何でもいい
何往復目かわからないが、歩きながらまた大久保公園の前に戻ってくる。
いつも通りの光景。
等間隔に並ぶ女の子たち、それを品定めするように通り過ぎる大人たち。
この公園の変わらない日常だ。
ほんと嫌気がさす。
自然とカバンの中に潜ませていたセブンスターに火をつける。
「ごめんね、ちょっと通して」
女の子たちの間を通り抜け、大久保公園を突っ切ろうとする。
そこでいつもと違うことが1つ起きた。ベンチにキャバドレスを着た女の子が1人寝転んでいたのだ。
「ねぇ、大丈夫?」
思わず声をかけた。
「何? 一緒に寝てくれる子探してるんだったら、あっち」
「そうじゃなくて、こんなところで寝てたら風邪ひくよ」
「うるさいな…あんたには関係ないでしょ」
「はぁ...いいからちょっと待ってて。そこから動かないでね」
近くの自販機で水とお茶を買う。
なんとなく放っておけない。
「はい、どっちがいい?」
「...水」
「開いてるから気を付けて」
女の子は、一気にその水を飲み干した。
「...ありがとう」
「どういたしまして。で? なんでこんなところで寝てたの?」
「...なんでって」
女は空になったペットボトルを握りしめたまま、少し俯いた。
「僕は仙田リコ。君の名前は? 名前がないと呼びづらいでしょ」
「...ルナ」
「キャバ嬢?」
「元ね。今日クビになったの。てか、あんた、絶対スカウトでしょ? どこでもいいから稼げるところ紹介して」
「......。そんなことよりお腹空いたろ? この近くにいい小料理屋知ってるんだ。ほら、行くよ」
カバンの中にお茶を入れ、ルナの手を肩に回させて、もう片手でルナの腰を支え立たせる。
「あんたのおごりだからね」
「はいはい、わかったよ」
呆れた声で応じるも、嫌がらなかったことが口元に小さな笑みを浮かべさせる。
「女将さん、さっきぶりです」
暖簾をくぐり、数時間前までいた店に今度はルナを連れて舞い戻る。
「いらっしゃい。奥のテーブル席空いてるけん」
「ありがとうございます」
ルナを壁に寄りかかれるようにソファー側に座らせ、メニューを広げる。
「好きなの頼みな」
「は?」
「いいから。まず食べる。腹が減っては戦はできぬっていうでしょう?」
「変な奴」
無言でルナと一緒にメニューを眺める。
「食べれないものある?」
「ない。あんたはここによく来るの?」
「いや? さっき初めて来たんだ」
「へぇ…あ!これ食べたい!」
「どれ?おっ!おいしそうだね」
結局ルナと2人で5人前分くらい頼んだ。
ほとんどルナが食べたけど、幸せそうに食べる彼女を見るのは僕にとっても幸せだった。
「で? 今日泊まるところあるわけ?」
「ないけど」
「まぁ、そうだよね。あったらあんなところで横たわってないか。うち来る?」
「は?」
「変な意味じゃなくてさ。泊まるところないなら来ればいいじゃん。部屋余ってるし」
「いや、あんたのことなんも知らないんだけど」
「そうだね。でもさ、鍵かかるし自分の部屋として使ってもらって構わないからさ」
「変なことしたら絶対出てくから」
「はいはい、わかったよ」
ちらっと見上げると女将さんが無言で伝票を持ってきてくれる。
「ありがとうございます」
荷物を回収し、今度は2人別々で立って歩いて店を後にする。
「うまかっただろ?」
「うん、美味しかった」
「家、こっち」
2人で先ほど出会った大久保公園を突っ切り、マンションの5階に移動する。
「3LDKだから、空いてる右のか左のかどっちか好きな部屋使って」
「じゃぁ、右」
各部屋に鍵は備え付けているし、必要最低限の物は揃えてある。
「なんで全部あるの」
「あぁ、ちょっとずつ準備してたんだ。いつでも逃げ場所、泊まる場所を求めてる人が来ても大丈夫なように」
「...まぁ、助かるからいっか...」
5年前、あの子とのことがあって以来、僕は決めていた。
逃げ場がないなら泊まる場所がないなら僕の家をそのために使おうって。
この街は稼げる一方で、働くキャストを金を稼ぐ道具としか見ていない性根の腐った人間も多い。
あの子が死んだのも僕がそういう店だと見抜けなかったから。
「ルナ、とりあえずおやすみ。他に欲しいものがあったりしたら明日買い出しに一緒に行こう」
「...うん、おやすみ」




