クロイツの新たな生活(4)
クロイツ達を引き入れたい各国の言い分の中で、最悪の言葉を発した者がいた。
「クロイツ様、あなたには弟子……リサと言う女性がいたようですな。その者は今武者修行をしているとか。貴方を手中に入れたい各国が、弱い所から攻めて脅して来る。これはある意味常套手段です。いえ、勘違いしないでいただきたい。決して我が国が率先してそのような事をしようとは思っておりませんが。例え話ですよ?」
明らかにリサを攻撃するぞと脅してきたのだ。
その場でその男を物理的に丸裸にして、気配察知で周囲の存在を全て把握しているクロイツは大声でこう告げる。
「ここにいる各国の間者共に告げる。バレていないとは思うなよ。例えばそこのお前とお前!そしてそっちのお前や、そこで夫婦のふりをしているお前らもだ。まだまだいるが、面倒だからこの辺りにする。良いか、一度しか言わねーから耳の穴かっぽじって良~く聞けや!こいつみてーに俺の弟子に手を出す様な事を言ったり行動に移そうとしたら、その国ごと容赦なく叩き潰す!良いか、脅しじゃねーぞ!さっさと帰って、この事実を上に余す事無く伝えろ!」
暫く会っていないリサに対して自分のせいで余計な刺客が送られ、剰え傷付けられてしまっては自分を制御する自信が無かったクロイツは、真っ裸にされて大通りに転がされている男を指し示して、その思いを直接的に告げる。
既にSランカーの称号を得ているので、今迄の常識では測れない力を持っていると認識しているこの場の間者達。
あっさりと間者であると看破された事もあって、クロイツが消えた直後に慌ててこの場を去り、自国に戻る者、遠距離連絡用の魔獣を使って報告する者、様々だ。
これ以上自分が表に顔を出していると、どう考えても騒がれる事は間違いないと思い、クロイツは少々引きこもる事を決めた。
この騒動の中にはクロイツの祖国であるナスカ王国の間者もおり、クロイツの力は本物である事、クロイツとは、第一王子のクロイツである事が報告された。
クロイツにしてみれば間者はひとくくりに感知しており、態々どこの国家の者なのかは区別していない為に、祖国から自分の姿を知っている人物がこの場に来ているとは思わなかった。
ナスカ王国は誰一人としてクロイツにしていた過去の行いは覚えておらず、再び王族の身分を確約すれば喜んで戻ってくると思っていたので交渉のチャンスを伺っていたのだが、その後にクロイツの姿はギルドでも城下町でも一切見かける事が出来ずに、その思惑は外れる。
同時に本人がいない以上苛烈な囲い込みは無くなり、クロイツの脅しも有って、リサに対する調査や近接を誰も行わなかった。
「ってなわけでな、俺は再びダンジョンの中の鳥になったわけだ」
『クロイツ様、言っている事が良く分からないけど?』
当の本人は、いつもの崖の上……村人からは視認できない位置でポチと共にのんびりとしている。
「まぁ、気にすんな。やっぱり国はめんどくせーって事だよ」
『そうなんだ~』
ポチにはその辺りは分かる訳もなく、クロイツには心安らかに過ごして欲しいと言う思いだけがある。
少し元気のないクロイツに対していつもの通り、フサフサな尻尾を優しく撫でつけつつ会話を続ける。
『クロイツ様。僕も人の事を村人と騎士達を見て勉強しているけど、地上の冒険者って厳しいんだね。突然詳細不明と言われている敵の始末をたった一人に強引に頼むなんてね?』
世間話のつもりで、少し前の昆虫型の魔獣の事を言っているポチ。
ゆったりした気持ちでポチの話を聞いていたのだが、思い起こせば確かに少し不自然ではある。
Aランク以上の脅威、つまりSランク推奨案件を安易にBランカーに対して半ば強制的に勧めているのだから……
どう考えてもその依頼をこなした場合、普通の状態では調査すらできずに死亡する事は想像に難くない。
冒険者のレベルに応じた依頼受発注を厳しく監視する立場の受付が、そのような事をして良いのだろうか?
あの魔獣は人里から離れており、人里や街道に近づく素振りは無かったし、発見者の報告でもそのようになっていたはずだ。
ある意味藪を突くような行為をさせる……クロイツがリサとは個別で、単騎で動くとなった直後の依頼であるのも怪しい。
そもそもクロイツは冒険者として異能を使って活動するようになってからは、細々した作業を苦手としているのは周知の事実であり、そこには調査・報告も当然含まれるのだが、少々長い付き合いになっている受付はその程度は理解できているはずだ。
「確かに……な」
ポチの何気ない一言から、ギルド、それも自らの専属の様になっている受付であるミューテルに対して疑念が膨らんでいるクロイツだ。




