冒険者ギルドの受付(5)
尊敬に値する師匠の口から殺されかけたと聞いては、犯人であるベータと呼ばれている騎士に対して無意識に殺気が出てしまったリージョだが、師匠の一言で我に返る。
Aランカーの殺気によって怯えてしまった二人の受付、リトアとエルトネに謝罪したリージョは、再び口を開く。
「申し訳ありませんでした、お二人共。それで今後ですが、皆さんのように赤を背負わされてしまった人々だけの街を作っています。そこであれば快適な環境と安全をお約束しますが、如何でしょうか?」
高ランカーの言葉ではあるが、初めて会話をするリージョのこの言葉だけでは頷く事もなかったのだが、リサの人柄は良く理解している受付二人。
そのリサの師匠であるクロイツがこの場にいる以上、受付二人はリージョの言葉に嘘偽りはないのだろうと思い、首肯する。
リージョは言葉では快適と言ってはいるが、言葉通りではなく多少環境が悪くても今より悪い事はないだろうと言う投げやりな部分もあったのだが……
「それは良かった。君達の事は色々依頼主から聞いている。俺がこの国を出た後に職員になったようだから知らないかもしれないが、俺は元この国の王族だった。その時の騎士が君達の主になっている。ある意味、元ではあるが配下を抑えられなかった俺にも責任はある。申し訳ない」
こう話したクロイツと共にリージョも深く頭を下げる姿に、流していた涙は引っ込みアワアワする二人。
「だ、大丈夫です。クロイツ様が王族であった事は最近ですが知っていました」
「そ、そうです。リサ様が来られて丸一日嬉しそうに話をされて……フフ、あれは少々きつかったですね」
興味本位でリサに対して師匠であるクロイツの話を持ち掛けて、丸一日犠牲になったエルトネはとの時の事を思い出して笑ってしまった。
赤の紋章を背負ってから初めて笑う事が出来たエルトネだが、言われたクロイツとリージョは恥ずかしいやら申し訳ないやらの気持ちで一杯になっていた。
「そ、そうか。弟子の事も含めて申し訳ない」
「兄弟子が本当に申し訳ありませんでした!」
ここでも再び頭を下げる二人だが、リトアとエルトネはリサがあまりにもクロイツを褒め称えていた事、リサ自身の優しい人柄も思い出して、徐々に落ち着きを取り戻す事ができた。
その後……クロイツが十分な食料を二人に提供し、ギルドにターゲットが来るまで待たせてもらう事にした。
「そう言えば、二人は家には帰らねーの?」
「私達、ギルドの上に住んでいますので……帰る家はここだったのです」
世間話の中で師匠が地雷の上で足踏みを始めたので、弟子であるリージョがフォローする。
「そ、そうですか。ですが、この件が終わった後に向かう場所はとても過ごしやすく、実り豊かな土地で、周囲の人々も良い人しかいませんよ。綺麗な川もありますし……楽しみにしていてください」
「「ありがとうございます!!」」
弟子にフォローしてもらい安堵するクロイツだが、やはり美男子でさらに口がうまいとなれば敵だな……などと、再び本当にどうでも良い事を考えていた。
数日ギルドに張り付いていた二人……確かに毎日騎士は来るが、クロイツは誰も見た事がない者ばかりだったのだが、ようやく獲物が現れる。
「依頼状況はどうだ?」
「……未だに受注できておりません」
「はっ、お前らが無能だからだろうが!いつポイズナックが襲ってくるかもわからないこの状況……わかっていると思うが、もし依頼が受注されない状況でそのような事態になれば、お前達二人は生贄になってもらうぞ!」
受付二人に向かって尊大に話すベータの話を聞きながら、気配遮断を使っているリージョはギルド入り口を塞ぐように移動し、クロイツは受付とベータのいる間の位置に移動して姿を現す。
「おい、ベータ!」
「な、なに?どこから来た!っと、クロイツ!!何をしに来た!」
恐怖から声が若干震えているが、クロイツから視線を外さないまま尊大な態度は変えずにジリジリとギルド出口に移動しているベータ。
「逃がすわけがないでしょう?あきらめた方が良いと思いますけどね」
背後からの声に無防備に振り返るのは、やはり経験がない練度の低い者がする事なのだが……
「き、貴様は……“無音のリージョ”か?まさか、依頼を受けに来たのか?」
リージョのセリフを無視して、僅かな期待にかけるベータだが、その希望は打ち砕かれる。
「ハハハハハ、お前は昔からなんでも都合の良い方に考えるし無鉄砲。どう見てもそんなわけがないだろう?そのスカスカの頭でもわかりそうなモンだがな。俺達はこんな国がどうなろうが知った事じゃねーよ。民は逃亡済みで、今残っているのは偉そうにしていた連中だけだろう?」
「では何をしに来た!興味がないと言いながら玉座でも狙いに来たのか?力がないせいで国から逃亡した腑抜けのくせに……どうやってその力を得たかは知らないが、突然力を得て態度を変えるような小物風情が!」




