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ランドールの魔女  作者: 若桜モドキ
二章 -困った人を助け隊-
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二話 友達

 ランドールにはいろんな系統の料理がある。

 それだけ、いろんな味覚の人が集まる場所ということなのだろう。


「おいしいです……!」


 ミシャは今まで食べたことがない料理に、感動していた。

 香辛料やにんにくが利いた、少しピリっとしたトマト風の煮込み料理。ウエイトレス曰く数日じっくり煮込んだ鶏肉は、噛む必要がないほどにトロトロだ。

 ミシャの故郷では一般的で、メルフェニカではあまり食べられない白米も、この店にはしっかりと用意されている。食べたことがない料理は、しかしその白米と実に相性がよかった。

 数種類のチーズをつまみに葡萄酒を飲むリオの前で、ミシャは乙女の恥じらいなど投げ捨ててひたすら料理を胃袋へと押し込んでいく。すでに一度白米をお変わり済みだ。

「お前……意外と、食べるんだな」

「んく、魔法って結構体力使うんですよね……」

 結構大食いの人多いんですよ、とミシャは水を飲み干す。ここ数日、質素な食生活だった反動なのか、まるでカラカラに乾いた大地が水を吸い込むように胃袋は食べ物を受け入れた。

 それをウエイトレスは、誇らしげに眺めている。

「いやー、そんなに食べてもらうとマジうれしいわぁ」

「お前が作ってるわけじゃないだろ」

「でもご飯を仕入れろってマスターに言ったの、あたしだもの」

 と、ウエイトレス――ジュジュは、腕を組んでフフンと笑った。

 ミシャより一つ年上の十七歳のジュジュは、数年前からこの店で働くベテランだ。このランドールで生まれ育ったが、魔法に対する偏見などはほとんどないらしい。

 むしろ軽く憧れすらあるらしく、旅人から話をせがんだりしていたという。


「魔女ってこんなに可愛いのねー、うふふふふふ」

 ……若干、不気味な笑みを向けられているのは、きっと気のせいだ。


「でもミシャ、あなた人間でよかったわよねー」

「そうですか?」

「だって、妖精種とかエルフ種だったら……もっとひどいことになってたかも。あの辺りは魔法が使えて当たり前って血統だしね。だからほら、店の中にいないでしょ?」

 みんな嫌がるのよ、と困った様子でつぶやくジュジュ。確かにそれなりに人がいる店内なのだが、妖精種らしき小さな姿も、エルフ種らしき垂れ気味の長い耳を持つ人もいない。

 一応、妖精種はヒトの姿にもなれるそうだが、彼らは生まれつき薄い青や緑といったパステルカラーの髪や瞳なので、黒や茶系ばかりの中にいれば一発でそうだとわかる。

「旅人は分け隔てなくお持て成ししたいんですけどねー」

 金属製のトレイをくるくる回しつつ、ジュジュはため息をこぼす。

 彼女なりに町の現状を案じているようだ。


「……おい、こいつに同情なんてすんなよ」


 しかしリオははき捨てるように。

「エルフ種は長寿だからなのか、やけに羽振りのいいのが多いんだよ。つまり、カモだ」

「カモとは失敬な! 鶏ガラもしくは七面鳥だよ!」

「似たようなもんだろ……」

「えー」

 ミシャの前で二人は、ずいぶん楽しそうにやり取りしている。

 聞けば二人――そしてネールは、教会で一緒に遊んだ幼馴染とのこと。

「ネールの妹がこいつの友達なんだよ。その絡みってだけだ」

「へぇ……妹さん、いたんですか」

「今はどっか遠くで一人暮らししてるんだっけか。よかったなお前、あいつがいなくて」

「はい?」

「いたらよくて町から追放、最悪火あぶりっていうか首をスパーンだな」

 と、リオは手で首をはねる動作をしつつ笑う。

 いまだあの時の恐怖が抜けないミシャは、少し涙目になってしまった。あのネールの妹がいるだけで、というのが一番きたかもしれない。火あぶりどころか首を……とは。

「もー、リオ兄さんってば、女の子泣かせるなんて最悪」

 よしよし、とジュジュがミシャの頭をなでた。

「ネール兄さんの妹はカレン・エリオットって名前で……その、この町でも類を見ないぐらいの魔法嫌いなんだよねぇ。ネール兄さんは、魔法に対して友好的っていうか好意的だけど」

 だからなのよー、と苦笑する。

 魔法に憧れているジュジュに、魔法嫌いの友人がいるとは想像しがたい。

「あー、うん。魔法に興味あるとか言ってないしね……」

 面倒なことになるもん、とため息。

 ネールの妹とやらは、いろいろと過激な少女らしい。だから彼女がこのランドールを離れる時に、周囲はとても心配したそうだ。彼女を、ではなくその周りの誰かを。


 メルフェニカ国内において、魔法とは生活の一部。

 その中で、ランドールはかなり特殊な土地だ。


 魔法嫌いの彼女が、あふれる魔法に過剰反応しやしないか……と。それで本人が痛い目を見るのは自業自得なのだが、その暴走に巻き込まれる人がいるのは好ましくはない。

 幸いにも、これまでその類の話はないそうだが。

「それまでに町が少しでも、魔法を受け入れてくれればね。今のままじゃ、カレンが戻ってきたら即『前の騒動』がぶり返しちゃう。カレンお子様だから、今回と同じ手は通じないかも」

 はぁ、と何度目かのため息をこぼすジュジュ。

 明るい性格の彼女だが、いろいろと気苦労が多いようだ。ため息ばっかだと幸せが逃げてしわが増えるぞ、というリオの冗談にトレイによる一撃を返していたので、元気なのだろうが。



 その後、リオとジュジュの言い合いが始まったり、挙句ミシャまで巻き込まれたり、筋骨隆々のマスターに三人セットで怒られたりと、散々な目にあったのだが。


「依頼も入ったし……まぁいっか」


 逃げるように駆け込んだ教会で渡された依頼書。

 魔法を使うようなものではないが、初めてのお仕事だ。

 何よりも、ジュジュという同年代の同性の友人ができたのが一番うれしい。もちろんリオやネールの協力もありがたいし、別に彼らに不満があるわけではないのだけれども。


 やはり、同性としか話せない事柄もあるわけで。

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