魔素
「さぁ、エイリアス、お勉強の時間よ」
そう言われ、エイリアスは……
(魔素!! 魔法!! 魔力!! 魔術!! 魔力放出!! 魔力制御!! 魔素!! 魔素!! 魔素!!)
雪綱は、心の中で今朝方見知った言葉を言い連ねる。
言い連ねた言葉の中でも、その中でも魔力については、何となく理解できるものの、魔素との違いが分からず、その上に、何と無く魔力より魔素に興味が湧き、心の中の言葉の最後の方は魔素一色だった。
そんな雪綱の一方的な言葉の濁流にエイリアスは混乱し……混乱し……
「!? えっ、あっ、うぅぅぅ、まッ、魔素!!」
そう一言だけ紡ぎだした言葉は、エイリアスにとって一番言い易い言葉であり、一番興味の引かれた言葉だ。
「ふふふふふ、さすが私の弟ね。魔力では無く魔素に興味を持つなんて、ふふふふふ」
嬉しげに言うと、姉は私の頬を人差し指でつつき、私の目の前に紙と万年筆、そして今朝方見た本を積み重ねる。
「それじゃぁ……まずは……」
(魔っ素! 魔っ素! 魔ぁ~素! 魔ぁ~ぁ素で!! 魔~素!!)
「魔~素、魔~素、魔素~!!」
「はいはい、分かったから、手足をバタつかせるのは止めなさい。お勉強が出来ないわよ?」
現金なもので幼い雪綱は、ピタリと手足のバタつきを止めた。ただ、興奮は収まっておらず小康状態であり、跨る様に足を開き座っている、姉の膝を覆い隠しているロングスカートをギュっと掴み、興奮を抑えているのが見て取れる。
「ふふふふふ、エイリアス~いいかしら、魔素を理解するには魔力との違いについても、知らなければならないわ」
この上なく上機嫌な声と共に、姉は私に魔素と魔力について説明を始める。私のお腹を撫でたり揉んだり、あやす様に叩いたりしながら……
「いいかしら、エイリアス? 魔素とは精神を有……持つ全ての存在。私たちの様な皮膚、骨、筋肉、と言った細胞によって構成される体を持つ生物・自然有機生命体も、脳と魔力によって鉱物や水と言った無機物によって体を構成する無機生命体も含めて、精神を持つ生き物に対しての劇薬であり、必須要素とされているわ」
「劇薬?」
「そうよ。強いお薬の様なものね。ただ、強すぎるお薬は、体にとって危険よ。分かるかしら?」
「んッ……食べすぎたらよくなぃ~ゆうことなん?」
「……まあ……そう言う事ね。ただ、魔素は全ての意思を持つ存在が持っているとされ、魔素そのものが、全ての生物が意思を持てる根幹的な理由と考えられているわ。つまり、魔素が無ければ……」
「魔素が無ければ、心は……無いん?」
自らの小さな胸に両手を当て、姉を見上げる。
(……この子……やっぱり、理解力が良いわね)
「……ええ、そうよ。そして、心を、意志を、精神を、持つ存在の中にある魔素を『固有魔素』と言うの、ただ、通常の魔素は、ここ千年は目撃されていない上に、固有魔素は在るとされているだけで、現時点で確認されていないわ」
「……確認されていないのに…あるん? 理論? 推測? 計算上? んッ~んッ~~……」
(はぁ~、幼い頃から辞書ばかり読んでいるのは……問題ね)
などと、自らの幼い頃を棚に上げたエイリアシアは、まだ言葉を殆ど話せないエイリアスに、絵本を読むようせがまれ続け、絵本を読み疲れたエイリアシアが辞書を、エイリアスに与えた事が原因なのだが……その様な事は忘れている、エイリアシアはエイリアスへの説明を続ける。
「いい、エイリアス? そもそも魔素は自然界にほとんど存在していない上に、見つけること自体が困難なの。魔素の基本的な性質は、魔素と魔力を有さない純粋な物質に対する優位性、魔力に対する優位性、精神に対する極高強度精神的負荷……つまりね、心が疲れるという事なのよぉ~」
あまりにも真剣に聞いていたエイリアスの様子に、エイリアシアは少し心配になり、つい茶化してしまったのだ。
(うゎ!? 何をするんだ!!)
