リサの冒険(クロイツの故郷ナスカ王国へ2)
ギルドでは、騎士達からの依頼についての話が続いている。
「じゃあどうすんだ?Bランクの魔獣だけ始末するか?」
「いや、それじゃあ依頼未達成としてギルドも処罰対象になるだろうな」
「チッ、テメーラが手も足も出ねー獲物をこっちに振って、仕留められなきゃ処罰かよ!」
どうもギルドと国家の力関係が他の国家と違うようで、他国では同等で互いに尊重しているようだったのだが、このナスカ王国では明らかに国家が格上らしい。
「じゃあ犬死かよ!国王は何をしているんだ!」
「実際に国王はもう引退で、名目上は第二王子が政権を握っているんだろ?」
「その通りだな。あんな連中じゃ先はねーよ」
「は~、故郷だから頑張ってきたが、そろそろ拠点を変える事も真剣に考えないとならないか……」
だんだんと雲行きが怪しくなってきてはいるが、自分達が命を懸けて尻拭いさせられているとなれば、こうなるのも当然だ。
「いつの間にか第一王子のクロイツ様もいなくなっちまったからな」
「あぁ。当時は散々出来損ないと噂を聞いていたが、逆に出来損ないの第二王子が妬んで追放したか、暗殺したか……が真相じゃねーの?」
「違いないな。現状がそれを明確に証明している」
黙って聞いていたリサだが、聞き逃せない名前が出てきてしまった……そう、第一王子のクロイツと言う名前だ。
リサの中では既にここナスカ王国がクロイツの故郷だと確信しているが、更なる確信を得られる要素として、クロイツは相当な力を持っており、何らかの事情でこの国を離れている……今の噂話を聞けば全て納得できてしまうのだ。
元王族であり、家族から敵視された為に出奔した……そう考えると、あの多少乱暴な言葉使いも何故か高貴な感じに早変わりしてしまう、都合の良い脳を持っているリサ。
「これは、やはり師匠と私は深く繋がっているのですね。労せずして真実に辿り着いてしまうとは……」
そう言いながら、左手の薬指にはめられている赤い宝石の指輪を無意識に撫でる。
「おい、お前!良い指輪しているじゃねーかよ!」
とても良い気分になっている所に、ギルドではありがちなイベントが発生して眉をしかめるリサ。
「またロゼッタかよ。あいつ、依頼は受けねーくせに無駄に強いし、新顔に難癖付けては追剥みてーな事をしやがる。早く消えろ!」
本来は聞こえない程度の声量で話している周囲の冒険者の声を拾い、声をかけてきている冒険者の素行は把握した。
“白套のリサ”が有名になって暫くすると、その姿でいれば安全でいられると理解した冒険者や商人、町人の間でも白い外套がはやり、今ではこのギルドの中でも同じ姿をしている者が多数いる。
目立つ事が無くなった弊害で本人であると認識されないために、一時期減っていた無駄に絡まれると言う事が多くなってきているリサ。
うんざりした表情をしているのだが、フードを被っているのでロゼッタと呼ばれている冒険者を始め、この場にいる者達からはその表情は読み取れない。
このロゼッタ、聞こえてきた声からも相当強者なのか、他の冒険者達は絡まれているリサを助ける素振りは一切見せずに哀れみの目で見ているだけだった。
この事にもかなりがっかりしながら、嫌々ながらも一応対応する事にした。
「は~、せっかく良い気分だったのに、最悪ですね。で?何でしたっけ?良い指輪?当たり前ですね。大切な師匠から頂いた指輪ですから。それが何か?」
対応するとは言っても、どう見ても良い相手ではないので棘がある対応にはなってしまう。
「あん?お前の弱さを隠すために“白套のリサ”の真似をしているんだろうが、俺の目は誤魔化せねーよ。そもそも、冒険者たる者タダの指輪をしている事自体で低ランクですと言っているようなモンだ」
師匠から貰った大切な指輪を悪く言われ、一気に機嫌が最悪になるリサからは殺気が漏れ始める。
これはリサが一人で行動する際にクロイツから渡された大切な指輪で、リサが危機的状況になった際にクロイツにその居場所を瞬時に教える事が出来る機能が付与されている唯一無二の物だ。
本当にそれだけの力しかないのだが、逆にどこにいても即居場所がわかると言う優れものでもあるので、力のない物が見ればただの宝飾品に見えてしまう。
目の前の男ロゼッタは今のリサにとっては取るに足らない雑魚であるのだが、本人は得意そうに話を続ける。
Aランカー最強のリサの機嫌がこれ以上ない程悪化しているとは気が付かないまま……
「だからよ?この俺、Bランカーのロゼッタ様が舐められねー様にお前を指導してやるぜ?その指輪、寄越せ!」
「……クズが。何を言いたいのかと思えば、難癖をつけて指輪が欲しいだけ。物乞いですか?だったら物乞いらしく、媚び諂いなさい!」
周囲の冒険者から見れば、この場の最強Bランカーに真っ向から反論している新顔冒険者と言う図に映っている。




