リサの能力(1)
「リサ、既に身体強化は使っているな?」
「はい。師匠の言いつけ通り、常に使っています!」
街道を疾走している二人。
「よし、そのまま周囲の気配を探るように意識しろ」
「……難しいですが、やってみます!」
その後リサは真剣な表情をしたままクロイツと並走する。
当然クロイツはリサの為に相当速度を落としているのだが、既に一般的な身体強化持ちの冒険者と比較するとはるかに速い移動速度になっている。
ここでもクロイツの異能である育成が大きな効果を発揮していた。
移動しながら気配察知を行っているのでリサはその後集中しているのか一言も話さなく、いや、話せなくなっていた。
そんな余裕は何処にもなくなっていたのだ。
流れるように周囲の景色が動き、その速度の中で足場を注意しつつも周辺の気配を瞬時に察知する。
余裕があろうはずもないのだがやはり異能の影響下にあるので、突然かなり先に少々大き目の魔獣の存在を感知した。
「師匠!あっちに大きな魔獣が一体……あっていますか?」
「良くできたぞ、リサ。どれどれ……良し!気配察知もモノにしたな。身体強化と同じく暫く使い続ける様に!」
他の冒険者達の常識を知らないリサは、普通であればあり得ない事を言っているクロイツの指示に嬉々として従う。
異能の育成環境下にあれば普通の冒険者でも常時スキルを発動させて熟練度を上げる事は出来るが、一般的には得たばかりのスキルを複数継続使用すると脳を始めとした体がついてこないのでそもそも発動すらできない。
そこを無視して発動できるのも、育成の能力の影響下にあるからだ。
師匠大好き病を発症しているリサは、クロイツの言う事には一も二もなく従う。
一般常識を得ていない状態である事も一因ではあるが、そうでなくとも何が有ろうとも従っているだろう。
こうしてリサを育てつつ移動しているのだが、流石にクロイツは本気で移動していない為に一日では到着する事が出来ずに野営の準備をする。
「リサ、今のところは気配察知で対応可能だが、早いうちに環境適応も取る事にする。そうすれば夜目も聞くし、熱い寒いも……はその外套があれば良いかもしれないが、なくても良くなるからな」
「はい!でも師匠、できればこの外套は使わせて頂きたいのですが……」
再び炸裂する、必殺上目遣いに瞬殺されたクロイツ。
「お、おぉ。そうしてくれると外套も喜ぶんじゃねーか?」
「本当ですか?ありがとうございます!!」
クロイツは赤くなりつつも、訳の分からない事を言ってこの場をやり過ごして再び本題に戻る。
「身体強化で移動速度や体力、そして攻撃に対する耐力も上がるが、捌いたりする技術は身につかねー。そこを考えると体術も取る必要がある。今晩から軽く動きを教えるぞ」
「嬉しいです、師匠!!」
厳しい鍛錬であってもクロイツと共に過ごせる事に喜びしか感じないリサは、胸の前で手を組んで祈るようなしぐさで喜びを表している。
『う~ん、明らかに俺になついてくれちゃーいるが、10歳だからな。流石に前世の記憶によれば犯罪、事案発生だ。ここは自重しないとな』
と、再びどうでも良い事を考えているクロイツ。
その日の夜は野営の訓練も兼ねて近くの獣を狩って捌き、火を起こして食事をする。
その後の見張りは気配察知を寝ながら行使する修行と言う事で、二人共に寝る事にした。
移動中に離れた箇所にいてリサが感知していた魔獣が近づいている気配を察知したクロイツは、即座に目覚める。
横には安心しきった表情でスースーと寝息を立てているリサがいて、思わずほっこりしてしまう。
そもそもリサは気配察知を得たばかりで寝ながら発動できるのかどうかと言った熟練度である上、察知範囲もクロイツとは比べ物にならない。
場合によっては、今回は自分が対処しておくか……としばらく様子を見る。
クロイツの希望的観測ではこのまま魔獣はどこかに離れて貰う事が最善だったのだが、残念ながら魔獣は明らかに野営時に起こした火から立ち上っている煙を目指して進んでおり、徐々に距離が近くなっている。
「そろそろ狩るか?」
クロイツが気配察知を持っているリサでも気が付かないように静かに仕留めようと起き上がったところ、当然リサが目を覚ました。
「師匠!あっちに魔獣が来ています!」
「……リサ、スゲーぞ!もう習得したのか!!流石じゃねーか!!」




