クラフト系、陰キャのブルース
自宅から届いた荷物をカウンターに引き取りに行った帰り、浴衣から覗く手足に顔を、真っ赤に染め上げた3人が、身体を揺らめかせながら、良く分からない物言い。
「……やる事も目白押しだったし。千影のスーツをラナパーで磨いたり、あっと言う間にボロけたバンクセンサー取り替えたり、スーツの首回りと腰部分のエアバッグのガスボンベのチェックしたり……良く、分からんのだけど……なんか文句云われる様な事でもしたか?」
「なにもしてこなかった事について……文句を言ってんでしょうが……こんなハーレム比率のレア・イベントほっといて、なにしてんの」
「なに言ってんだ お前?」
「イオナちゃん、澪ちゃん……そんな事より……早く、お部屋入って なにか……飲もう? し、死んじゃう……」
眼鏡の奥で目を回している様子の千影の言葉に素直に従って、ぺったら ぱったらと履物を鳴らして、部屋にあがる女子一同。
なんだか、俺が御機嫌を損ねる事をしてしまったと言う事は……察する事はできたけれど――それが果たして何なのかも分からずに、抱えた箱と荷物を持ったまま
皆の後をついて部屋に上がった。
「冷蔵庫に適当に飲み物買って放り込んで置いたから、飲んでくれて良いぞ」
備え付けのポットで お茶を淹れようとしていた千影の背中越しに教えてやると、イオナが ゆらゆらと、体と短い黒髪を揺らして冷蔵庫の方にへと向かって行く。
めいめいで、冷たい物を飲みながら息をつく3人を余所に、座椅子にかけると――カウンターで受け取った荷物を開けて作業を開始。
イオナが作成した3Dデータを元に出力したパーツをひとつ ひとつニッパーでぱちり ぱちりと、切り離す。
「おおぉ……凄いぞ、この匠シリーズのニッパー……切り離しに付きものの、パーツの白化が無い。その上、素晴らしい切れ味。おまけに このイオナがデータを作ってくれた かっちりとしたパーツのかみ合いの妙も、心地良すぎる――」
漸く完成に漕ぎ着けた、長い間手掛けてきた装置――ガウスライフル。
細切れに出力された その外装パーツの切り離し作業と、おおまかな組み立てに無心で没頭して、しばらくして気がついてみれば
女子たちから向けられる――呆れたものを見るみたいな、憐れな生き物を見るかの様な……そんな痛ましい視線。
手にしていたものを ことりと置いて居住まいを正して
「ど、どうか……した……のか?」
ほとほと理解に苦しむ女子たちからの視線の理由についてを、伺ってみれば
「「小学生か」」
澪とイオナの口から、飛び出したのは心無い御言葉だった。
* * *
夕食時。
並べられた目移りするような食事を前にして、皆での団欒に華を咲かせていると――
「ねぇ、蔵人……この間の」
そう言葉を切ったイオナが、箸を握ったままの手でピストルを象った手をこちらに向けて発砲する仕草を取った。
俺に向けて発射された、うそ弾丸を宙で捉えるとそれを口に放り込んで、彼女の言葉の続きを待つ。
「食うんだ……。てか、あれ。……結局、どうするの?」
途端にぴたりと静まり返る、先程までの空気。
あの瓢箪から駒的な代物について、俺が取った手立てについてを、今にも消えそうな固形燃料の火を眺めながらに説明してやる事にした。
「――調べてみたんだけどな。あれは多分、ゴーストガンって奴だと思う」
「ぃ幽……霊……」
「オカルトを想像するんじゃ無いぞ? 千影。貞子も呪怨も関係無い。いわゆる、まともなメーカーや企業が製造したものではなくて、それこそ……家内制手工業で細々とアングラに製造される代物について言う言葉だ。
「調べてみたんだけど、あの2種類の……こう、長かった2丁の方が、ブローニング・ハイパワーの……タッシー・カスタムって奴を意識して製造された物で、残りの5丁はシグ・サウエルって会社のP226 X-Fiveって奴をコピーした物じゃないかな……と思う
「なんでもフィリピンのダナオって場所には、この手の密造を得意とする職人たちが、ごまんと居るらしくてだな。小学生くらいの子供の頃には、学校にも行かずに家族に教えられて、専門性の高い技術を磨くんだそうだ……実に、羨ましい」
「羨ましいって、あんた」
理解不能なモノを見る目で、こちらを見る澪が、呆れた口調。
「あくまでも俺、個人の価値観だ。言ってくれるな。そもそも学校のテストで点数が良かったからってなんになるってんだ? いや、この間の夜の集会に集まっていた……辛うじて人語を解する猿たちみたいに なるつもりもないけども――
「良い点を取って、良い進学先に向かって、良い就職先に就く。それで、この先の長すぎる人生を、安穏と暮らせる保証が得られるのかと言えば……そうでも無いだろう?
「この日本の社会は、俺たちのテストで取った点なんてものに、実のところミリも関心はないぞ。そんなものよりも、就職面接での大噓吐き大会での評価の方が重要視されるなんて話も聞く、終わってる世の中だ。
「あやふやな価値観を杖代わりに歩む人生なんかより――俺は自分が選択して磨きあげた、確かな知識と技術的資産を拠り所に生きる人生を選ぶ」
目を向ければ実家の営む家業の一室に、剣呑過ぎるものを放置されて――経済的に追い込まれかねなかったイオナが、俺の話を耳にしながら宙を目で追っていた。