白紙の一枚 そうしてグダグダに生きる人間が一人
かくして世界は平和に巡る。
「これが、真相。冒険者という職業が無くならない理由でもあり、世界中にダンジョンという存在が出来たきっかけ。どう、真実を知る
もののお姉さん」
勧められたお茶を飲み干すころには、話も終わっていた。
「ええ、実に興味深い話でした。それと私のことはレイと呼んでください」
魔導照明で照らされた部屋の中、話をしてくれたハートラ家の人、ユリさんが自身の分身にティーセットを片づけさせていた。
「じゃあレイ、貴方はこの話を聞いて、それに改竄前の依頼票を見てどう感じた?」
「んー、私の所見としては、スケールが大きい話でしたが、この世界を自由にするために戦った狐と巻き込まれた異世界人の話、といっ
たところでした」
無論それだけではなく、北方都市、冒険都市と呼ばれるまでに発展したレマの街、それとハートラ家の歴史まで知ることができた。
「一番の感想としては、コレ、私生きて帰れるんでしょうか」
歴史の裏側かつハートラ家の歴史というものに触れてしまっただけに。
「ま、大丈夫。わりと有名なおとぎ話だから」
木を隠すなら森理論でおとぎ話として紛れ込ませたらしい。
「北方では意外に有名なのだけどもね」
「じゃ、その後の話を少し説明しようか」
再び居住まいをただす。、
「まずは、有名なところでリリ・ハートラ」
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―――リリ・ハートラ
クラン単位での叙勲を機に、北方都市を冒険都市として機能させることに尽力。並行してクランの規模を拡大し、本格的なサポートク
ランとして機能を開始。
今では前衛中衛後衛問わず、足りない人員を派遣する形で依頼をこなす派遣クランという新たなクラン形式を構築する。
忙しい領主業務の傍ら、自身もクランの長として活動する姿はよく演劇の題目として取り上げられた。
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「ま、実際は冒険出てる間は分裂体に仕事を任せていたらしいけどね」
有名なのは『サポーティア』というまんまな名前の歌劇だろう。様々な人間模様が描かれる作品でもある。
「じゃ次はフィアナとピアかな?」
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―――フィアナ・マルルス
サポーティアの投槍使いとして名を馳せ、光の槍による投槍は山をも貫いたとされる。
ハートラ家に生涯勤め上げ、死後その魂は鍛冶場の聖域の巫女の手により戦士を導く戦乙女へと昇格する。
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「現在も槍の武神としてあちこちで祭られてますね」
「本人は恥ずかしがってたけどね。できる限りそういう信仰の強い地帯には近づかないって」
時折鍛冶場の聖域を出ては、北方要塞ダンジョンに魔物を狩りに行くという噂は本当のようだ。
「じゃ、鍛冶場の巫女かな」
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―――ピア・ブリギッテ
世にも珍しい幽霊の集合体。北方魔王戦役の際は鍛冶場の聖域を作るために自らと融合した八咫烏の炎を使い、聖域を構築した。
その功績を称えられ、鍛冶場の聖域であるブリギッテの巫女として今なお聖域の維持を行う。
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「ま、ブリギッテっていうのも後からつけられた名前で、今でも自分の名前はピアだって言ってるけどね」
「聖域の奥にいるか、世界中の空を飛び回っているかのどちらかと聞いています」
黒い大烏が飛んでいるのは、ピア様が世界を回って魂を冥府に送っているという伝承もあるくらいだ。
「ああ、あちこち見て回るついでに冥府に魂を送り届ける仕事もしてるわ。じゃ、次はクロックね」
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―――クロック・ラビィ
ラビィ族の一員として新たな技術を会得し故郷へ凱旋。その後北方都市レマにてクロック流と呼ばれる素手格闘の流派を創設。
後進指導の傍ら、サポーティアの一員として各地を渡り歩いた。
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「晩年はよくフィアナと一緒に飲みながら勝手に神格視されて困るってぼやいてたって話だね」
「格闘の神様扱いですし、仕方がないかと」
私も荒事用に気術を多少はかじってるし。
「それじゃあ、最後は異世界の二人組かな」
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―――チカ・ワタラセ
異世界から召喚された土魔法と投擲術のエキスパート。
代名詞となっているオリハルコン珠の投擲距離は現在の技術では再現不可能のオーパーツ扱い。