「ひゃぁっ!? ……むぅ~~お姉様ぁ~~魔素のお話に戻ってほしいんよ!!」
「はいはい、ふふふふふ、ごめんなさいね、エイリアス。魔素はね、基本的に耐性では無く適正が必要よ。魔素の基本的な性質は、精神的負荷。魔力を含まない純粋な物質や魔力由来の自称事象に対する優位性。ここまでは理解したわね?」
「んッ、問題ないんよぉ」
「ふふふふふ、いい子ね。でもね、精神的負荷と言うのが問題なの。魔素は魔素以外の全てに対して圧倒的な優位性を持つわ。魔力を含まない純粋性物理学や魔力を前提とする魔導学と言った類の技術では魔素の基礎的な性質であるの精神的負荷を防ぐことは難しいわ。その上、魔素は一定の以上の純度と密度に成らない限り目視は困難よ。もし直接魔素を認識した場合、魔素の影響範囲内で魔素の影響を受ける以上に、精神に対する負荷が大きいとされているわ。これは認識と言う点が大きく関わっていて、目から入ってきた情報を処理し認識するための器官、脳に強く影響を及ぼしていると考えられるわね。そして魔素に対する耐性や適性が無ければ、何処まで魔素に耐えきれるかは認識した対象の精神的強度に大きく依存するわ。それに、ここ千年魔素に関する目撃情報は無いから、この国はおろか、他の国においても研究はほとんど進んでいないわ。そもそも、この大陸上において魔素に関する研究を専門的に行う研究機関を持つ国が一体どれ程あるかしら……とは言え、ここ千年は、魔素に関する目撃情報がない以上仕方が無いのだけれど……」
そう少し残念そうに言う姉に姉に雪綱は……
(……なんだか……魔素は、放射性物質より危険な気が……研究しようにも、この性質では……)
雪綱は気が付いていないが、エイリアスの可愛らしい顔には、ニタリとした何か良くない事を考える。いたずらに富んだ表情が浮かんでいる事に……
「お姉さま!! エイリアスがお姉様の研究を、お手伝いするんよぉ~」
「まぁ、この子は~ふふふふふ、それじゃあ、いつかお願いするわね」
「んっ!!」
「さてと……ああ、そうよ、どこまで話したかしら」
「魔素の目撃情報?」
「ああ、そうね、ありがとう、エイリアス。続きを話すわ。例え、魔素を目撃したとしても、魔素に対するする耐性や適性が無ければ、目撃者の精神は魔素の影響を強く受けるわ。目撃者との距離とその間の障害物、つまり物理的な物質、壁や木と言った物から空間中の魔力と言った類ね。耐性があったとしても適正でなければ、目視出来る程の純度と密度を持つ魔素に対抗するには厳しいものがあるわ。そして適性があったとしても、目視出来る程の魔素は精神への負荷も大きく何処まで耐えきれるかは、個人の精神力と適性に依存するわ。でも多くの人は魔素に対する耐性も適正も低いから目撃者は精神に何かしらの変調をきたしていることが多いはずよ。昔の記録では、精神崩壊を引き起こした人の比率が圧倒的に多いわ。その事も目撃者が少ない理由ね。その上に、魔素は生態系にも大きな影響を与え、魔素の影響を受けた生物は一定の確率と条件で特異な生き物へと変化し、その際は魔素の性質を有した生物に変化すると記録に残っているわ。その事も目撃者が少ない理由ね。そしてここ千年魔素を目撃者した人がいない以上……、誰も研究しようとは思わないわ。研究費も下りないわ。過去の記録があっても魔素そのものが危険すぎる上に、使用者を選びすぎる技術は淘汰され、使いやすい技術が残るのは必定よね」
「お姉様? 魔素は何になるん?」
「ふふふふふ、ごめんなさい。少しお話が長くなったわ。良い? エイリアス。魔素は、魔法と言う技術に必要で、魔法は発動に魔素を必要とするわ。そして、魔素を使用する技術・魔法を使う者を……『魔法使い』そう言うわ」
(……魔法使い……きた~~~!! 魔術師ではなく魔法使いかぁ~~ まぁ、どっちも似たようなもの……んッ? 魔素が魔法に必要なら魔力は……魔素は魔力に対して優位性を持つ以上、魔素との併用は普通に考えて、魔素が魔力を阻害するんじゃ……じゃ……)
「!! 魔法使い~ 魔っ法ぉ~! 魔っ法ぉ~! 魔っ法ぉ~! 魔っ法ぉ~!! 魔っ法ぉ使ぃ~、魔っ法ぉ使ぃ~、魔っ法ぉ使ぃ~」
「はいはい、足をパタパタしないの」
「……お姉様? 魔素が魔法に必要なら、魔力は何に必要なん? 魔素は魔力の邪魔をするぅってお姉さまにエイリアスは教えてもらったんよぉ~?」
(……この子は……本当に賢い子ね、四つになったばかりの子とは思えない程に賢いわ。ふふふふふ、さすが、私の弟ね。これも私の教育の賜物かしら……ふふふふふ)
「エイリアス、魔力については、後で説明するから、今は、魔素と魔法使いについて説明するわね」
「んっ……ごめんなさいなんよぉ、お姉様のお話を中断して……」
「ふふふふふ、いいのよ、エイリアス。色々な事に興味を持つ事は良い事よ。それじゃあ、魔法使いについて話を元に戻すわね」
「んっ!! はいなんよぉ~」
(……ん~この話し方は……私があちら側で、幼い頃に話していた色々と混ざった中途半端な京言葉に、本当にそっくりだな……明らかに、この国の言葉とは発音も異なるというのに、言葉の強弱や伸ばし方が似ている、あいも変わらずと言っていたから、言葉を話し始めた時からこの言葉使いという事か……たぶん矯正しようとしたんだろうな……冥土狂人卍め、自分の趣味を押し付けるな、異世界に来てまで影響……転生しても残っているなんて……子供の頃だから、これはある種の洗脳だぞ……)
「魔法使いわね、エイリアス」
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