表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランドールの魔女  作者: 若桜モドキ
二章 -困った人を助け隊-
22/39

十二話 これからの話

「――ってことがあったの」

「へぇ」


 お昼過ぎの踊る羊亭。

 一通り客がいなくなって、ヒマになったジュジュはミシャの席にいた。

「あー、そっか。あれティエリスか……」

「気づかなかったの?」

「年齢が離れてるから、あんまり頻繁には会わないのよね。リオみたいに、町の中歩き回る子でもないし。ネール兄さんならすぐに気づいたと思うけどね。たぶん」

 付き合い長いし、というジュジュの言葉に、ミシャは確かにと思った。

 並べてみると、あの兄弟は実に似ている。

 目つきや年齢の差もあってそっくりというわけではないけど、こう、雰囲気のようなものが同じ感じがしたのだ。ミシャでさえそう思ったのだから、ネールなど一瞬で気づくだろう。


「で、どーすんの?」

「え?」


 かららん、と冷たいコーヒーに浮かぶ氷を揺らし、ジュジュはにやりと笑う。その笑みに何ともいえない意味深さを感じ、ミシャはゆっくりと視線をそらせた。

 ああいう風に笑う時、笑った相手はロクなことを考えていないことが多い。

「決まってるじゃないの。リオ兄さんのコトよ」

「う……」

 やはり、そこに食いつかれた。

 ジュジュの瞳はきらきらと輝いている。完全に面白がっている目だ。あわよくば、より面白くなるように、引っ掻き回したがっているような。……何にせよ、恐ろしい目をしている。

「それともネール兄さんの方がお好み?」

「な、なんでそうなるのかな……」

「じゃあリオ兄さん?」

「だっ……だから!」

 違うの、と必死にミシャは訴えるも、ジュジュはまるで取り合ってはくれなかった。

 ティエリスといいジュジュといい、強引な人は怖い。



   ○   ○   ○



 夕暮れの中を、ミシャは歩く。

 踊り羊亭に寄せられる依頼の多くは荒っぽいものだったが、幾つかミシャでも何とか出来そうなものが見つかった。薬の調達や、ランプなどに使う触媒の作成などだ。

 どうやら、これらはミシャがここに住み始めてから、集まってきたものらしい。


 ――あのランドールに、いないはずの魔女がいる。


 そんな噂が、静かに浸透しているそうだ。

 今はまだ数が少ないが、そのうちすごいことになるかもしれない――とは、踊り羊亭の店主のコメント。覚悟を決めた方がいい、というニュアンスの言葉は、ミシャに重く圧し掛かる。

 今のところ、町にいる魔法使いはミシャだけだ。

 つまり、魔法式を使う薬品や道具を作れるのもミシャだけ。

 責任重大である。

「……ゆっくりやればいいって、言うけど」

 あんまり、ゆっくりもしていられないような気もする。噂というものは、ものすごく早く広まっていくのだと、師も言っていた。この世界である意味、最強に恐ろしいものなのだと。

 とりあえず、頭の中でもう一度、今すぐ作れる『商品』を考える。

 各種薬、ランプに使う火種。

 今の工房だと、需要があるもので作れそうなのはその辺りだろうか。もっとも、火種は黒の魔素を勝ってこないといけないから、正確には『今すぐ』というわけではないのだが。

 まぁ、くよくよしても仕方がないし意味もない。

 出来ることを、出来る範囲でやって。

 そして、前に進むしかない。


「あれ?」

 家が遠くに見えたところで、ミシャはまたそれに気づいた。

 ――家の前に誰かが立っている。ここ数日、何度となく経験した光景だった。

 けれど、今度は女の子。

 ティエリスよりさらに幼そうな、青みのある濃い灰色の髪。ネールよりも色が濃い灰色の瞳がミシャを捉え、その可愛らしい顔にふわりとした笑みが浮かんだ。


「……アルテミシア、さん」


 振り返った少女は、にっこりと笑って頭を下げる。

 その姿が、師が弟子に求めた、水上都市の少女が被る。けれどその姿は、ミシャの記憶に残っている彼女とは違っていた。見た目の形もそうだけれど、何よりも表情が違う。

 だけど、そこにいるのは間違いなく。

「ハーヴェル……?」

 それは、ミシャの妹弟子となった少女。

 長かった髪を短く切り、さらに明るい笑みを浮かべている。



 ――ハーヴェル・シルスが、そこにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