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74.役に立っているのは間違いねえけどよ

 ソンジュ達三人はゆっくりと街道を進んでいく。

 先頭に立って、それでも後方の商人達と一定の距離を保ちながら。

 歩きながらユウが魔法の研究について問い掛ける。


「ねえ、ワイトの知り合いのいるところって大学……高等な学校なの?」

「いや、民間の研究所だよ。俺の知り合いの連中なんかは、趣味が高じて研究に専念してるって感じじゃねえかな」

「国の運営じゃないんでしょ? 資金なんかはどうしてるの?」

「商人やギルドが出してんだろ。遺跡で発見される大容量の袋やら、どこかから呼び出されたとしか思えねえ魔物やらの事を知りてえんだろうな。そんなのが存在するからには、大昔にはそんな魔法技術があったって事だからよ」

「国にも研究機関はあるが、やはり資金が抑えられているからね。もっと即物的で実践的な研究が主体になっているだろうな」

「見た目よりも多くの荷物を運べたら商人達も大助かりだろうしよ。召喚ってのも別のとこから目の前に呼び出せるなら革命的な移動手段になるんじゃねえか?」


 ああ、その辺りは現代日本と変わらないみたい。国営だと資金が抑えられちゃうのよね。

 だけど研究内容は逆みたいね。国の機関の方が手っ取り早く結果が出る研究をしていて、基礎研究なんかは民間に任せているんだもの。

 時空魔法や召喚魔法の研究って基礎研究よね。受け取る利益は多そうだけれど、今までそんな物を見た事がない以上は基礎的なことを調べてるんでしょ。

 あれ? 本当に全く実現していないの?


「その研究って成果は出ているの?」

「召喚の方はまださっぱりらしいがよ。容量拡張の方は少しだけ出てるようだぜ。最新の情報だと確か一割くらいの拡張が出来ているらしいからな」

「ほう、そこまで進んでいたのか。私の知っている限りでは、拡張はされているのだろうがほとんど差が分からない程度だったからな」

「とは言っても、遺跡やらで発見される古代の遺物に比べりゃ誤差みてえな物だろうけどな。なにしろあれは見た目の数十倍の物が入るんだからよ」


 何言ってるのよ。少しじゃないでしょ。一割の拡張だって物凄いことでしょ。

 今まで馬車に十個しか積めなかったのが、十一個も積めるようになるのよ。

 十パーセントの性能改善がどれほど大変な事なのかが分かってないんでしょ?


 たぶん過去の遺物って言う現物があるから納得できないんだろうな。そちらの方が当然だって認識があるんでしょうね。

 ……研究者の人達も大変ね。無理難題を吹っ掛けられてるんじゃない?

 私の仕事は総務だから上司の無茶振りくらいしか無いけれど、彼からはとんでもない要求ばかり言ってくる顧客の愚痴を聞かされているもの。

 もちろん彼だって業務内容に関することは言わないけれどね。


「学校なんかでは研究していないの?」

「ユウの世界では学校で研究もしているのかな? この国だと教育機関と研究機関は別物だね。もちろん学校の教師も新しい事を学びはするだろうけれどな」

「学校なんて二つしかねえからな。貴族が通う学校と魔法兵のための学校だしよ。魔法兵の学校なんて、たぶん私塾とそうは変わらねえ筈だぜ」

「え!? じゃあ平民の人はどうしてるの?」

「そいつ等は私塾に通ってるよ。まあほとんどが商人の子弟だがな。読み書き計算は商人には必要だろ? 後は向上心のある奴等が通ってるくらいさ」

「冒険者は私塾に行く者が多いだろうな。文字が読めたら受けられる依頼の幅が広がるし、商人達と懇意になれば専属護衛に雇われたりもするからね。特殊な例だろうが、商人に気に入られて婿養子に入ったと言う話も聞いた事があるな」


 そっか。識字率九十九パーセント以上の国に住んでると気付かないけれど、文字が書けて読めるってだけで立派な技能なんだ。

 四則演算が出来るだけでも高等な教育を受けているのと同じなのよね。

 そうよ。義務教育、中学まで卒業していたら日常生活には問題ない知識を持っている筈だもの。社会人として十分な知識をね。


 マンガや小説だと、中世みたいな世界なのに共和国って名乗る国があったりするけれど実際にはありえないと思うわ。

 将軍様が治めるどこかの国や、一党独裁のあの国のように、国名だけなら共和制みたいだけど実際は違うんでしょ? そう言えば自分達で「選んだ」大統領が罷免されたのに、それを革命だとか騒いでいた国もあったわね。

