クロイツの動き
「あいつ等は現場に向かったか。あの気遣いがありがたいな……気を遣ってもらっちまったよ。だけどよポチ?あの二人は正真正銘血の繋がった兄妹だろ?少しは二人だけで楽しんでもらいてーよな。長く引き裂かれていたからな」
まさに今リサとリージョがリベラ王国で楽しい一時を過ごしているのだが、クロイツはそうなる事も望んで二人で早めに活動するように追い出したのだ。
「そんじゃ、俺も動くかね」
フワフワの尻尾を名残惜しそうに優しくどけて立ち上がると、行動に移る。
クロイツは今の闇の奴隷商の商会長は、弟のドレアか妹のリーナだと確信している。
どちら共に有り得るし、どちら共に不安要素……例えばドレアは組織を動かせるほど頭は良くないし、リーナはそのような立場になれるだけのカリスマ性があるのか大いに不安がある。
今言える事はクロイツの親、場合によっては両親共に先代の闇の奴隷商の商会長と言う立場か準ずる者であり、その権力をドレアかリーナのどちらかが引き継いでいるだろうと言う事だ。
実際はリーナが全てを引き継ぐのではなく奪ったのだが、<傀儡>のスキルを持っている事を知らないクロイツには、その考えに至る事はできない。
「手始めに、俺の生地に戻りますかねっと」
一瞬でナスカ王国の城下町が見える位置に転移するクロイツは、その後周囲を警戒しつつ魔力に影響のない範囲で連続して転移を行い、王城の中に侵入する。
既にドレアは騎士達と出国済みで気配を察知する事が出来なかったので、クロイツの調査対象になり得るのはリーナのみになる。
『随分と成長したな、リーナ』
数年逢っていないので目に見えて成長した事を心中呟くクロイツだが、その視線は相当厳しい。
何せリーナの手にある手紙はミューテルが状況を説明した手紙であり、そこにはリサやリージョが数日後にリベラ王国に向かう事、今回クロイツは対応しないであろう事が書かれていたからだ。
「あと数日は猶予があるはずですね」
手紙を折りたたんで鍵付きの引き出しにしまったリーナは、そのまま部屋を出ていく。
「はぁ~、リーナかよ。だが、ドレアと共に商会長って……んなわきゃねーな。あんな馬鹿に権力を持たせるなんざ、イカれた奴のする事だ」
きっちりと<鑑定>で<傀儡>のスキルを持っている事を把握しているクロイツは、リーナが商会長である事に少々悲しみつつも今後の行動について思案する。
リーナを拉致する事は非常に容易いが、散らばっている幹部達を野放しにしてしまう事になる。
さすがに巨大組織であろう事は推測できているので、手足の先までは完全に対処する事は出来ないが、頭に近い者達を潰すだけで大きく環境を変える事はできる。
「少し様子を見て、判明している幹部共だけでも潰すしかねーか?」
クロイツはこの段階で<傀儡>を自らの異能である<スキル剥奪>で奪っているので、リーナ自身の危険度を大幅に下げている。
リーナが既に与えてしまった深層心理への影響はなかなか取り去る事はできないが、これ以上の命令は出せない。
今の所はその対象はドレアや近衛騎士、それと闇の奴隷商幹部連中の一部だろうと言う事だけを記憶の片隅に留めておく。
その後クロイツはある程度城内を調査し、そこに赤の紋章持ちがいない事を確認すると再びポチの元に戻っていつもの場所で寛ぐ。
「リーナだったとはな。あの妹が……へんてこりんな<傀儡>なんていう力を持っちまったばっかりに、狂ったのか?」
『クロイツ様、力が有っても無くても変な奴は変だと思うよ?』
確かにポチの言う通りにクロイツの異能の中身も相当な力が有るのだが、それでもリーナ達のような行動を起こす事は無かったのは若干前世の記憶があったからだろうか?
「ありがとよ。だが、あいつもそうだがドレアもいなくなると、俺の故郷、ナスカ王国はどうなっちまうのかね?」
『え~?僕には難しい事はわからないよ、クロイツ様』
クロイツは、弟妹や近衛騎士達については完全に割り切ることはできるのだが、一応元王族として民については少々思う所があるので、王族が一気に不在になってしまう事による混乱をどう抑えるのかも考える必要があった。
「これなら、隠し子とかいれば助かるんだがな……とは言っても、王族だけいても仕方がねーよな。アルファやベータとか言った、見るも無残な連中ではなく、しっかりとした騎士や宰相がいないとな」
何の気なしに呟いていた一言だが、後にクロイツはこの希望とも言える言葉が事実である事を知り驚愕する事になる。
実はこの時点で、その事実が記載された手紙を収納魔法の中に持っていたクロイツ。
ナスカ王国の宝物庫から一気に中身を持ってきた際に、とても普通では見つけられない場所においてあった手紙なのだが、収納魔法によって一気に回収した事によって保管する事が出来ていたのだが、今の所はその手紙に気が付いてはいない




