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ストーリー未履修の公爵令嬢、自分のことを知らないので自由気ままに謳歌する~主人公が別にいるなら私は自由!マイペースな異世界ライフ~  作者: 銀花うさぎ
第二章

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散歩⑥



 私が予想した通り、エリックはアルベルトの元まで、つまり先ほどの訓練場まで連れ戻してくれたようだった。

 今はちょうど休憩時間のようで、騎士たちはそれぞれ自由に羽根を伸ばしていた。


 それでもやはり、場違いな令嬢がいるせいか、好奇の視線がちくちくと刺さる。

 私はなるべくエリックの背中だけを見るようにし、乾いた土を踏みして歩いた。

 ……見られてる、見られてる。やっぱり珍しいのかしら?気分はまさに珍獣を見るが如く。


 がやがやとした喧騒の中、アルベルトの元まで辿り着いた。

 すると、近くにいた騎士たちがピタリと動きを止め、一斉にこちらへ視線を向けてくる。


「……んじゃ、一旦退散するぞ!団長、また後でな」

 

 誰かが軽快にそう叫ぶと、彼らはそれを合図に、蜘蛛の子散らすように一瞬でその場から去っていった。

 もちろん、広い訓練場にいるのは私たちだけではない。

 むしろ、アルベルトの元に近づけば近づくほど、遠巻きに様子をうかがっている視線がみるみる増えていった。

 彼らは一定の距離を保ちつつ、こちらの一挙一動見逃すまいと聞き耳に徹していた。

 

 それでも、一応会話している体なのだろう。

 私がそちらに目を向ければ、慌てて隣にいた奴の肩を叩き、片言に会話を始めていた。


「……そ、そういえば今日の昼食はなんだっけなぁ~。最近物忘れが酷くってよぉ、年々それがさらに増していって」


「……エッ?お前の場合いつものことだろ……イテッ!!」


 ホントのこと言っただけで別に叩かなくたっていいじゃないかぁ、と叫ぶ鈍感な男は頭を押さえながら今度は片足を踏まれていた。

 再び短い悲鳴を上げていたが、ようやく相方の「黙れ、察しろ」とういう意図が伝わったのか、彼は半泣きになりながらも、わざとらしく会話を続けた。


「……あぁー、あぁー。そうだった、そうだった。お前近頃、物忘れ激しいもんな……っていっても、アレに料理名なんてそもそもあったかぁ?……まっ、いつも通り、旨いもんが出るだろうよ」


「……それもそうだな」


 それで納得してしまう彼に「結局、質問には答えていないがそれでいいのだろうか」と思いつつ、私はあまりの大根役者ぶりに見ていられなくなり、その二人組から視線を逸らした。

 

 ……会話デッキのチョイスも酷いけど、いくらなんでもバレバレすぎる。

 分かりやすすぎるにもかかわらず、未だにその茶番を続けようとする根性を前にし、私は本気で頭を抱えたくなった。

 それでも欲に忠実で素直な私の耳は、彼らの言葉を事細かく拾い上げてくる。


「ところで明日の訓練はどうなるんだろうなぁ……。厳しくないといいけど……」


「……今週、晴れであれば森の実習訓練。悪天候の場合は馬を使っての訓練ですよ。どちらにせよ、いつも通り厳しいものになります」


 その質問に答えたのはあの二人組ではなく、別の誰かだった。

 淡々とした物言いは、どこか突き放すような冷たい雰囲気を感じさせる。

 だが、彼らがいるのは角の隅のほうであり、わざわざ通りすがるような場所でもない。

 そんな場所で、詳しく説明している様子を見るに、案外この人は面倒見がいいのかもしれない。


 説明を続けてくれる男に対し、往生際の悪い騎士の一人が反論の言葉を上げた。


「でもさぁ、明日になれば、もうちょっとだけ厳しさも半減されるかもしれないだろう?」


 そのあまりに儚く、微かな希望に、私は心の中で同情した。

 ……わかるわ。明日には何かが変わってるかも、とか。

 たとえ、地球を滅亡させる確率だったとしても。

 信じたくなるわよね、『奇跡』っていう響きのいい魔法の言葉。

 

 けれど案の定、その男から返ってきたのは、あっけなく夢と希望を打ち砕く正論の礫だった。


「――昨日と今日が変わらなかったように、今日と明日で人が変わることはないんだから。……人の根本って、そうやすやすと変われるものではありませんよ」


「うぅ~、そんな残酷なこと言わないでくれよ、ホントのことほど人の中心部には刺さるんだからさ……。はぁ、今すぐにでも逃げだしたい」


 さらに涙を滲ませた騎士の言葉に、涙禁じ得なかった。

 そんな彼を宥めるように、最初彼に圧をかけていた男がそっと肩に手を置き、眦を緩ませて言葉を続ける。


「――そう言いつつお前は、いつも通りこの訓練場まで足を運ぶんだろうな。……そんなお前が俺は好きだぜ!」


「……お゛れ゛も……っ!!」


「まっ、暑ぐるし……っ。くっつくな!!」


 濁音混じりに叫びながら、感極まった騎士が勢いよく抱きつこうとするが、それを相方は容赦なく突き飛ばし、顔をしかめて思いっきり拒絶をした。


 そして、当の本人達は今までの目的を忘れたのか、他の騎士達に声を掛けられると、うきうきとした足取りで食堂へと駆けて行った。

 唐突なコントからの男同士の熱い友情を見せつけられ、私は思わず真顔になる。

 

 ……一体、彼らは何がしたかったのだろうか。

 あんなに必死に隠そうとした茶番を忘れ、私の情緒をさんざん掻き乱しておきながら、最後の最後に「ご飯」という魅惑に釣られて、去って行ってしまった。

 


 遠ざかっていく彼らの背中を呆然と眺め、エリックやアルベルトに「マリアお嬢様?」と声を掛けられるまで、あと数秒――。





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