 マンガや小説では農民や一般市民が国を憂いたりしているけれど、そんな事を考えるだけの基礎教養も持たせて貰えないんだから。


 共和制国家って国民全員が政治家でないといけないのよ。各々が国家百年の計を考えられないと駄目なのよ。

 そのために義務教育を受けてるんでしょ? 中学まで通っていたら、それが出来るだけの知恵は持ってる筈なのよ。

 政治は政治家の仕事? 違うでしょ。代議制ってのは自分の考えに近い政治家を国民が「選んで」いるのよ。政治家が犯罪を起こしたら、恥じるべきなのはその人を選んだ地域の民なのよ。


 日本だって数年間政権を当時の野党に譲った事があったわよね。政権政党に「お灸を据える」なんて馬鹿な事を言って。

 それでお灸を据えられたのは誰? その野党を選んだ馬鹿な国民でしょ?

 日本みたいに教育水準が高そうな国だって国民は愚かなのよ。マスコミの言う事を鵜呑みにして何も考えないような人が多いのよ。

 こんな中世みたいにまともな教育も受けられない世界で、共和制国家なんて存在できる訳ないでしょ?


「なら二人共に向上心があったってことね」

「そうでもねえさ。俺は魔法兵として無理矢理教え込まれたんだからな。まあ、役に立っているのは間違いねえけどよ」

「私は女だからという理由もあったな。文字も読めなければ計算も出来ない女性冒険者が食い物にされるのを目にしていたからね。自らを守るためには知識が必要だと思ったのさ」


 やっぱり男尊女卑の風潮があるんだろうな。

 地球だって男女同権が言われ始めたのって二十世紀になってからだもの。

 日本なんて男女雇用機会均等法が施行されたのなんて二十世紀末、平成間近になってからなのよ。

 女性参政権ですら敗戦後からなのよ。もっともこの世界だと参政権なんて男性の市民にもないんでしょうけれど。


「それよりユウの方が驚きだぜ。あんたの世界じゃ文字が読めて計算できるのが当たり前なんだろ?」

「私の国だと七歳から十五歳までは等しく教育を受けるのよ。その後も大半の人達は高等教育を三年、専門教育を四年間受けるわね」

「はあ!? なんだと? 計十六年も教育を受けるってのか? え? それだと社会に出るのは二十三歳になってからって事か?」

「それだとユウは成人して間もないと言う事なのかな?」

「たぶんこの世界の成人とは意味合いが異なると思うわ。私の国でも早い人だと十五歳で働き始めるし、それだとこの世界と変わらないでしょ?」

「まあな。成人と言っても独立した時からそんな扱いになるからよ。一応身体が出来上がる十五くらいが成人になるが、もっと前から成人扱いされる奴も多いな」

「この世界より医療も進んでいるし、高度な仕事も多いから社会に出るのが遅くても問題ないのよ」

「ユウの世界には魔法はないのだろう? なのに医療は進んでいるのかい?」

「逆に魔法がないから技術が進んだのかもしれないわね。ほら、ワイトが橋を架けるのを魔法で手伝ったって言ってたでしょ? 私の世界には魔法なんてないんだから、知恵を絞って何とかするしかないのよ」

「その結果が全長四セオークの橋や、あのペットボトル? と言う事かな」


 魔法の研究の話から雑談へと変わっていく。ここしばらく三人で街道を歩きながら行なっている事なのだろう。

 向かう先の街からくる商人や旅人とも擦れ違う。背後には一定の距離を保ったままの者達もいる。

 そのまま休憩を適宜取りながら歩き続けると、向かう先の街の城壁が見える。

 ここまで来ると魔物に襲われる心配もない筈だ。


 城門に辿り着くと簡単な入城検査を受ける。

 冒険者のソンジュと元魔法兵のワイトは問題ない。ユウは変わらずソンジュの荷運びの扱いである。ただそれが一番無難な方法なのだ。

 城門を潜るとソンジュが声を掛ける。


「さて。本来は宿を取る組とギルドに向かう組で別れたほうが良いのだろうが、まあ急ぐ事もないし構わないか。まずは宿に向かうとしよう。ワイト、任せたぞ」

「ああ、了解だ。付いてきてくれ」


 ワイトの案内で宿に向かう。

 その宿はやはり下級貴族が泊まるようなそこそこ立派な宿である。

 受け付けの者もワイトの顔を覚えているようだ。既に軍を抜けていてもワイトは歓迎されているらしい。

 宿で二部屋を取ると夕食に向かう。こちらもワイトの案内だ。

 ワイトは王都までの道案内としては最上の者だろう。もっともそんな扱いをしたら、ワイトも臍を曲げてしまうかもしれないが。


 夕食を終えるとギルドに向かう。近隣の情報を知るために。

 ソンジュだけが受け付けに向かい、ユウとワイトが掲示板の傍で待つのもいつも通りだ。

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