戦後、帰る手段を見つけた際に帰還。ブリギッテの中心にある鍛冶師の聖域を象徴する建物、『トーキョーエキフー』や北方要塞の石
材も彼女が出しており、
数百年経った今でも風化する気配すら見せない。
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―――アケノ・ソラカワ
近代符術の祖にして、異世界から召喚された人間。
戦後、『渡航チケット』と書かれた符を作成し、自力で元の世界へ帰還。
符術士という職業に多大な影響を与えた人間の足跡はそこで途切れる。
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「ま、こんなところかな? どう、記事にできそう?」
「―――非常に興味深い話ですけど、コレ記事にはできないですよね」
歴代の真実を知る者たちの面々はこの情報を知って、お蔵入りを決意したのだろう。
じゃなければ、この案件に関する記録を一切残さずに、北方都市レマで聞き込みをすればいずれたどり着けるなんて書置きだけを残す
はずがない。
「ま、でも私たちは真実を知る者たち。あくまでもそこにある真実が知ることが出来ればそれでいいんです」
そう言って、私は立ち上がる。これからの記事の算段を立てるために。
真実を知る? 建前だ。歴代は真実を知るだけでよかっただろうけど、私は違う。真実を知らしめて私たちのクランの功績とする。
「歴代の人たちと同じことを言うね。じゃ、そんなあなたに最後に一言」
ウインクをしながら、彼女は告げる。
「油断大敵」
突然現れた背後の気配に振り向くも、符を貼られる。
「これ、は!?」
「残念、この部屋って読心の符を貼ってあってね」
警戒を怠った自分のうかつさが憎い。
「ま、この話は基本部外秘だからね。『あなたはこの話を対外的に漏らせない』っていう符を貼らせてもらったよ」
そんなふざけた符があるのか。だけど巫術協会に行けば解除できるはず。
「無理無理。今のところ、それを解除できるのはアケノくらいだわ」
じゃ、お休み、と言われ、私の視界は暗くなる。
一瞬だけ映った、肩に子狐を乗せた女性の姿を最後に。
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「で、久しぶりに呼ばれたと思ったらまたこの類の後始末?」
せっかく仕事終わって一人で酒盛りをしてたらいきなり呼び出された。
あれからどれくらい経っただろうか?
皆に盛大に送り出されたのだが、戻った先は確かに自分の部屋。
異世界に行ってきた末の時間経過は一晩ぐっすり寝たという大体八時間後。
大慌てで千果に連絡を取ると、同じ状況だった。
だから二人揃って一度会おうという話になり、近所の河川敷に行って話をして実験をした。
極小さい範囲で行ったが、どうやら私たちの魔法や能力は、
魂単位で情報を書き換えられたり刻まれたりしている様子で、カード化も魔法も使うことができた。
『渡航チケット』を見ると力を失っていたので手を加えて書き換え、『無期限パスポート』へ変貌させて戻って来た。
二度と戻れないと思っていただけに少しバツが悪かった。
それからというものの、仕事とこっちの両立を図るようにして生きる。今まで通りOLを務める傍ら、休みの日にはこちらへやって来て
は冒険者として活動する。
そんなことを死ぬまで続けて、死んだ後もこうしてこちらに来ていろんなところを見て回っている。
「まったく、自分の話が恥ずかしいから後世に残したくないってそれだけの理由で普通ここまでする?」
「もう後には退けないし。それに時間は有り余ってる」
「冥府の門はどうしたんですか? フェネクス様と共同管理なんでしょう?」
「有給もらってきた。リリも降りてきてるから後で挨拶するといいよ」
死んだ後も自由に活動できるようにする代わり、こっちで冥府の門の運営を手伝っている。
ついこの間までが働いていたので、久々の有休をとろうとしたら、ユリから連絡があった。
「普段ならまあ符を送って終わりだったけど、今回はフェネ君と一緒に下りる予定だったからね」
リリとチカも同じタイミングでこっちに下りてきたからついでに顔を見せに来たのだった。
「それで、今後の予定は?」
「うーん、リリの家系ってリリみたいにぶっ飛ぶか生真面目になるかの二択だけど、百合ちゃんは後者だね。ま、予定だけどさ」
私とフェネ君は軽く顔を見合わせて告げる。
「ま、なんも決まってないから適当にグダグダ行くよ。皆と一通り会うくらいかな。決まってるのは」
だから、一度ソファに座り、
「とりあえずお茶頂戴」
ユリに向かってお茶を要求することにした。
「ま、こんなグダグダな人生や休日もありってことで」
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こうして、私の日常はグダグダだらだらと続いていく。
いつか、この魂が役目を終えるその日まで。
この世界が、成熟するのを見届けるまで、私はこうしているのだろう。
―――ハートラ家に置いてある空川明乃の日記帳の文面より抜粋。
世界は、無限に続くだろう。




