第十六話 希望
部屋に、エイブラムが入ってきた。
エイブラムは苦い顔をして、私の花嫁衣装を見る。
「……その」
言葉を選びながら、結局良い言葉が見つからなかったのだろう。
「……大変だったな。……悪い、良い言葉が浮かばん」
「……うん」
エイブラムは、必要以上に、私に近づかなかった。
その距離感が、有り難かった。
「あのな。……少しいいか?」
「……なに?」
エイブラムは、断ってから、私の耳元に囁く。
「カイウスだが……生きているぞ」
「っえ!!」
「さ、騒ぐな。今は、牢屋に閉じ込められている。……ガルドン殿と考えたんだがな。お前には、二つの道がある」
「……なに」
エイブラムは、二つ指を立てる。
「一つは、このままレーザとジュリオスの傀儡として生きること。これはないな」
「うん」
「もう一つは、カイウスに会いに行き、王位を譲ること。お前はその妻として、カイウスと結婚すればよい。そうすれば、お前はカイウスに囲ってもらえるし、アイツも牢屋から出られるだろう」
「……っ!!」
その考えはなかった。考える力など、もう失っていたが。
「……そうするよ!」
「よし。じゃあ、カイウスに会いに行くぞ。そこにガルドン殿が待っておる」
私達は部屋を後にした。
牢屋へと向かう。
「……居るな、これは」
ガルドンが囁く。レーザ達だろう。
「……無力化出来る?」
「鍵はある。これを貴方に託そう。俺達がレーザ達を抑えている間に、カイウスを連れ出せ」
「……分かった」
鍵を持つ手が震える。一世一代。これが失敗すれば、私達の人生は終わりだ。
「……行くぞ!」
ガルドンとエイブラムは剣を持って、牢屋の前に躍り出た。
「……待ってたぜ、オマエ達のことをよォ」
「……やはり来ましたね」
レーザとジュリオスは、そこに居た。
そしてその奥には。
「カイウス!!!」
「アリア様……! よくぞご無事で……!」
「カイウスこそ……!」
思わず駆け寄りたくなるが、前にレーザ達がいる。危険だ。
「さァ、ちょっくら戦うか」
「……若造に、アリアの未来は渡さんぞ!」
「白狼隊の力、思い知れぃ!!!」
キーン!!
瞬間、金属のぶつかる音が鳴った。
私は急いで、カイウスの元へ行く。
「させねぇぞ!!」
レーザがこちらに来るが、ガルドンがすかさず遮る。
「お前こそな!!」
激しい金属音を聞きながら、牢屋に近寄る。
「いけませんよ、アリア様。僕達と、部屋に戻りましょう?」
ジュリオスが遮るが。
「ジュリオス! どけ!!」
エイブラムが、ジュリオスを拘束した。
「くっ……」
その隙に、今度こそ牢屋の鍵を開ける。
「カイウス!!」
「アリア様!! お待ちください、こやつらを拘束します」
カイウスはそういうと、エイブラムとガルドンと協力して、あっという間に二人を拘束してしまった。
「っ……クッソーー!!! カイウス!!! 覚えてろよ!」
「……僕の管理された愛は、アリア様に届きませんでしたね」
レーザは眉間に皺を寄せて、全力でカイウスを睨んだ。
ジュリオスは、残念そうに、寂しそうにそう呟いた。
「アリア様、行きましょう」
カイウスはそう言って、私を姫抱きした。
その温度が、懐かしくて。私は泣きながら笑った。
地下の牢獄から、王座の間へと駆け上がる。
「はは、きゃはは!!」
この時ほど、人生で無邪気に笑ったことはなかっただろう。
「アリア様!!」
「ご無事でしたか!!」
兵士達が、続々と集まる。
「急ぎ、王位をカイウスに譲る。私はカイウスと結婚する。いい?」
「はい!? は、はい!!」
その漢気のようなものに、カイウスは思わず心臓を打たれた。
レーザとジュリオスは一旦牢屋にて拘束し、その間に手続きを済ませる。
「私は、一人で国を背負うことに疲れました。これからはカイウスに『剣』として国を守ってもらい、私は彼の傍で、皆を愛する『心』でありたいのです」
国民達にそう告げ。
「私は今日から、王カイウスの妻、聖妃として、この国に在ります」
「うぉー!!!」
「聖妃様ー!!!」
久しぶりに見た国民達の笑顔。私は柔らかく微笑んだ。
振り向く。
「そして……ジュリオス。カイウスが王になっても、国の『法』を作るのはあなたしかいない。……レーザ。私が安心して暮らせるよう、この国の『土壌』を豊かにしてほしい。貴方達も、私の大切な家族として、新しい国を支えてくれる?」
拘束された二人に向けて、微笑む。
「……主は、甘ぇよ」
「えぇ、本当に。ですが、そんな優しい貴方を、僕達は愛しています。……仕方ありません、従いますよ、僕は」
「……レーザは?」
暫し、黙り込み。
「……あんな事して、ごめん」
小さく、謝った。
「……うん」
「……カイウスに、仕えてやるよ。おい、カイウス!! テメェ、主に変なことしたら許さねぇからな!!!」
「ふ、分かっている。お前達に言われるほどではない」
「カーッ!! スカシ野郎!! 良いとこ持ってきやがって!! テメェ、一生仕えてやる!!」
「ふっ、ふふ、あはははは!」
私は思わず笑ってしまった。
驚いたように、皆がこちらを見る。……私が無邪気に笑ったのを見ていた、カイウス以外は。
「改めて、今日からよろしくね、皆」
バルコニーから、陽の光が降り注いで、私を照らす。
「……」
あまりの神聖さに、思わず皆、息を飲んだ。
空は、すっかり晴れていた。




