再びリベラ王国(1)
リベラ王国はリサを救出したブサ村があった場所であり、クロイツがミューテルと初めて会った場所でもある。
その周辺にSランク魔獣の目撃情報が極めて多く、ひと騒動起こせば町に被害が出て大混乱になるのは間違いないと踏んでいるミューテル。
昼過ぎにもなればだらしなく寝ている冒険者達も徐々に活動を始めているので、早速クロイツ達の元に向かうミューテル。
依頼元はナスカ王国からの指名依頼になるのだが、クロイツ達には匿名の王族からの依頼として説明をする事にしているミューテル。
ナスカ王国の名前を出した段階で断られる可能性があるからだ。
他の冒険者達とは異なり、死屍累々のような状況にはなっていない三人のSランカー。
「少し宜しいでしょうか?」
落ち着いて飲み物……と言ってもお酒ではないものを飲んでいる三人に対して、優雅に近づいてそのまま椅子に座る。
「実は、とある国家元首から皆様にSランク魔獣の討伐依頼が来ております。Sランク魔獣の討伐実績は皆様しかありませんし、どう見ても他の冒険者では対応する事はできません。ご存じの通り、最近増え続けている目撃情報に対処するために、是非とも受注いただきたいのですが」
そう言って、リベラ王国周辺の目撃情報が書かれた紙を広げるミューテル。
確かに目撃情報が増えている事、王都に近く危険である事は理解できるので、全く信頼が無くなったミューテルを介した依頼だとしても受ける事にしたクロイツ。
「わかった。リベラ王国周辺のSランク魔獣……と言っても全部覚えられねーから、見た事のねー魔獣を手あたり次第始末すりゃー良いか?」
「は、はい。それでお願いできますでしょうか?」
「受けざるを得ねーだろ?だが、この依頼はリサとリージョで行ってきてくれ。俺は所用があるからな」
リサとリージョは、クロイツがその態度や口調からは考えられない程に頭の回転が速い事を理解し始めており、その上で今の言葉と最近の状況を考えると、おそらくミューテルの身辺調査か闇の奴隷商関連の情報収集を行うのだろうと判断して、異を唱える事はない。
ミューテルとしても、場をかき乱してリベラ王国が大騒動に見舞われれば良いので、依頼の受注処理を行う。
本来この処理は担当受付となっているミリアが行うべき物なのだが、今ミリアは酔いつぶれてダウンしており、業務が出来る状態ではなかった。
「そうだ!今回の依頼だが、達成すれば相当なランクだと証明できるだろ?その結果によっては、リサとリージョ、SSランク認定申請を頼んだぜ?」
「!!た、確かにその通りですね。承知しましたクロイツ様」
「師匠、師匠はどうされるのですか?」
「そうですよ。師匠を差し置いて私とお兄ちゃんがSSランクになるなんて」
完全に依頼を達成してSSランクになれる事を前提に話をしているリサとリージョだが、周囲の人達はその部分に関しては違和感なく聞く事が出来ているが、未だ酒が抜けきらない為に騒ぐ事はない。
「俺はいつもの場所でのんびり過ごせりゃー良いんだよ。もともとランクには興味ねーからな。当初は実入りの良い依頼が来るってんで、必要に駆られてSランクになっただけだ」
ダンジョン内部のお気に入りの崖の上で、ポチを背にしてフワフワの尻尾に撫でられながら昼寝する事を何よりも楽しみにしているのを知っているので、クロイツの言葉に納得するSランカー二人。
「では、依頼の方を宜しくお願いします。いつ出立されますか?通常は馬車で5日ですが、皆様なら1日程度でしょうか?」
ミューテルの問いに素直に答えそうになっている二人を制止するように、クロイツが即回答するが、肯定も否定もしない内容だ。
「まぁ、そんなところだろうな。今日は準備があるから、明日向かわせる。それで良いだろう?」
「はい。ではこちらが目撃されている魔獣の情報になります」
ある程度の姿絵があり、確かに地上では見た事のない魔獣ばかりが描かれていた。
実際はクロイツ達が拠点にしているダンジョン内部に山ほどいるのだが……
「ほい、これで明日から頼んだぜ?今日は……酒が抜けきってねーから戻ろうぜ?」
「わかりました、師匠」
「はいっ、師匠!」
三人を見送るミューテルの視線を感じつつ城下町から出ていく三人は、街道から外れてクロイツの転移によってダンジョン前に移動し、即侵入してポチの転移によっていつもの崖の上に移動する。
「師匠、あの場では明日と宣言していましたが、そんなわけはないですよね?」
「そりゃーそうだろうよ、リージョ。あの女に真面な情報を与えるべきじゃねーよ。何を企んでいるかは知らねーがな。あいつらの組織もSランク魔獣の多数の目撃情報と言う状況で何かしら動く事にしたんだろ?だからこのチャンスにミューテルはもとより、その元凶……俺の元弟か妹だと思うが、そいつらの情報を仕入れようと思ってな」
「……師匠、私もそちらに同行しましょうか?あの程度のSランク魔獣であればお兄ちゃんで十分対応可能だと思います」
「確かにリサの言う通りですね。師匠の方にサポートがいた方が良いと思います」




