魔術師
「ふふふふふ、さぁ~エイリアス。魔術のお勉強の時間よ」
(!! ようやく魔術の勉強かぁ~長かった)
「お姉さまぁ~エイリアスわぁ~待ったんよぉ~?」
「ふふふふふ、そうね。待たせたわ……エイリアスぅ~」
「あっ、ちょとぉ。もうっ、くすぐったいんよぉ~」
エイリアスのお腹をいきなり好き放題に撫でるエイリアシアに、拗ねる様に少し口をすぼめながら言葉の端々をゆったりと伸ばした口調で抗議するエイリアス。
(この変態、そんな風に撫でられるとお腹の調子が……それよりも魔術を教えて……)
「むぅ~!! お姉さま!! もう、そろそろ魔術について教えてほしいんよ!! どうやったら魔術をエイリアスは使うことが出来るん?」
「ふふふふふ、また少し長くなるわよ?」
「んっ、問題ないんよ」
(今更だ。多少話が長くなったところで我慢できる。それよりも魔術に何が出来るかだ。魔法と違って魔術は誰でも使用可能な技術と言っていた以上、転生して来た私にも使えるはず……)
あちら側には物語の中にしかなかった技術……そう技術。姉は、間違いなく魔術を技術とそう表現した。つまり、確立している技術体系という事であり、超自然的な力でも無く、神の御業と言った宗教系統も無いと言う事だ。
(魔術は技術……つまり、再現可能な技術という事で……資金と時間、そして、一定の技術さえあれば誰でも行使可能という事か……国家の統制はどうなっているんだ? もし、物語に出てくるような攻撃魔術があったらどう取り締まるんだ。かつて存在した小国が集まった国の様に、旧時代の銃で人が日常的に死んでしまうような社会のなのか? ……いや、そもそも、個人単位で手榴弾の様な攻撃手段もあった場合の治安は……毎日が花火なのか? それとも、魔術は国家によって管理されている? もし、そうなら……魔術の使用は免許制という事も……)
「いい、エイリアス。魔術は三つの要素から成り立っているわ。まず、一つ目は、魔術の発動には魔力と言う動力源……エネルギーが必要という事。二つ目は、術式によって魔術は起動するという事。三つ目は、術式を描き魔力を流す事の可能な物質が必要という事。これについては、基本的に術式紙と呼ばれているわ。例え、紙でなくてもよ。この三つのどれが欠けても魔術は発動しないわ。魔力についての説明はもうしたから省くわね。だから……術式……術式紙……術式から説明するわ」
(……術式……言葉は必要無いのか? そもそも、術式がどのようなものかは、分からないが、術式を描いてなぜ魔術……物理法則に干渉出来るんだ?大抵の物語やゲームでも文字や詠唱する事で魔術や魔法を発動しているが……だが現実となると話は別だぞ。それ相応の理由が無いと色々と怖いな……)
「術式……詠唱は? 言葉は必要ないん?」
「ふふふふふ、ええ、そうよ。詠唱は必要ないわ。古い物語の中では詠唱が出て来る事があるのだけれど、今のところは、詠唱に有効な言葉も、詠唱する事による有効性も確認されていないわ。むしろ通常の魔術の行使を阻害するわ。ただでさえ、空間投影術式は詠唱が有効なのは、あくまで物語の中でのお話よ。とは言え、詠唱の書かれた物語は妄想に近い内容よ。ただ、詠唱以外の点については有効な意味のある内容の物語も多いわ。そう……例えばねぇ……ええ、そうよ。色々な概念とかよ」
(……概念……?そうであるもの?大枠?骨子?言い方は様々だが……いったい……どんな概念が……あるんだ?)
「お姉さま? どんな概念があるん?」
「そうね、色々あるのだけれど、暖かい風と冷たい風を送る事が可能な送風魔動機とかが有名ね」
「送風魔動機?」
「ええ、送風魔動機よ。もともと物語の中には、複数の浮いた羽が回転する送風機が書かれていたのだけれど、現実に作るとなると羽有よりも羽無しの方が作りやすく、動力源も効率の問題で、電気エネルギーを動力源に使用するよりも魔力エネルギーを動力源に使用した送風魔動機が作られたわ」
「魔力の方が効率が良いん?」
(……魔力は電気……よりも効率が良い!? それは、つまり……んっ? ……違う問題はそこじゃないな。問題は電気を有効に使用する方法を知っている事か……)
「ええ、そうよ。でも、もっと正確に言うと、魔力を電気に変換して使用しているわ。そして、それが可能なのは術式のおかげよ。いい、エイリアス。術式は古い文字……楔形文字と呼ばれる楔に似た文字で構成されているわ。楔形文字は現在の文字の体系の始まりとなる走りのような文字よ。楔形文字が私たちの歴史上において現れたのは、大体一万年前……でも、実際はそれ以上に遡れると考えられているわ。楔形文字は別名魔術文字とも呼ばれ、むしろ、魔術文字と呼ばれる事の方が多いわね。と言うよりも魔術文字は現在の文字とはかなり前に分岐した文字で、現在の文字の形態とは大きく異なるわ。ただ、現在の文字発祥と言われているのだけれど、魔術は魔術文字以外の文字で、同じ意味の術式を描いても起動も発動もしないわ。だから、楔形文字はあくまで文字と言われているだけで実際は魔術を発動させるための数式とも方程式とも考えられているわ」
