第10話 連ねて踏み込み
「魔物の中には知能が高く人型を模した種がいます。これらを『邪人』と呼び、歴史上には『灰の王』や『盗緑』といった一国を脅かす個体も存在しました──」
ササ・グラービ先生の講義を俺は漏らさぬよう筆記する。
隣では昨夜も遅くまで筋トレに励んでいたグルーが座ったまま爆睡していた。
以前は激怒していたササ先生も最近では注意すらしなくなった。
諦められたのか、あるいは実力さえあればいいのか。
「──では座学はここまで。来週からは近郊の『低級ダンジョン』にて実戦訓練を開始します。各自支給された武具の点検を怠らないように。では解散」
ついにダンジョンか。
未知への期待に心が踊る。
「おっしゃ。やっとダンジョンか!」
合図と共に飛び起きたグルーが拳を鳴らす。
「おはよ。先生の話はちゃんと聞いてた?」
「おう、武器も防具も壊れてねえから大丈夫だ」
グルーは物忘れが激しいからなあ。
後でもう一度俺が確認してやったほうが良さそうだな。
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学園・訓練所
放課後、俺とグルーは訓練所で汗を流していた。
「よっ!」
踏み込んだ足から腰、肩へと力を伝えて指先で石を弾く。
ヒュッ、という風切り音と共に十メートル先のカカシの頭部に石が刺さった。
「まじで外さねえな。何かコツとかあるのか?」
「踏み出した足にちゃんと体重移動することかな。後はしっかり下半身を安定させること」
「なるほどな......」
感心するグルーの後ろから控えめな声が聞こえる。
「あ......ば、バル君グルー君。こんにちは」
ラロだ。
紺色の修道服を纏い、例の物々しい杖を抱えている。
「やあラロ。今から訓練? よかったら一緒にしようよ」
「よおラロ。お前も石投げてみろ」
こうして三人で訓練することにした。
「えぃっ!......あ......」
「届いてねえぞ力出せよ」
「もっと思いっきり投げて大丈夫だよ」
「う、うん」
ラロに投石を教えながらダンジョンのことを話す。
「来週のダンジョン、クラス二も合同でしょ? また三人でチーム組まないか?」
「えっ......わ、私でいいの? 足を引っ張るのに......」
「何言ってるんだ。ラロの浄化と回復があるだけで俺達の消耗は半分以下だよ。なあグルー」
「戦利品を血まみれで持ち歩きたくねえしな。剣も血で錆びねえし、お前がいなきゃ始まらねえよ」
ラロは驚いたように目を見開き、嬉しそうに何度も頷いた。
「は、はい! よろしくお願いしますっ!」
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自室でチーム申請の書類を書きながら俺はカリーにダンジョンの話をした。
「来週はダンジョンへ行くことになったから。カリーは留守番しててくれ」
「ダンジョンかい。私も連れていっておくれ」
「危ないよ。攻撃が掠めただけでカリーは潰れちゃうんだぞ」
「バル坊の胸当ての内側に隠れるから大丈夫さ。外の空気も吸いたいしねえ」
結局、食い下がるカリーに押し切られてしまった。
しばらくしてドアが開いた。
妹に会いに孤児院へ行っていたグルーが戻ってきたのだ。
カリーの件を話すと、グルーは事も無げに言う。
「いいんじゃねえの? 低級ダンジョンの一階層なんてピクニックみてえなもんだろ?」
「バル坊は心配しすぎなんだよ」
「......わかったよ。その代わり危なくなったらすぐにダンジョンを出るからな」
「了解だよ」
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数日後。
ダンジョン入口の広場には緊張した面持ちの生徒達が並んでいた。
周囲の冒険者達が新兵を見るような目で見守っている。
「これよりチームごとに突入を開始します! ダンジョン内では『迷宮の規則』に従うように!」
ダンジョンにはいくつかのルールやマナーがあった。
識別証の常時着用。
受付で渡されるネックレスを未着用者は、犯罪者または魔物と見なされ攻撃されても文句は言えない。
獲物の横取り厳禁
交戦中への介入は禁止。
加勢は要請があった場合のみしてもいい。
先行優先と交渉
同じ道は先行する者が優先権を持つ。
追い越しにはリーダー同士の合意が必要だ。
ダンジョンの保護
故意のダンジョン損壊、毒物の散布は禁止されている。
収穫物の義務納付
ダンジョンで獲得した物品金銭は、一割を冒険者ギルドと国に納めなければならない。
俺たち学生は学園へも四割納めなければならない。
鑑定・換金はギルド直営店で行うこと。
低級ダンジョンで気にしなければならないのはこの辺りだろう。
「今回は一階のみを探索するように! 無理はせず、困ったら周囲に助けを求めるように!」
先生の合図で生徒たちが次々と暗い地下への階段へ消えていく。
俺は腰の剣を握りしめ、深く息を吐いて体を落ち着かせる。
「行こう。グルー、ラロ」
「おう!」
「は、はいっ!」
初めてのダンジョンに気持ちが高ぶっていた。




