リサの爆発と思わぬ幸運(2)
自分達のダンジョンを守ろうと言う意識があったおかげか、目の前の逃走経路上にいる魔獣……とは言ってもSランクの魔獣であり、普通の冒険者では手も足も出ない魔獣なのだが、その魔獣が邪魔で避ける行動をとったおかげでリサに追いつかれてしまったクロイツとリージョ。
この頃にはリサの視線はクロイツのみに固定されており、背後からの殺気を感じ取ったリージョは無意識下で退避行動をとって事なきを得たのだが、クロイツはあまりのリサの圧力に、この攻撃を避けると余計にリサの怒りのマグマの威力が増すと覚悟して一撃を受ける。
……ドゴン……
「グベェ」
追いかけている勢いのまま下からかち上げるような蹴りをクロイツに見舞ったリサの攻撃の音は、普通のケリではありえない音がすると同時にクロイツを上空に吹き飛ばす。
……バキッ……
勢いに乗った事、リサのリミッターが怒りによって切れていた事からとんでもない威力の攻撃を受けたクロイツは、有ろう事か3階層の天井を突き破ってその姿が消えて行く。
……ドドン……ドン……ガラガラ……
そして続く同じような破壊音から察するに、クロイツは吹き飛ばされた勢いは3階層の天井を破壊するだけでは収まらなかったようで、2階層、その上の1階層の天井まで破壊して地上に貫通したようだ。
「あ、あれを私が食らっていたら……恐ろしい」
退避行動によって事なきを得ているリージョは、どちらかと言うと暗殺特化の自分の現時点の実力では今の攻撃をまともに受けきる事は出来ないと寒気がしていた。
クロイツを元気付けるために起こした行動が結果的にクロイツに致命傷を与えてしまったかもしれないとの思いはあるのだが、今この場にクロイツがいないと言う事実に気が付いてリサの説得にかかる。
「リ、リサ、落ち着いて聞いて下さい。実は、リサも気が付いていた通りに師匠が家の件で落ち込んでいたので、元気になってもらいたくてお酒を飲みに行ったのですよ。そこは……しょ、正直に言うと女性もいましたが、全員が師匠を始めとした私達のファンで、本当にやましい事は無く楽しく過ごす事が出来ました。リサが戻ってきてから、師匠が落ち込んでいる気配を感じましたか?」
先ずは一気にある程度真実を話す事で少しでも落ち着いてもらおうとしたリージョであり、リサとしても一撃を放出する事で少し落ち着いたのか、その言葉を全て理解する事が出来ていた。
「確かに師匠が落ち込んでいる気配はありませんでしたね。ですが、隠れてコソコソしていた事は間違いないですよね?」
「そ、そうかもしれませんが、事前に言うとリサは絶対に止めたでしょう?師匠にも息抜きは必要です」
必死のリージョは、天高く飛ばされて消えて行ったクロイツの行方を追う余裕はない。
逆にリサは、言われてみれば確かにそのとおりであり、自分としてもクロイツには元気になってほしいと思っていた事を思い出した。
「確かにお兄ちゃんの言う通りですね。ですが、そのお店には私も同行させてください。本当にやましい店ではないのか確認させて頂きます。万が一にも嘘であった場合は……」
「絶対に大丈夫です!大丈夫ですから!!先ずは師匠が無事かを確認しに行きましょう」
リサの脅迫とも言える言葉に被せるようにリサを落ち着かせるリージョと、その成り行きを震えながら見ている3階層に配置されているSランク魔獣と言う通常ではありえない空間が出来ているこの3階層の一角。
『リサ様、落ち着いた?クロイツ様はリサ様を裏切ったりはしないよ?そこはわかっているでしょう?』
リサが落ち着きを取り戻したのを確認してからこの場に現れたポチを怨めしそうに見ているリージョだが、ポチは視線を合わせないようにわざとリサだけを見ている。
「そ、そうですね。そうでした。私の大好きな師匠は私を、私達を裏切るような事は絶対にしない人ですから」
漸くリサが落ち着きを取り戻したのを確認できたリージョは、心底安堵する。
「わ、わかってもらえて本当に嬉しいですよ、リサ。じゃあ、師匠を探しに行こう!」
「うん!」
何故か3階層なのに地上の日の光が届くようになっているダンジョン……クロイツが情けない声を残して消えて行った場所なのだが、態々階層を移動する階段まで移動するのが面倒なのか、リサとリージョはそこから一気に飛び上がり地上に抜けて行く。
『普通、ダンジョンの壁って壊れる訳はないんだけどな……僕が全力で攻撃をしても傷をつける事すらできないのに……リサ様の力と、クロイツ様の有り得ない防御力が合わさったからかな?そう言えばクロイツ様も初侵入時に迷路の階層の壁を平気で壊していたし』
この場に残されたポチは、二人が消えて行った方向を呆れた表情で見上げている。
少しして、貫通した穴から三人が飛び降りる気配を感じたポチはとりあえずこの大きな穴をどうするべきかを相談する事にしていた。
一応管理者として直せそうではあるのだが、ポチとしても思う所があったので即座に直す事はしなかったのだ。
「ふぃ~、えれー目にあったぜ。だが、リサの本気を見る事が出来たからな、そこは嬉しい所ではある」
「ご、ごめんなさい、師匠」
少しシュンとしているリサと、当然のように無傷でピンピンしているクロイツがリージョと共に戻ってきた。