そう言って、エイリアシアは、机の上に大きな本を置き、立派なつくりの表紙を開いた。
本の中には、エイリアスも見た事のある文字が書かれていた。正確に言えばエイリアスでは無く雪綱の見た事のある文字だ。
あちら側において、楔形文字とも楔形文字とも、そして……古典シュメール文字とも呼ばれる、人類最古の文字……文字と呼べるだけの明確な体系と規則性を持つ文字。
(……この本に書かれた文字……間違いない楔形文字だ。それも……メソポタミア以前の古典シュメール文字……本当の意味での一番古い神話の……既に発祥が判別した他の幾つもある神話と違って、西暦二千百年代でも発祥が分かっていない人類最古の神話にして、最後のロマン。……でも、どうして……まさか、確かあの神話は、神が自らをもとに人類を作り出し、その神が空へと帰る時、神は自らの創りし子らに、二つの選択肢を示したはず……そうだ。自らについて来るかと? それとも、地上に残るかと? そして、神についていった者と、地上に残った者との二つに人類は分かれ、今いる人類は、地上に残った者の末裔だと。そのあとの歴史は、確かシュメール人はメソポタミアへと吸収され、そのメソポタミアは……確かヒッタイトに吸収されたはず。あの神話の一文は、まさか……考え過ぎだな……ははははは……だが、この楔形文字は……いくらなんでも似すぎだぞ……シュメール神話がメソポタミア神話へと変化し取り込まれる前の文字に……本当の意味での最古の文字に……)
あちら側での、雪綱が所属していた七国家の教育方針は統一されており、その教育内容は、ある種の詰め込み教育だ。それもAIによって考え尽された。効率の良い詰め込み教育だ。
その中に、地球史なるものがあり、七国家とそれぞれの国の歴史を学ぶ新人類史。そして、人類全体の歴史を学ぶ人類史。それから、地球を含めた太陽系の歴史を学ぶ宇宙史の三系統からなり、その中に神話の勉強も含まれている。る。人があらゆる社会的活動に置いて必要とされなくなったがゆえに、伝統や芸術、創作活動と言った、人が行ってこそ意味のある行為に価値を見出していった。
ただ、これらは、ある種の悲しい逃避でもある。とは言え、そのおかげで人は人の作り出す創作活動の産物の多くには魂が籠る、そう言われるほどの素晴らしい出来の創作の産物が出来創られた。
ちなみにだが、神の子の誕生より始まった西暦は、転換点を迎えたことで基本的な民族宗教以外の宗教人口は減り絶滅の危機に瀕している。
技術の進歩により七国家の人々は宗教を信じることも無ければ否定する事も無く、ただ、他者に危害を加えることに腐心した宗教を信じる者がいれば異常者として見られるような社会となっている。
それ故に、西暦から星の暦と書く、星歴と呼ばれるようになっている。星歴二千百年代では、技術的には学校へと通う必要は無いにも関わらず、学校へと通うことを義務付けられているのは、教育は学校で行うべきものと考えられているから雫。ただ、これは、ある種の古典回帰である。それも、古き良きではなく自らの存在価値を必死に見出そうとする古典回帰だ……
「いい、エイリアス。魔術の術式は、ただ、楔形文字を書くだけでは魔術は起動しないわ。術式には四つの基本的な法則性があって、まず一つ目は、必ず決まった始点を描く文字と終点を描く文字が必要という事。二つ目は、起点と終点の文字は必ず数珠繋ぎになっていなければならないわ。つまり、円を形成している必要があるという事。そして、術式の描かれた円を術式円陣と言うわ。一重なら、一重円陣。二重なら、二重円陣。三重なら、三重円陣と言った具合よ。三つ目は、術式は、右方向から描くか左方向から描くかで、発生する魔術の効果が異なるという事。つまり、右から描けば……反時計回りで書けば精神的干渉を行え、時計回りで書けば、物理手的な干渉を行えるわ。四つ目は、術式の文字は一重円陣ならあまり必要は無いのだけれど、二重円陣以上の術式を描くのであれば、術式を魔力を流した線で囲む必要があるわ。そうする事で、術式に流れる魔力が外に漏れ出しにくくなり魔力の損失が減るわ。でも、一番大事な理由は、他の術式に干渉しなくなる事よ。術式と術式の間が広ければ問題は無いのだけれど……術式同士が近すぎれば互いの術式が干渉し、術式に流れる魔力が電気に変換され放電現象と言う形で発生する事になるわ。だから、術式を囲むように魔力を流した線で内円と外円を描き術式に流れる魔力同士が直接干渉しないようにする必要があるのよ。以上が魔術の基礎よ。分かったかしら、エイリアス? ……エイリアス?」
(……まるで、電気の導線みたいだな。それに、術式円陣の内円と外円。なんだか魔術は思っていたよりも複雑……ふぁ~)
「……んっ……わ……か……よぉ……」
エイリアシアの問い掛けに、あやふやな返事を返したエイリアスは半眼となってしまっており、”うっとりうっとり”と気持ち良さそうに舟を漕いでいた。




