを寄せた。


 (今までこんなに血生臭いことしなかったじゃん! なのになんで急にアランとシンディを殺したの?)


 「殺した? 私が?」


 そんな事実はない。

 首をはねたのは憲兵の死刑執行人だし、その原因を作ったのはアラン本人だ。

 いくら腹が立ったとはいえ、平民が貴族に――よりによってその最上位たる公爵に物を投げつけて無罪放免なわけがない。


 (違う違う! そうじゃなくて! アランはまだ小っちゃかったじゃん! これからちゃんと人を、グロリアを裏切らないように諭したりしつけたりしたらこんなことになんなかった! 殺さなくてもよかったじゃん!)


 目の前にA子の実体があったなら、ぶんぶんと大きく頭を振っていただろう。彼女の激しい否定と、言いたいことの意味はなんとなくわかった。

 しかし、とグロリアは小さく肩をすくめた。


 「それは私がするべきことか?」


 諭すこともしつけをすることも親の役目だ。こんなことが起こるまで一度も顔を合わせたことがなかった異母姉が担うものではない。


 妻がいながら他の女に手を出した父と、父が既婚者と知りながら愛人に納まったシンディ。

 自分たちが人の道を外れているならなおのこと、子供には倫理と道理を言い聞かせるべきだった。子の教育は親の責任と義務なのだから。


 むしろそんな両親に甘やかされて、父の権力は自分のために使われることが当然という態度で公爵邸に乗り込んできた異母弟から身を守って何が悪いのか。


 前世では自分だけでなんとかできる範囲でしか身を守らなかったし、守れなかった。

 だからシンディに母の部屋を取られ、アランに次期当主の座を取られ、次期王妃の座も聖女に取られた。


 頭が固かったと反省している。だから今世では自分以外のものも利用して、全力で自分の身を守っただけである。復讐どころか自衛の範疇だ。

 そしてそれはそんなにも責められることだろうか。


 言葉に詰まるA子にわかりやすいよう彼女の世界の知識を使って、たとえばもしもひったくりにあったとして……と、道を歩く人の後ろ姿を思い浮かべる。


 奪われそうになったバッグを取られまいとして引っ張ることは、非常識なことか?


 それのせいで自転車に乗っていたひったくり犯が転んで怪我をしたとして、責められるのは被害者か?

 転んだ拍子に頭を打って死んだとしても、ひったくり犯の自業自得だろう。


 (でも、だ、だって、グロリアは頭を打った犯人の顔を上から踏んづけるみたいなことしたじゃん! 私はまさかグロリアが、こんなにちゃんと、人を追いつめるって思ってなくて……!)


 この亡霊はいったい今まで何を見聞きしていたのか。

 あまりにも明後日なことを言うA子に、グロリアの眉間のしわはますます深くなった。


 顔を踏みつけたくなるほど憎い相手だから、復讐するのだ。


 (だって、グロリアは今まで優しい選択をしてたから……カイラの命も救ったし、ケイトとは仲良くなったじゃん。ちゃんと叔父さんと話し合って親戚付き合いもして、日本酒だってなんだかんだ言いながら平民のために作るって言うし。シンディだって……)


 細くなった喉で無理やり息を吸うような音をさせ、そりゃあ針の件はハメたけど! と、A子は続けた。


 (パパの不倫相手が新しいお母さんになるってよく考えたらめっちゃ嫌だし非常識だし、公爵家の体面のためには仕方ないなって……。でもそのあと社会復帰しやすいようにフォローしてたし、だから、復讐って言いながら実はツンデレなだけで、私が最初に言ったみたいに今度の人生は〝優しい生き方〟を選んだんだって思ってたのに……!)


 ツンデレを理解できなくてA子の知識を探り、グロリアはA子の勘違いに思わず冷笑を浮かべた。

 鏡の中で紫の目が斜め上にぐるりと大きく動き、A子の涙で蒸されたように熱くなった脳内の蒸気を逃すように口から息が漏れていく。


 「〝優しい生き方〟か」


 鏡の中のグロリアは、金のまつげを震わせて笑った。


 A子の言うとおり、今世のグロリアはみんなで仲良く過ごしているように見えただろう。


 シンディを陥れたとはいえ、その罪が今後に響かないように配慮もした。

 もしも就職先が見つからなければ息子ごと公爵家で雇うという、元犯罪者にとっては破格の条件だ。


 それは確かに、優しい選択だと言えるかもしれない。

 だが……と、グロリアはA子に問いかける。


 お前は〝復讐〟と聞いて何を思い浮かべる?


 復讐相手がどんな感情を抱けば〝復讐成功〟と、このグロリアは満足すると思うのだ?


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― 新着の感想 ―
A子はグロリアが冤罪被せられて処刑されたこと知ってるのに、加害者であるクズどもに酷いことするなっていうの、A子こそ人でなしだよなあと思います。 リアルでもそうだけどなんで加害者にばかり優しい人が多い…
よくある女主人公転生もののように「ショタ可愛い❣見捨てるなんて出来ないわぁ~♥♥✨」などといった浮ついた考えでは貴族社会は生き抜いていけませんよ。A子ちゃん。
A子さんはグロリアの中で ゲームや映画的な感覚なんだろうね グロリアはプレイヤーでA子さんはゲームしてる人の後ろでワイワイ騒ぐ人 グロリアからしたら知識以外は役に立たないお邪魔虫 ワシならプチ切れし…
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