第一話 軍警
丑三つ時。
冷たいベットで眠っていると、にわかに玄関が騒がしくなる。
ドンドン、ドンドン。扉が叩かれている。
「な、なに……?」
起き上がり、寝巻きのまま、玄関に向かった。
誰が、こんな深夜に。嫌な予感がする。
躊躇いがちに扉を開けると、黒い軍服を着た男の人がいた。
「軍警だ」
その一言に、私の全身は凍りつく。
「ここに平和活動家がいると聞いた。本当のことであれば、立派な国家反逆罪だ。平和活動家は、お前か?」
軍警の冷たい声に、私の脈拍は速くなる。
答えに詰まる。
「なんだ? お前なのか、どうなのかと聞いているんだ」
涙が滲み……ここで私は人生を終えるのか……と無意識に思いつつ、ふと、私は神のことを思い出した。
「お主の能力は、相手に心底の後悔を植え付けること。名付けて、『神よ、なぜ私を生み給うた』」
能力を使えば、何か変わるかもしれない。
私は震えながら、小さく口を開く。
「か……」
「か?」
「“神よ、なぜ私を生み給うた”」
時が止まったように感じた。
軍警の脳内には瞬発的に情報が溢れかえり、彼はそれを認識するのに、一瞬の時間を要した。
頭を強く抱え込んだ。
「うっ、あああぁぁあ!?!」
絶叫が響く。絶望と、混乱、吹きすさぶ後悔。
今まで己のしてきたこと。心無い暴力、暴言、刑罰の数々。
誰かの酷い泣き顔が、目を閉じるほど鮮明に瞼の裏に焼き付く。
誰かの助けを乞う声が、頭の中で反響する。
涙が零れるのに、拭えない。
私は、強い困惑に頭を揺さぶられる。
「俺は……なんてことを……」
私は軍警を、観察し続ける。
彼は勢いよく頭を下げた。地につかんほど、深く。
「すまなかった。どうか、俺のことを赦してほしい」
本当に、能力が使えてしまった……。
僅かな高揚。そして、確かな罪悪感。
「……いいんです。代償に……」
軍警はチラリと私を見る。
この力を使えば、世界を変えられるかもしれない。
私が、救世主になるのだ。血の流れない、平和な世界を作るのだ。
それが、神に与えられた使命なんだ。
「私の、仲間になってほしい」
私は覚悟を決めた。
「仰せのままに。貴方の名前は?」
「芽詩 アリア……」
「アリア様。貴方は俺の神だ。俺の間違った価値観を正してくれた」
「うん……。貴方の、名前は?」
「ジュリオスだ」
「ジュリオス……」
私は、手を差し出した。
ジュリオスは両手で、力強くそれを握る。
「よろしくね」
「あぁ、よろしく頼む」
ホッと息をついたが、胸が罪悪感に締め上げられ、息が苦しかった。
私は、彼を変えてしまった。
そして私の世界も、この瞬間から変わってしまった。
握った手が、いつまでも離れなかった。




