メバリアとベナマス(2)
賃貸契約の未払い期間が予想以上に長かった事をリーナから告げられたメバリアは、その場で契約解除まで必要な金額を思わず計算してしまった。
「2年!未払いの違約金虹金貨240枚(24億円)と、通常の契約で虹金貨24枚(2億4千万)!それに契約解除の虹金貨6枚(6千万円)……総額虹金貨270枚(27億円)……」
メバリアの言葉に絶句するこの場の貴族達だが、固まっていても事態は改善しないのでリーナの言っていた場所から契約書と支払い証明書を持ち帰る。
「なるほどな。さっきメバリア姉さんが言った通りの金額を支払えば済む状態って事か」
「そうかもしれないが、クロイツ殿。虹金貨270枚(27億円)だぞ!そんなお金は今のナスカ王国にはない。今回の情報を聞いて何とか集めたのが虹金貨20枚(2億円)で、これ以上は相当厳しい」
「わかっているって、メバリア姉さん。だけどよ?そこまで悲観的になる事はねーと思うぜ?この契約書をもう一度よく読んでくれよ」
そう言われて再び契約書に目を落とすメバリアと、同時に周囲の貴族達も必死で契約書をみているのだが、ある項目に視線が固定される。
「この、故意に契約を違えるような行動をして相手方に損害を与えた、または準ずる行為をした場合、全ての契約を無効にできる……これか?」
「ご明察!もうここまでくりゃー何が言いてーかわかるだろう?リージョから聞いたが、相当な狸みてーじゃねーか?だとすれば、絶対に罠にはまるはずだ」
すっかり素が出てしまっているクロイツだが、周囲の貴族達も伊達に自ら復興を行っているわけではなく頭脳も相当である者達が揃っているので、クロイツの言わんとしている事は理解できていた。
「んじゃーよ、その方向で頼むぜ?まっ、ダメなら俺達が補助するから心配ね~よ」
「ふ、ふふふふ、任された。本当に頼もしい異母弟で嬉しい限りだ。これからもよろしく頼むぞ、クロイツ殿」
「当然だ、メバリア姉さん。一応リージョはこの場に留まるからよ、何かあれば頼ってくれ。頼んだぞ、リージョ。ホラ、行くぞ。テメーの尻拭いの為にここに連れて来ただけだからな。本来は日の光なんぞ拝める立場じゃねーんだよ!」
窓の外の景色を悲しそうに見ているリーナを強引に立たせてこの場から消えて行くクロイツだが、リーナの行いを誰しもが知っているのでこの場の誰一人として同情する事は無かった。
「それでは、陛下。少々策を練りましょうか」
そして翌日……確実に立場が上で、間もなくナスカ王国を支配下におけると思っているベナマスは朝も早くから王城にやってきた。
「どうですかな?違約金を含めて未払い分の準備はできましたかな?まぁ、あの宿はそこそこ立派でしたから、当方としてはもう少し待っていても良いですが……」
ベナマスは確実に支払い金を準備できていないと確信しており、且つ復興中の国家とは言え宿が自国のどの宿よりも過ごしやすかった事から、無料でもう少し泊まってメバリア達が苦しむのを待つつもりでいた。
欲望丸出しでベナマスとお付きの者達までニヤニヤした表情を隠しきれていない事から、今回の作戦は成功するだろうと思いつつも慎重に事を進めるメバリア。
「昨日もお伝えしたが、契約がある事は情報を仕入れていたのですが契約書すらない状況で、写しを頂いて良く読ませて頂いた状態なので、正に現状を把握しようとしている所でして……可能であれば、請求書と言う形で明確な金額を頂くわけにはいかないだろうか?」
「請求書……ですか。まぁ、当方は出しても良いですが、仮に払えないとなれば分割になると思いますが。当然その際には相応の追加費用が発生しますが、大丈夫ですかね?」
実際に請求書を作成するのは大した手間はかからないので、国王ではなく悪徳商人のように、間違いなく一括で払えない時の利息に該当する部分の念を押しておくベナマス。
「当然の言い分だと思う。契約である以上、やむを得ないだろうとは思っている」
「なるほど。であれば結構です。正式な請求書を起こしましょう。しかし、メバリア陛下も苦労なされますなぁ。いくら中途半端に血がつながっている者の尻拭いとしても、とてつもない額を支払う事になるのですから。その諸悪の根源とも言える先代、いや、先々代になるのでしょうかな?契約書の原本と共に突然表舞台から消えた事には同情しますが、契約は契約と言う事でご容赦頂きたい」
「……承知している。こちらも友好国であるゼリア帝国から派遣されている人材もいるので、そこを通じて援助のお願いをしようと思っている所だ。なるべくベナマス王国との契約を順守して追加の費用が発生しないようにする」
通常であればこのメバリアの発言は非常にありがたいはずなのだが、若干眉を顰めるベナマス。
『そうだった。コイツはダンジョン町とか言うふざけた町のクロイツだけではなく、ゼリア帝国とも繋がっていたのを忘れていた。新興のクロイツが治める町程度などで大金を準備できるわけもないはずで、そうなると……まずいな。せっかく利子をつけて支配下に置いてやろうかと思ったのが駄目になる……いや、こうなれば当初の予定よりも少々遅延期間を延ばした状態の請求書を作れば良いだろう』
結局自分自身で完結して余裕の表情を取り戻すベナマスだが、これこそがメバリア達の罠だとは知らない。
欲深いベナマスであれば、少し前まではメバリアが滞納期間すら理解できていない事位は把握しているはずであり、その状態で後ろ盾がいる事を匂わせれば支払い能力ありと判断して期間を有り得ない程長期にして請求書と言う物的証拠を作ってくると思っていた。
まんまと策にはまったベナマスは間もなくこの国が労せずして手に入ると心躍らせつつ再び高級な宿にお供と共に戻って行き、部屋に残っているメバリアや貴族、そしてゼリア帝国から派遣されている文官は“したり顔”だ。
「上手く行ったようですな、メバリア殿」
「フフ、止めは貴殿がいてくれたおかげだ。これからもよろしく頼む、アントニア殿」




