ブサ村(4)
「少し黙らねーと、ついうっかりグサッと行くかもしれねーな」
クロイツの表情と手に持っている小刀を見て、さんざん喚いていた男は一瞬で黙り、目には涙が溜まっている。
「テメーはこの状況を理解する必要はねーよ。俺達は全てを知っている。リサの両親に奴隷紋を刻んだのがテメーだって事もな」
眼を見開いたまま固まる男を見て、村長は嘘を言っていなかったと判断したクロイツ。
「で、リサ。こいつどうする?お前が厳しければ、俺が代行してやっても良い。何がしたいか言ってみろ」
男はおそらく命乞いでもしているのだろう。
リサに視線を向けて、必死で何かを訴えている。
「お父さんもお母さんも、突然自由を奪われて、何も悪くないのに殺されたんですよね?」
「……そうだ。残念だが、それは間違いないだろう」
クロイツの少し悔しそうな声がこの場に響く。
リサの言葉を聞き逃さないように男も非常に大人しくなっていたのだが、このままいけば暗い未来しかないと思ったのか、再び何かを激しく訴える。
「師匠、先ずは何を言いたいのか聞いてみます。それで判断させて頂いても良いでしょうか?」
「リサの判断を尊重するが、想像通りだと思うぞ?」
「それでもです。申し訳ありません、師匠」
「いや、構わんさ。おい、今からお前の猿轡だけは外してやる。村長にも言ったが、大声を出そうもんなら命はねーぞ。今ここに村長がいない事、誰も助けに来てねー事から、どうなったかはわかるだろ?」
虚実織り交ぜて脅しているクロイツに対して只々頷くしかできていない男の猿轡を外すと、堰を切ったかのように男は話し出す。
「俺は、命令に従っただけだ。組織に逆らえば俺の命はなかったんだ。本当は嫌だったんだ、こんな商売。もう二度とこんな事はしない。だから、今回だけは見逃してくれ!頼む!!俺には家族がいるんだ!!」
ここまで聞いて、これ以降の話は耳に入らなくなっていたリサ。
本当に想像通り下種の極みとも言えるセリフばかり。
人を不幸のどん底に落として自分達は豪遊までして、危機が迫ると手のひらを返して責任逃れをした挙句に命乞い。
師匠が言っていた通りだな……と思いつつ、どうしようかと頭を悩ませる。
「大丈夫か?」
その姿を見て、相当ショックを受けているのかと勘違いしたクロイツが優しくリサを抱きしめながら心配してくれている。
思わず笑みが漏れてしまったが、この後の扱いを任されていたと気持ちを切り替える。
「師匠、ありがとうございます。もうこれ以上話を聞く気はありません」
「だよな」
言うや否や、既に男は猿轡をかませられていたので必死でモガモガ言っている。
「本当は相当苦しめたいのですが、そこまでは出来そうにありません。せめて止めだけは刺したいですが……こんな我儘、言っても良いですか?」
いくら決心したと言っても、やはり何も経験がない10歳の少女。
長く苦しめるような行為は出来そうにないのだが、絶対に許せないと葛藤して出した結論だった。
「わかった。師匠であり兄である俺に任せておけ。少しこの場を外すぞ。最後の止めになったらもう一度来る」
「ありがとうございます、師匠……」
色々葛藤しているが故に最後は尻すぼみになるリサの頭を軽く撫で、門番の男と共に消えるクロイツ。
「ここならいくら叫んでも良いぞ。何なら俺を返り討ちにすればテメーの命は助かる」
門番は、何が何だか分からなかった。
少し前までは明日王城に向かってそこから隣国行きの馬車に乗り、その先で違法に集めた奴隷を捌いて得た報酬を使って豪遊しようと胸を躍らせていたのだが、突如として現れたグレートオーガ二体をあっさりと始末した冒険者によって拉致されたのだ。
あろうことか村長の家に突然移動し、最大の秘匿事項としていた組織についても暴かれ、リサの両親について問い詰められた。
何とか村長に危機を伝えて助けを求めようとしたのだが、村長の家である事は間違いないのに、その場に村長はいなかった。
この冒険者の口ぶりから既に始末されたのかもしれないと思い、恐怖におののいていた。
そして現在に至る。
この男、反射的に命乞いをしていた時に言っていた家族などいるわけもないので、如何に自分だけでも良いので助かるのかを必死で考える。
「冒険者殿……様。俺を見逃してもらえれば、虹金貨百枚(10億円)近い財宝の在処をお教えします。何卒ここは……」
「それはこれか?」
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