各場所で(3)
ポチの眷属である狼の魔獣を通しての詳細な意思疎通は不可能なのだが、あらかじめサインを決めておけばどれだけ離れてもダンジョンにいるポチを中継して即連絡をする事はできる。
今回は、右足で地面を三回叩く素振りをすればシシリー達を発見したとサインを決めてクロイツとリージョは眷属を一体伴い個別に行動する。
クロイツは転移が可能である事からグアトロ王国ではなく他に連れ去られた可能性を含めて広範囲の調査をする事にしており、あっという間にこの場所から消えて行き、リージョは姿を消してベルヘルトの屋敷に向かって調査を開始する事にしていた。
「グフフフ、さぁ、シシリー。お前の主人であるこの私、グアトロ王国を支えているポーションを生産している錬金術師組合の頂点である会長の私を称えるのですよ?この意味が分かりますかね?つまるところ、グアトロ王国の頂点は私と言う事です。そんな私の伴侶になれるのですから、光栄に思ってくださいね」
奴隷契約があるので逃げられるわけはないのだが、敢えて自分自身が扉を背にしてシシリーと向かい合っているベルヘルト。
嫌悪感でいっぱいになっており涙が流れているシシリーだが、逃げる事は出来ずに、今尚目の前で不気味な笑顔を浮かべながら無駄に膨らんだお腹を揺らして話しているベルヘルトと強制的に向き合っている。
「シシリー、あまりに態度に改善がないと、如何に寛大な私でも少々強引な手を使わざるを得ないのですよ?もうこうして何日過ぎましたか!私が笑顔でいるうちに、自ら……そう、自ら積極的に行動して頂かなくてはなりません!」
ここで言う行動とはベルヘルトを褒め称え、更には求愛の姿勢を示す事を言っているのだが、今の所命令ではないのでやはりそこまではしたくないと心が拒否して動けずにいる。
「私はここまで譲歩したのですがね?ご理解いただけませんか」
呆れた表情に変化した状態でシシリーを抱きしめんとベルヘルトから両手が伸びるので、恐怖と嫌悪感から目をきつく瞑って震えてしまうシシリー。
「やはりブタでしたか。師匠の想像通り過ぎて呆れますね。私のファンを拉致するなど……それも主になるなど有ってはならない事態です」
聞き覚えのある声に目を開けるシシリーは、いつの間にか自分がリージョに非常にそっくりだと思っていた客に抱えられてベルヘルトから若干距離を取っている状態になっている事に気が付く。
リージョが一旦この場から一気に逃げないのは、シシリーに対して奴隷契約がなされているので、解除しなければ命の危険があると知っているからだ。
「お前!!店でリージョになりきっていた不届き者か!どうやって私の屋敷に入ってきたのか知らないが、飛んで火にいる……ブヘッ」
「やっぱりこいつかよ。想像通り過ぎて呆れるぜ!」
リージョが侵入した際に中途半端に開いていた扉が再び一気に開き、その扉にぶつかって前のめりに倒れ込むベルヘルト。
クロイツは同行している狼の魔獣が右足で地面を三回叩く素振りを見せた事から即座にこの場に転移したのだが、とりあえず部屋の中に一気に転移すると能力が明らかになってしまう可能性があったので、扉の前に転移して一気に扉を開いだのだ。
こうして無様に前のめりになっているベルヘルトと、少し離れた位置でリージョに抱えられている無事なシシリーのいる部屋に侵入する。
「おい、クソブタ野郎。テメーは許せねー一線を平気で超えやがったな。そんなクソみてーな奴にはこの俺から嬉しい知らせだ。そのブクブク肥えた体をスマートにしてくれる環境に招待してやる。で、そんなテメーには俺に対するお礼としてアロッサーラの居所を教えてもらおうか。どう調べてもこの辺りにはいねーからな。間違いなく出国しているだろう?」
「と、突然人様の屋敷に侵入して何を訳の分からない事を!無礼だぞ!そもそも、赤の紋章と正式契約をしている以上、外部の人間にとやかく言われる謂れはない」
焦りか怒りか、話し方も少し変わってきているベルヘルトに対してクロイツは比較的冷静だ。
「外部の人間……ね。まぁ、テメーがポーションの原材料に俺の町の魔核が無けりゃ―作れねーと大嘘こいているのは知っているからな。そう言った意味では俺とテメーは無関係じゃねーんだよ」
ベルヘルトの前に回り込みながら、未だ前のめりになっているベルヘルトの頭をペシペシ叩きながら話すクロイツ。
「はっ、ここでもクロイツになりきるか!貴様らはグアトロ王国の影の国王であるこの私ベルヘルトに逆らったのだ。無傷でこの屋敷を出られると……」
説明が面倒になったクロイツは、自らが持っている冒険者カードを徐にベルヘルトに見せると共に、リージョにもこう指示を出す。
「リージョ、何を言ってもこのブタ野郎は信じねーだろうから、お前のカードも見せてやれ」
「わかりました、師匠」
クロイツのカードにはSランク、当然リージョのカードにはSSランクとの記載があり、冒険者ギルドから発行されるカードは今迄の技術の全てが詰まっているので偽装できない事は誰しもが知っている。
「ま、まさか……」
ベルヘルトはガタガタ震えだし、未だリージョに抱えられているシシリーはカードを直接見える位置にはいないが、間違いなく今自分を抱えてくれているのは“黒套のリージョ”本人であると理解して、感動と安堵で震えながらリージョの胸に顔を埋めている。
「これでわかったか?俺は、俺達は偽モンじゃねーんだよ。残念だったな。で、あまりこう言った事は言いたくねーが、俺達の力、ギルドに対する力、それと、俺の町と懇意にしている各国に対する力も理解しているよな?」
「は、はい!」




