表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランドールの魔女  作者: 若桜モドキ
四章 -手乗り師匠と不思議なお弟子さん-
33/39

一話 迷子の師匠、知りませんか?

 ランドールの中心部から少し外れたところに、広い公園がある。ここは常に花に彩られた美しい場所で、人々の憩いの場であると同時にカップルの定番デートコースだった。

 もちろん一人で歩くのにも適していて、リオもよくこの場所を歩く。

 彼は、いずれ領主となることを定められた存在だ。

 遊びまわっているけれど、そのことを忘れたわけではない。そのことを忘れないため、彼はこの美しい庭園をよく見回っている。ここを、自分が守らなければいけないのだと。

 一度、この町は炎に沈んだ。

 跡形もなく、すべてが消えてしまった。

 そこから長い年月を重ね、ようやくこんな庭園を造れるまでになり。それを維持管理し、常に美しく保ち続けることが叶うようになり。これを、平和と呼ぶのだろうとリオは思う。


 守らなければならない。

 ここを、自分が。


 かつて先祖が、すさんだ人々の心を癒すべく作り出したもの。

 書物によるとその先祖――彼女は、弟を支えたすばらしい姉だったそうだ。魔法嫌いが加速する街を憂いていたという話だが、なぜそうだったのかは記録には何も残されていない。

 何を思って、彼女は魔法を拒絶することに反対したのか。

 かつての街の中心地だったという、この場所をあえてこんな庭園にしたのか。

 伝わらない物語を、今を生きるリオが知ることはできない。

 だから、わかる範囲でやっていくしかない。

 この場所を守ること。そして――魔法を拒絶しないこと。

「それでも、魔女はまだ受け入れられない、けどな」

 思うのは黒い髪の、魔女の姿。彼女の努力でだいぶ認められてきているが、街の老人などは露骨に彼女を嫌っているものも少なくはない。早く追い出せ、という嘆願は毎日届く。

 けれど、それは無理なことだ。

 メルフェニカ王国は、現在主要な街に魔法師か魔女を赴任させている。もちろん、ランドールだってその例からはもれない。ただ、住民の意思をたてに、断固拒否していただけのこと。

 しかし、その代役のような形で彼女――アルテミシアはここで暮らし始めた。

 姉弟子が宮廷魔女で、書類上は彼女の推薦で宮廷魔女見習い、という感じだという。修行をかねてこの地に赴任していて、何人も彼女に害を与えることは許されていない。

 赴任してくるものは、言うならば『客人』なのだから。


 ――だから、そういう書類内容にしたんだろうな、その魔女は。


 見たことのないミレアナなる魔女に、リオはかすかな恐怖すら覚える。アルテミシアの話を聞く限りは、おっとりとしたお姉さんという感じのようだ。だが中身はかなり違うはずだ。

 そのうち会うことになるのだろうか。

 考えるだけで、気分が滅入った。

 思わずリオは深く、そして長くため息をつく。

「あの……」

 そこに、一人の少年が近寄ってきた。見たところ、旅人か旅行客らしい。荷物を持っていないところからして、おそらくすでに宿にそれらを置いて、ここを紹介されてきたのだろう。

 他に観光できるところはあったか、とリオが思案する中。

「うちのお師匠、知りませんか?」

 これくらいなんですが、と黒髪の彼が示した、お師匠の大きさ。



 それはあまりにも、びっくりするほど小さいものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