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12/26

生への執着

$$$



【暗殺者というものは、並大抵の精神力や胆力では続くことができない。

人を殺す覚悟。


そして、常日頃から恨まれ殺される覚悟がなければ。


怒りや復讐に身をおとしたもの、それならば一時的にのみ可能かもしれない。

だが、人ひとりで燃やした炎は次に繋がらない。


だとしたら、どうするべきか。

実験で行きついた結論は、死にたくないと生に執着し続けた人間(ばけもの)が適任なのだ】




助けを乞う声やら、泣き叫ぶような悲鳴の大合唱をいつも耳に蓋をして。


何事もなかったかのように振る舞った。


自身の中で当たり前となっていった暗殺。


心を麻痺させていたつもりが、いつの間にかその感覚さえも失っていった。



——俺が生きていくためにしてきた唯一の方法。




「………っつ」


ふいに感じた痛みによって彼の目が覚めた。

まるで沼にうかんでくる、どす汚い水泡のように意識だけが浮かび上がる。


動かそうと思えど身体中に鎖が巻き付いたかのように動かせない。

手足の感覚では拘束具などもつけられていないのにもかかわらず…。

目を何とかして開けると、すぐ目の前に牢が見えたが、やはり口も動かすこともできない。


しばらくすると、何処からか足音が響いてきた。

気配からして人数は二人、男性と少女の話し声が耳にはいってくる。


—なんでこんなところに来たんだ?そして少女の方は明らかに場違いだ。


だが…少女の、その鈴を鳴らしたような声、まだうっすらと俺の鼓膜に残っていた。


もしかして…いや、まさかな…殺しに来た相手、しかも公爵家のお嬢様がわざわざこんな場所にくるなんt…。



「たのもー!!!」



…そんな、ありえない話…。


呆然と彼女を眺め、息を呑み込んだ。


目に映るものすべて、ぼんやりとした淡い雲のようなものに姿を変えた。

先程まで耳から聞こえていたはずの音も消え、寒かったはずの体温も、今では分からない。


視覚、聴覚、彼の作られた肉体と脳は突然働くのを辞めたように使い物にならなくなった。




$$$


カツン、コツンという響きがあたりの天井に反響し、一層退屈な、そして空虚な静けさを私に感じさせた。

暗い光の中で顔の部分だけ蝋燭の灯が反射して輝き揺れているように見える。


この場所だって同じ私の家の中のはずなのに、まさに壁をすり抜けて別の空間に迷い込んでしまったかのような気分だ。

何処か冷たい気持ちでそわそわと急ぎ足になってしまう。


…それにしても、


「なんだか物寂しいわね…」


「…ここは、危ない。厳重な場所だ」


「…そうっすね。下に行けばいくほど危険な囚人が増えるので…おっと。お嬢、転ばないようにお気をつけて進んでください…」


「…ありがとう」


できる限り自身の足で歩きたいと、我がままを言ったのに優しく見守ってくれる彼らには心からの感謝の気持ちが胸の先から込み上げてきた。


階段を下りる最中、クラウスは落ちないように支えてくれる。


先陣切って歩いていくアルベルトの背中も心強い。


…どうやら緊張が根を張るみたいに私から芽吹いていて、いつの間にか“不安”という新たなものが絡みついてしまっていたようだ。

その概念を切りつけてくれたおかげで、肩に圧しかかってきていたものが少しだけ軽くなった気がした。



あと流石に、精神年齢は大人なので抱っこはチョット遠慮したかったのだ…まぁ、無理だったけど。

私の体力なんて期待できるほどない。

結局、抱っこ(休憩)してもらいながら歩いてもらった。


歩く時間の方が短いとか、何なら少し寝てしまったとかは言わないお約束よ?


「お嬢…ちょっと休憩しませんか?」


そうそう、こんな風に呼ばれて抱っこ(強制)されて私の眼を時々、手で覆い隠していたのはそういえば何でかしら?

確か、そのせいでだんだん眠くなってきて…あれ?…いつのまに…………スヤァ。




「………ッ!……ねぇ、アルベルト、クラウス。ここが最下階なのかしら?」


しばらく眠る(歩く)と彼女の目には、他の牢屋よりも一際違った牢が映りこんでいた。

牢屋の中には、魔法陣のような紋様や文字がうんざりとするほどあちこちと描かれていた。


(それに、牢屋というよりも外から見える透明な部屋の中?っていう感じだ。一瞬、水の中に入っているのかと思ったからちょっとビックリした…)


でも彼女が一番驚いたところは別にあった。

この子は他の囚人と違って手枷などの拘束具がなかった。


そして私が目を覚まして三日間、この子だってとっくの間に目を覚まして軽く動くことぐらいは回復しているはずなのに何故か動いていた痕跡が全くと言っていいほど見当たらない。




———まるで、糸の切れた人形かのようだ。





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