クロイツのダンジョン攻略(3)
一方の狼に見える魔獣は攻撃の素振りすら見せずに、じ~っとクロイツを見つめているだけ。
取り敢えず攻撃してこないのなら、遠距離でその首だけを収納してやるか……と、クロイツが収納魔法を行使しようとした所、恐らく魔力の揺らぎを感知したのだろう。
突然クロイツの頭に何かが伝わってくる。
『待って下さい。僕は貴方と戦うつもりはありません』
「ほへ?」
突然明確な意思が飛んできたので、視線は狼の魔獣から外さないまま取り敢えず一旦攻撃を中止する。
すると、狼の魔獣はその巨体をゆっくりと横たえて腹を見せたのだ。
「あれ?これって……」
『そうです。降参です。今を持ってあなたがこのダンジョンの制御権を持つ事になります』
何とも拍子抜けの結末。
戦いもせずにクロイツはいつの間にか到達していた最終階層のボスを撃破していた。
『あなたに勝てる未来が浮かびません。僕も命は惜しいですから……』
ここまで人間味のある魔獣となると、クロイツとしても無断でダンジョンに押し入り、ある意味全てを強奪しようとしていた立場である為に少々腰が低くなる。
「えっと、申し訳ない。無駄な戦いが無いのは助かる……」
いつの間にかダンジョン最下層に到着して守護している魔獣を戦闘なしで下したクロイツは、人間味あふれる狼型の魔獣に事情を説明する。
「……ってわけでな、さしあたり五人ほど、地上の村と変わらない環境で過ごさせてやりたいわけよ」
『うぅぅぅ、なんて気の毒な……もちろん大歓迎ですよ。と言うよりも、クロイツ様!そんなふざけた連中は、根絶やしにするべきではないですか?僕も協力しますよ!!』
すっかり打ち解けたのは良いが、魔獣としてはここまで優しい性格とは思っていなかったクロイツ。
会話が成り立つとは知らなかったのでそこにも驚いたものだが、やはり最下層の魔獣らしく、ほとばしる魔力と存在感は相変わらずだ。
「えっと、他のダンジョンのボスもお前みてーな連中ばっかりか?だとしたら、もし今後ダンジョンを攻略する機会があった時には、色々配慮しないとならねーからな」
『う~ん、他のダンジョンの事は良く分からないんですよね。その辺りは気にしないでも良いんじゃないですか?』
何とも言えない回答を貰ってしまったが、一応移住の許可も貰えたし、一先ずリサの元に帰る事にするクロイツ。
「そんじゃ、ちょっくら戻って五人を連れて来るぜ。何階層がよさそうだ?」
『クロイツ様が管理できるので、好きに調整できますが?でも、ある程度深くないと襲撃時に不安ですよね?』
「まぁな。襲われた経験を持つ力の無い女性だからな。そんな事が絶対に無い状態にしてやりてーのは、その通りだ。だがよ、俺はダンジョンの管理は……ここまでしておいてなんだが、向いてねーと思うんだ。このままお前に頼みてーんだがな」
『クロイツ様のご指示であれば、お任せください。じゃあ、下層に広大な平原と森。そこに見た目だけは小さい僕に似た魔獣を配置して、安心を与えて……って、クロイツ様!住むところは?!』
「そういやそうだな。ポチの力で何とかならねーか?例えば、大きな木の中をくりぬいて、家っぽくするとか。あ、そうそう。暑さ寒さがあるとちょっときついかもしれねーな」
『……クロイツ様。ポチって誰?』
「ん?あれ?俺そんな事言った……のか?悪い。無意識でお前の事をそう呼んだみてーだ」
『そうなんだ。じゃあ、これから僕はポチだね。フフ、ポチか。初めての名前、嬉しいな』
この時にクロイツは何かがポチと深く繋がった気がしたが、取り敢えずあまり時間がないし害はなさそうなので放置した。
ポチは何やら知っていそうで、その瞬間から若干口調も変化があるが……
「で、出来そうか?」
『うん。出来るよ。環境も……少し涼しい感じにできるし、奇麗な小川も準備しておくね。食事は野菜を自生させるし、少しは動かないといけないから畑って言うんでしょ?それも準備しておくよ。肉は、配置した狼の魔獣に取ってこさせれば完璧!』
さしあたり服とか布団とかはあの村から持ってこられそうなので、取り敢えずは何とかなったと胸をなでおろすクロイツ。
「じゃ、一旦戻るぜ。急がねーと、弟子に約束した時間を守れねーしな」
『クロイツ様。僕が1階層に送ろうか?すぐだよ?』
ダンジョンの制御権を持っていれば、ダンジョン内部の転移は自由自在だ。
もちろんクロイツも制御権を持ってはいるのだが、既にポチに一任しているので直接その機能を使う事は出来ない。
そもそも、制御などと言う面倒くさい事をするつもりもないので、迷う事なく元の管理者であるポチに一任したのだ。




