初競り(1)
「こちらです」
目立って競りを楽しむ事が出来ない事を嫌っているのだと判断したベンゾンは、敢えて名前を呼ばず競りの会場にリージョを案内した。
「ありがとうございます。楽しみですね。ベンゾンさんの品物は何時頃競りにかけられるのですか?」
「今日は私の納品が遅かった事、それとあれほどの品を納品した事もありますので、最後……どれほど今回他の商人達の納品があるのかは来たばかりなのでわかりませんが、通常であれば一時間後と言った所でしょうか」
「そうですか。ありがとうございます……ところで、残念な事にこの場所にも赤の紋章の方がいるようですが?」
暗黙の内に合法化されているかのような事になっている主付きの赤の紋章の奴隷がこの場にいる事に気が付いたリージョは、折角楽しくなってきた気分が台無しになったと頭を振るのだが……特段惨い扱いを受けていない場合には強制的に取り上げるような事は出来なかったので、クロイツやリサと決めていた通りの行動を起こす事に決める。
それは、赤の紋章持ちの存在に気が付いた段階で現時点での主の言い値で助け出す事だが、赤の紋章を持つ者がその行為を否定……つまり、主と共にありたいと思っていれば手を引く事にしている。
実際今迄の経験で数人がこのような状態になっており救出しなかった事があるのだが、その主たちは漏れなくクロイツのように懐が深く、赤の紋章を助けるつもりで購入した者達だった。
「まだ始まりませんよね?少し失礼しますよ」
ベンゾンもクロイツ達の方針は伝えられているので、口は出さずにリージョの帰りを黙って待つが、視線は一応リージョを追っている。
奴隷の紋章は項にあり、大概の者はその紋章を隠すべく髪を伸ばしたりしているので普通の人では気が付く事は出来ないのだが、リージョには全く関係が無い。
主であろう人物と共にいる対象の人物を観察しながら近接するリージョは、この短い時間で今回の赤の紋章は救出対象になると確信している。
その人物の表情、しぐさ、栄養状態、その全てを瞬時に把握して検討した結果なのでほぼ間違いなく良い扱いは受けていないと判断した。
「まさかグアトロ王国でも未だに存在していたとは……調査不足が否めませんね」
こう呟きながらも主である人物の目の間に行くリージョ。
「少しお話をしたいのですが、良いでしょうか?」
「あん?俺は忙しいんだけどよ?なんだ?」
予想通りに香ばしい雰囲気ではあるのだが、会話だけは出来そうなので先ずは競りの前に騒がれるのが嫌で隠していた身分を打ち明けるために冒険者カードを提示する。
「私はこう言う者です」
「あ?……え?」
目の前のフードを被った男がリージョ本人だと理解して、だんだん尻すぼみになる男に対して騒がないように釘をさす。
「あまり騒がないでくださいね。それで、私をご存じなのでしたら、私達がどのような活動をしているかもご存じですよね?」
当然赤の紋章を奴隷商で買い漁っている頃からクロイツ達の行動は有名になっており、今では赤の紋章を匿って町を作っている事も広く知れ渡っているので、コクコク頷く男。
「私は納得していませんが、確かに奴隷は合法。奴隷に落とされた手段が違法の赤の紋章でも、正規に購入した場合は合法とみなされているのも事実。ですが、奴隷側の立場では到底納得いかないでしょう?ですから私達は購入者の資産保護も行うようにしています。今回、貴方はお幾らで購入しましたか?」
購入と言う言葉も使いたくないのだが、早く助け出したいために余計な言い回しはしないリージョ。
流石にただの男が、SSランカーを前にして強気に出られるわけもない。
「白金貨80枚(800万円)だ」
「なるほど。他の方はいますか?」
「いや、俺が買えたのは一人だけだ」
「そうですか。では、これで私に譲っていただけませんか?」
リージョが出したのは虹金貨2枚(2千万円)であり、悩まれるよりも一気にケリをつける時にはこの方が良いと経験上知っていたが故の行動だ。
一方の男は力任せに奪われるか値切られるかを想像していたのだが、まさかの金額で購入すると言っている事から即決する。
「わかった。ちょっと待ってくれ」
自らの指先に針を刺して即座に赤の紋章に着けて主の契約を放棄すると、嬉しそうに虹金貨をリージョから受け取りこの場から消えて行く。
残された赤の紋章を持つ一人の女性は、状況がつかめずに放心状態だ。
『今回は……競りは諦めましょうか。楽しみにしていましたが仕方がありませんね』
内心こう思いつつも、リージョは目の前の女性に優しく話しかける。
「もう大丈夫ですよ。私はリージョ、“黒套のリージョ”です。ご存じかもしれませんが、私の師匠が統治しているダンジョン町ではあなたの様な紋章を持たされた人々が幸せに生活しています。貴方もそこで生活して頂こうと思っていますので、安心してください」
表情に変化が無い女性だが、その頬には喜びからか安堵からか、涙がつたっていた。




